赤ずきんは誰のもの
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あれから2日経った。
名前は俺のために作ったことのない薬の作り方を調べて、試行錯誤する日々が続いていた。
その間薬が完成するまでは極力名前に触れないよう距離を置いた生活だった。
これは名前の邪魔をしないためと、出来る限り俺の性欲を刺激しないためだ。
しかしこれはこれでかなり堪える。
同じ屋根の下に24時間番と共にいるというのに、触れられないもどかしさと言ったら…。
たった2日でもかなりの心労だった。
最近は名前の姿を見ると自分の中に未だかつて感じたことのない激情を垣間見る。
その猛獣を極力刺激しないよう空をぼーっと見ては素数を数える時間がどんどん長くなっている。
そんな俺を時々心配そうに名前が見つめていることも何となくわかってて、申し訳ねぇやら情けねぇやら複雑な気持ちだった…。
「カツキ、ごめん…こんな植物森で見かけた事ない…?」
そんな中、名前が控えめに声をかけてきた。空から視線を移すと名前は俺が見えるギリギリまで近づいて分厚い本を開いて見せていた。
かなり古い本のようだった。紙は色褪せてページの端は綻びている。
文字も…見たことのない文字だ。相当古いものだろうか。
小さな指先はそのページの中の一つの挿絵を指差していた。
「そいつなら見たことある。必要か?」
「うん。頼めるかな?」
当たり前だ。俺のために作ってくれる薬の材料だぞ。
ほとんど徹夜で試作を繰り返している名前の役に立てるターンが回ってきたことに嬉々とした俺は、すぐに森に入る準備をして出発した。
途中俺の匂いに気づいたメスに絡まれるが全部一蹴する。
クソが。
最近触れられてねぇせいか、名前の匂いが薄くなっちまってる。
目当ての植物は記憶の通り、谷の入り口に植生していた。
頼まれていた分だけそいつらを丁寧に、素早く引っこ抜く。
そして、どこか焦っている自分に気づく。
発情期中は番から離れれば離れるほど不安な気持ちになる。
近くにいようが、遠くにいようが、俺たちは相手を求めるようにできている。
俺は走り出した。
名前の家に向かって。
森を出て、しばらく走って、遠くに家が見え出して胸を撫で下ろした時だった。
黒い外套を羽織った、見たことのない人間が玄関から慌てた様子で出て行くのが見えた。
どくりどくり。
痛むほど心臓が脈打つ。
なんだ?
誰だ?
あいつは誰なんだ?
目の前がかっと赤くなった。
そこからは最速で家まで走り、壊れそうな勢いで玄関の戸を開けた。
「名前?!!」
「わ!!っびっ…くりした…っ!!どうしたの?!」
ハッと息を吐いた。
名前はいつも通りそこにいた。
「大丈夫?!何かあったの?!」
名前がこちらに駆け寄ろうとしたのを慌てて片手を突き出して制した。
…今近づかれると何するかわからねぇ。
体温が上がり、心臓が悲鳴を上げる。
抑えきれぬ激情を感じた。
それを察したのか、びくっと肩を揺らした名前は足を止めた。
「な、んでもねぇ…知らねぇ奴が、ここから出てくのが見えた…から」
早る呼吸を整えながら名前から距離を取る。
「あ、うん。薬が欲しいって訪ねてきただけだよ」
安心させるように穏やかな声で名前が話し出す。
「それで同居人が酷い風邪ひいてて、うつすといけないからってちょっと急いで帰ってもらったんだ」
こういう時に他の人の匂いが家に残るとよくないかなと思って…。
そう続けた名前の気遣いに俺は救われた。仲間には、発情期の狼男の番に近づくなんて命知らずな奴はいない。殺されても文句は言えないだろう。
ふーっと息を長く吐いて何とか興奮を鎮めようとする。
だが、わずかに残る別の人間の匂い。
嫌だ。
嫌だ。
イヤダ。
名前は渡さない。
俺のものだ。
オレ以外ニフレサセナイ。
自分に流れる血液が熱くなる。
疼く牙と爪。
本能と欲望に理性が喰われていくのがわかる。
あぁ。
このままじゃやべぇ。
どっか、名前を遠ざけねぇと。
「カツキ!待っててもう薬できるから!」
そう言った名前の声がかろうじて耳に届いた。
そうだ。
抑制剤さえ飲めば。
俺の中の獣を抑えているものはそれだけだった。
俺が集めてきた薬草を名前が慌てて奥へ持っていくと、しばらく静かになった。
俺の鼓動だけがうるさい。
どのくらいそうしていただろう。
床に座り込んで、ただ耐える。
熱を上げていく体を引き裂いてしまいたい。
名前を引き裂いてしまう前に。
「カツキ!これ…!」
はっと顔を上げた。グラスに並々と桃色の半透明な液体が注がれたそれを、溢さないよう、だが急いで手に持ってきた名前が見えた。
息を吐く。
間に合って良かったという安堵と、名前に無理させちまったなっていう申し訳なさが熱い吐息に混ざって吐き出される。
しかし随分甘い匂いのする薬だと思った。
俺はそれを受け取るため手を伸ばした。
だが次の瞬間、名前はそのグラスを俺に手渡すどころか、口をつけて勢いよく酒でも飲むように煽った。
「は?」
名前は俺のために作ったことのない薬の作り方を調べて、試行錯誤する日々が続いていた。
その間薬が完成するまでは極力名前に触れないよう距離を置いた生活だった。
これは名前の邪魔をしないためと、出来る限り俺の性欲を刺激しないためだ。
しかしこれはこれでかなり堪える。
同じ屋根の下に24時間番と共にいるというのに、触れられないもどかしさと言ったら…。
たった2日でもかなりの心労だった。
最近は名前の姿を見ると自分の中に未だかつて感じたことのない激情を垣間見る。
その猛獣を極力刺激しないよう空をぼーっと見ては素数を数える時間がどんどん長くなっている。
そんな俺を時々心配そうに名前が見つめていることも何となくわかってて、申し訳ねぇやら情けねぇやら複雑な気持ちだった…。
「カツキ、ごめん…こんな植物森で見かけた事ない…?」
そんな中、名前が控えめに声をかけてきた。空から視線を移すと名前は俺が見えるギリギリまで近づいて分厚い本を開いて見せていた。
かなり古い本のようだった。紙は色褪せてページの端は綻びている。
文字も…見たことのない文字だ。相当古いものだろうか。
小さな指先はそのページの中の一つの挿絵を指差していた。
「そいつなら見たことある。必要か?」
「うん。頼めるかな?」
当たり前だ。俺のために作ってくれる薬の材料だぞ。
ほとんど徹夜で試作を繰り返している名前の役に立てるターンが回ってきたことに嬉々とした俺は、すぐに森に入る準備をして出発した。
途中俺の匂いに気づいたメスに絡まれるが全部一蹴する。
クソが。
最近触れられてねぇせいか、名前の匂いが薄くなっちまってる。
目当ての植物は記憶の通り、谷の入り口に植生していた。
頼まれていた分だけそいつらを丁寧に、素早く引っこ抜く。
そして、どこか焦っている自分に気づく。
発情期中は番から離れれば離れるほど不安な気持ちになる。
近くにいようが、遠くにいようが、俺たちは相手を求めるようにできている。
俺は走り出した。
名前の家に向かって。
森を出て、しばらく走って、遠くに家が見え出して胸を撫で下ろした時だった。
黒い外套を羽織った、見たことのない人間が玄関から慌てた様子で出て行くのが見えた。
どくりどくり。
痛むほど心臓が脈打つ。
なんだ?
誰だ?
あいつは誰なんだ?
目の前がかっと赤くなった。
そこからは最速で家まで走り、壊れそうな勢いで玄関の戸を開けた。
「名前?!!」
「わ!!っびっ…くりした…っ!!どうしたの?!」
ハッと息を吐いた。
名前はいつも通りそこにいた。
「大丈夫?!何かあったの?!」
名前がこちらに駆け寄ろうとしたのを慌てて片手を突き出して制した。
…今近づかれると何するかわからねぇ。
体温が上がり、心臓が悲鳴を上げる。
抑えきれぬ激情を感じた。
それを察したのか、びくっと肩を揺らした名前は足を止めた。
「な、んでもねぇ…知らねぇ奴が、ここから出てくのが見えた…から」
早る呼吸を整えながら名前から距離を取る。
「あ、うん。薬が欲しいって訪ねてきただけだよ」
安心させるように穏やかな声で名前が話し出す。
「それで同居人が酷い風邪ひいてて、うつすといけないからってちょっと急いで帰ってもらったんだ」
こういう時に他の人の匂いが家に残るとよくないかなと思って…。
そう続けた名前の気遣いに俺は救われた。仲間には、発情期の狼男の番に近づくなんて命知らずな奴はいない。殺されても文句は言えないだろう。
ふーっと息を長く吐いて何とか興奮を鎮めようとする。
だが、わずかに残る別の人間の匂い。
嫌だ。
嫌だ。
イヤダ。
名前は渡さない。
俺のものだ。
オレ以外ニフレサセナイ。
自分に流れる血液が熱くなる。
疼く牙と爪。
本能と欲望に理性が喰われていくのがわかる。
あぁ。
このままじゃやべぇ。
どっか、名前を遠ざけねぇと。
「カツキ!待っててもう薬できるから!」
そう言った名前の声がかろうじて耳に届いた。
そうだ。
抑制剤さえ飲めば。
俺の中の獣を抑えているものはそれだけだった。
俺が集めてきた薬草を名前が慌てて奥へ持っていくと、しばらく静かになった。
俺の鼓動だけがうるさい。
どのくらいそうしていただろう。
床に座り込んで、ただ耐える。
熱を上げていく体を引き裂いてしまいたい。
名前を引き裂いてしまう前に。
「カツキ!これ…!」
はっと顔を上げた。グラスに並々と桃色の半透明な液体が注がれたそれを、溢さないよう、だが急いで手に持ってきた名前が見えた。
息を吐く。
間に合って良かったという安堵と、名前に無理させちまったなっていう申し訳なさが熱い吐息に混ざって吐き出される。
しかし随分甘い匂いのする薬だと思った。
俺はそれを受け取るため手を伸ばした。
だが次の瞬間、名前はそのグラスを俺に手渡すどころか、口をつけて勢いよく酒でも飲むように煽った。
「は?」