2round
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小さい頃から、TVも碌に見れないような環境だった。
ライフラインなんかしょっちゅう止められちまうし、家ん中はいつも真っ暗だった。
知らない男が出入りすることが多くて、俺は外にいる事が多くなった。
つっても行くあてもねぇから、よくでけぇ交差点にある、これまたでけぇモニターでぼんやりニュースなんかを見てた。そこぐらいしかTV見れねぇから。
それに、ヒーローが活躍したら必ずそこには映った。
いつも見るヒーローはTVの中だけだった。
でも、やっぱりヒーローはかっこよかった。危険を顧みず、個性と腕っぷしだけで敵を倒していく姿は憧れた。
俺はと言えば、個性があっても黙ってそのシールドを挟んでじっと殴られる時間が終わるのを待つ始末…。
痛くはねぇが、苦しかった。
そういえば…
ある日家に帰ったら母が死んでいた。
俺が6歳とかそんくらいの時だったと思う。
母の周りには見たことのない男達が3人ほどいた。
「こいつ、この女の子供か?」
「おっと坊や。勘違いしないでくれよ。お前の母ちゃんは俺たちがきた時にはもう死んじまってたんだからよ」
そばには注射器が落ちていた。
「…ガキは顔が綺麗だな。個性以外でもなんかに使えんだろ。女からは金も回収できなさそうだし、代わりに烏丸さんとこに連れてくぞ」
倒れている母の顔は今まで見たことのないほど穏やかだった。
俺はそれがとてつもなく、腹が立って、許せなかったのを覚えている。
何故。
何故、この女がまるで全てを許されたかのように安らかな世界に行けるのか、と。
俺はそのまま家を飛び出した。
後ろで男達が何か叫んでいた。
あいつらから逃げたかったんじゃない。
俺も死んでやろうと思った。
決して母の後を追おうなんて思ったわけじゃない。
ただあまりに不公平で理不尽だと思ったのだ。
俺だって救われたかった。
あの女が救われるのなら、俺が許されない理由は何なのだ?
俺の罪は何だ?
俺が、愛されない理由は何なのだ?
俺は廃ビルの屋上から飛び降りた。
そう。確実に飛び降りたんだ。
なのに生きてた。
俺はヒーローにこんな時に限って助けられちまった。
そいつは変なヒーローだった。
静かなヒーローだった。でも言葉数の少ないその姿はどこか威厳を感じさせる不思議な男だった。
俺に死ぬなだの、生きてヒーローになれって言ってきた。
何言ってんだこいつって思ったんだけど、そのヒーローが醸し出すオーラはTVで見るトップヒーローのそれで、お前ならなれるみたいな調子のいい事言われたのを…ちょっと嬉しく思っちまったのを何となく覚えてる。
ヒーローは俺に怪我がないのを確認したらすぐに立ち去ろうとした。
最後に、振り向かずに言われた言葉は今でも忘れられなかった。
ーーーお前はヒーローになる。
今思えば自殺しようとした子供をそのまま放置するなんてヒーローらしからぬ行動だから、ありゃヒーローじゃなかったのかもしれねぇけど
。
あの頃の無知な俺は、本当にそうなったらいいなんて…馬鹿な事思っちまったんだ。
いつかヒーローみたいに戦えるくらい、強くなりたかった。
だから、地下でファイターしてる時も…本当は強くなればヒーローと自分が少しでも近い存在になれるんじゃないかなんて少し思ってた。
全くの別物なのにな。
そんな無知な俺も、烏丸のもとでファイターやってるうちに現実というものを嫌でも見せつけられる。
それなりに自分の立場というものをわきまえてるつもりだ。
15にもなればもう立派な裏社会の人間気取りだ。
「名前、そろそろ次の試合だ」
「はーい」
控え室でぼんやりTVを見ていたら烏丸さんがいつの間にかいて後ろから声がかかった。
「…はぁ、コイツにこの前取引を台無しにされた」
「んー?」
突然脈絡のない話が降ってきたので何のことかと思ったら、烏丸さんはTVに映ったそいつを指差した。
「使えそうな個性を持った子を何人か買えそうだったんだがな。コイツが俺たちとは全く無関係の
TVにはとてもヒーローっぽくねぇ顔つきのやつが映ってた。確か数年前にプロヒーローデビューを果たしたばかりだと言うのに大活躍中のヒーローだ。言動も個性も荒っぽくておまけにヒーロー名も派手。
とにかく荒っぽい。
でも今このヒーローを知らない奴はほぼいないだろうってくらい強えし、弱い連中はみんな頼りにしちまうんだろう。
ヒーロー…。
ヒーローか。
俺をあの日助けたヒーローは今でも誰だったのかわからない。いつの間にかあれは夢だったのではとすら思っていた。
烏丸さんが俺の背中をそっと押す。
「さ、今日のファイトは頼むぞ。個性はギリギリまで使うな」
「はーい」
薄暗い廊下を歩いていく。
わかってる。
俺が強くなるのは、生きるためだ。
昔みてぇに強くなればヒーローに近づけるなんて甘いこと考えちゃいねぇ。
俺は1人で生き残って見せる。
そこでふと足を止める。
なんで、俺は生き残りたいんだろう?
生きて、何をしたいんだろう?
答えを探そうとしたところで、廊下の先から観客の喚き声や歓声が聞こえてきた。
答えなんて、わかってる。
こんな人生しか歩けない俺でも、
死ぬのが、怖いだけ。
たった、それだけ。
一度は死のうとしたくせに笑っちまう。
でもこのまま生き続けることと、死ぬことと、どっちが怖いかなんて考えたくなかった。
この時ばかりはいつも耳障りにしかならない観客の声に感謝した。
俺は重い鉄の扉を押した。