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例の闘技場に入るのは簡単だった。
廃ビルの地下へ続く階段の前に、ホームレスを装った男が2人。
くたびれたコートの下には屈強な体が隠されているのがわかった。
そいつらに会員証を無言で見せると「お入りください」と小声で言われ、そのまま階段へと足を踏み入れた。
昼間だというのに、一歩その階段に踏み出した瞬間夜の淵へと突き落とされたような感覚になった。目の前には暗闇が落ちている。
終わりの見えない階段をどこまで降りていくのかと思いはじめた頃、遠くで音が聞こえた。
おそらく大勢の人間の声。
降りていくにつれそれは大きくなった。
一つの鉄の扉の前に立った。
ドアは勝手に開いた。その瞬間溢れる大勢の歓声と熱気。眩しいスポットライトに目の奥が痛み、眉を寄せる。突然スピーカーから爆音が流れてきた時のように俺は不快な気持ちになった。
「…っせぇ」
俺の悪態も簡単に掻き消される。
扉を潜ると目の前には円形の闘技場が見えた。それを囲むように観客席があるようだ。
空席を探すのが大変なほど人でごった返している。俺はそいつらの間を縫うように進んで、適当に闘技場が見えるスペースに落ち着いた。
「次の試合が始まります」
無機質な電子音声が響いた。
俺の左側の歓声が大きくなったのを聞いて、そちらに目をやると大柄な男が通路から登場した。
ボクサーのような出立の男は円の中心に立ち、観客たちを煽るようなポーズを取ったり、大声で何か喚いていた。
ここまではただのプロレス観戦をしているのと大差ないように感じていた。
すると今度は右側の通路から対戦相手が現れた。
それを見て俺はため息をついた。
「…どう見たって未成年だろうがよ」
それは少年だった。
大人びては見えるが、おそらく高校生くらい。
顔は綺麗に整っていてこの場にあまりに不釣り合いだった。
その異様な雰囲気に一層場内が沸いた。
少年がTシャツの上に着ていたオーバーサイズの黒いパーカーを脱ぐと、それを場外に放り投げた。会場の女達が黄色い声をあげた。一丁前にファンもいるようで、この少年の参加が初めてではないのが裏付けされた。
それに少年は細身だが確かに鍛えられている体であることが見て取れる。先程から無表情で落ち着き払った様子も含め、かなり場数を踏んでいるように思えた。
ということは、例の個性を使用して荒稼ぎしている未成年のファイターとはこいつのことだろうか。
「はじめてください」
またあの電子音声が響いたと思ったらボクサー風の男(ボクサーでいいな)が、一気に少年との距離を詰めた。そのまま右ストレートを繰り出すが、避けられる。
「…ほぉー」
ボクサーもなかなか素早いが少年は紙一重で攻撃を避けている。その間に少年も相手との身長差を活かしてボクサーの足元に回し蹴りを入れたりと攻撃も忘れない。軽い身のこなしでボクサーの死角に回り込んで確実に攻撃のチャンスを増やしていく。
しかし少年の方が優勢に見えた試合も中盤で雲行きが怪しくなる。
「…っぐ‼︎」
疲労からか、スピードが落ちた少年にボクサーの蹴りが入る。咄嗟に腕を盾にするが少年はその体が宙に投げ出された。
受け身をとって体制を立て直そうとするがすぐさまボクサーが詰め寄ってきて避けるのも精一杯という感じだった。
俺は何か違和感を感じながらその試合を見る。
おそらく、今少年は個性を使っているのだろう。
少年はもう立っているのもやっとだろうというぐらい殴られ、蹴られ、額の皮膚は切れて血が流れている。今度は両手で頭を押さえつけられたと思ったら膝蹴りをもろにくらっていた。
「…胸糞わりぃ」
このファイトのルールは相手が戦闘不能になるまで試合は続けられ、相手をKOさせなければ勝つことができない。
途中で誰も止めに入ることが許されない。
思わず両手からニトロが出そうになる。
ボクサーが勝ちを鼓舞するようにふらふらの少年の胸倉を掴み上げた。誰もがこれで少年が負けるだろうと思った時だった。
少年は両手で相手の頭を掴んだと思ったらそのまま頭突きをかましたのだ。
ゴンっと鈍い音がここまで響いた気がした。
観客のどよめく声の中、2人ともその場に倒れた。
皆押し黙って倒れた選手2人を見つめる。しばらくして試合の勝敗はどうなるのかと観客達がザワザワした頃。選手はボロボロの体に鞭を打って体を起こした。
そこらじゅうに血痕を残した床から起き上がってきたのは1人だけだった。
観客の絶叫。
電子音声の声が何とか聞き取れた。
「勝者、名前」
廃ビルの地下へ続く階段の前に、ホームレスを装った男が2人。
くたびれたコートの下には屈強な体が隠されているのがわかった。
そいつらに会員証を無言で見せると「お入りください」と小声で言われ、そのまま階段へと足を踏み入れた。
昼間だというのに、一歩その階段に踏み出した瞬間夜の淵へと突き落とされたような感覚になった。目の前には暗闇が落ちている。
終わりの見えない階段をどこまで降りていくのかと思いはじめた頃、遠くで音が聞こえた。
おそらく大勢の人間の声。
降りていくにつれそれは大きくなった。
一つの鉄の扉の前に立った。
ドアは勝手に開いた。その瞬間溢れる大勢の歓声と熱気。眩しいスポットライトに目の奥が痛み、眉を寄せる。突然スピーカーから爆音が流れてきた時のように俺は不快な気持ちになった。
「…っせぇ」
俺の悪態も簡単に掻き消される。
扉を潜ると目の前には円形の闘技場が見えた。それを囲むように観客席があるようだ。
空席を探すのが大変なほど人でごった返している。俺はそいつらの間を縫うように進んで、適当に闘技場が見えるスペースに落ち着いた。
「次の試合が始まります」
無機質な電子音声が響いた。
俺の左側の歓声が大きくなったのを聞いて、そちらに目をやると大柄な男が通路から登場した。
ボクサーのような出立の男は円の中心に立ち、観客たちを煽るようなポーズを取ったり、大声で何か喚いていた。
ここまではただのプロレス観戦をしているのと大差ないように感じていた。
すると今度は右側の通路から対戦相手が現れた。
それを見て俺はため息をついた。
「…どう見たって未成年だろうがよ」
それは少年だった。
大人びては見えるが、おそらく高校生くらい。
顔は綺麗に整っていてこの場にあまりに不釣り合いだった。
その異様な雰囲気に一層場内が沸いた。
少年がTシャツの上に着ていたオーバーサイズの黒いパーカーを脱ぐと、それを場外に放り投げた。会場の女達が黄色い声をあげた。一丁前にファンもいるようで、この少年の参加が初めてではないのが裏付けされた。
それに少年は細身だが確かに鍛えられている体であることが見て取れる。先程から無表情で落ち着き払った様子も含め、かなり場数を踏んでいるように思えた。
ということは、例の個性を使用して荒稼ぎしている未成年のファイターとはこいつのことだろうか。
「はじめてください」
またあの電子音声が響いたと思ったらボクサー風の男(ボクサーでいいな)が、一気に少年との距離を詰めた。そのまま右ストレートを繰り出すが、避けられる。
「…ほぉー」
ボクサーもなかなか素早いが少年は紙一重で攻撃を避けている。その間に少年も相手との身長差を活かしてボクサーの足元に回し蹴りを入れたりと攻撃も忘れない。軽い身のこなしでボクサーの死角に回り込んで確実に攻撃のチャンスを増やしていく。
しかし少年の方が優勢に見えた試合も中盤で雲行きが怪しくなる。
「…っぐ‼︎」
疲労からか、スピードが落ちた少年にボクサーの蹴りが入る。咄嗟に腕を盾にするが少年はその体が宙に投げ出された。
受け身をとって体制を立て直そうとするがすぐさまボクサーが詰め寄ってきて避けるのも精一杯という感じだった。
俺は何か違和感を感じながらその試合を見る。
おそらく、今少年は個性を使っているのだろう。
少年はもう立っているのもやっとだろうというぐらい殴られ、蹴られ、額の皮膚は切れて血が流れている。今度は両手で頭を押さえつけられたと思ったら膝蹴りをもろにくらっていた。
「…胸糞わりぃ」
このファイトのルールは相手が戦闘不能になるまで試合は続けられ、相手をKOさせなければ勝つことができない。
途中で誰も止めに入ることが許されない。
思わず両手からニトロが出そうになる。
ボクサーが勝ちを鼓舞するようにふらふらの少年の胸倉を掴み上げた。誰もがこれで少年が負けるだろうと思った時だった。
少年は両手で相手の頭を掴んだと思ったらそのまま頭突きをかましたのだ。
ゴンっと鈍い音がここまで響いた気がした。
観客のどよめく声の中、2人ともその場に倒れた。
皆押し黙って倒れた選手2人を見つめる。しばらくして試合の勝敗はどうなるのかと観客達がザワザワした頃。選手はボロボロの体に鞭を打って体を起こした。
そこらじゅうに血痕を残した床から起き上がってきたのは1人だけだった。
観客の絶叫。
電子音声の声が何とか聞き取れた。
「勝者、名前」