赤ずきんは誰のもの
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暖かい日差しの中、風にのってふわりと香る花の匂い。
あぁ、名前って花の香りに似てるなぁ。
いつも薬になる草とか花とか触ってるからかな?
森に入ってすぐ、木々がなく少し開けた場所がある。日差しがたくさん降り注ぐそこには低層に生える草本が沢山あって、名前は先程から熱心にそれらを採取していた。
花が咲き誇る森の中で歌を歌いながら草花を愛でる僕の番は、この世界の何よりも美しく愛らしい生き物だと思った。
僕はそんな名前の膝に頭を乗せて寝転がり、最高の時間を過ごした。
珍しくかっちゃんは一緒じゃない。
何か森の狼男たちがザワザワしてたから様子見てくるって言ってた。
僕はもう小さい頃から群れとは袂を別れてしまったから、気楽なもんだ。
草花を仕分けながら、気まぐれに名前が僕の頭を優しく撫でてくれた。
…あー。いいな。
この時間が永遠に続けばいいのに。
優しい日差し、髪を撫ぜる優しい手と、肌を滑る穏やかな風。耳を心地よく揺らす名前の歌声、花と愛しい人の匂いーーー。
「…名前」
「ん?」
「その歌好き」
「僕も。歌は全部おばあちゃんが教えてくれたんだ」
あ、薬のこともだね。
そう続けた名前に頷きながら、でも何か、そうじゃなくて、ってもどかしい気持ちになって少し考えた。
そう。
その歌が好きなんだけどさ。
「名前が歌ってるから好き」
そうそう。そういうこと。
名前が好きなものは、僕も好き。
名前の、全てが好き。
名前だから、好き。
「なんか照れるなぁ」
「続き歌って?」
歌うのを止めてしまったことに気づいて催促する。
頬をほんのり赤くして恥ずかしがりながら歌う君はなんて尊いんだろう。
恍惚とするほど穏やかな気持ちになる。
本当に、時間が止まってしまえばいいのに。
名前が薬草の仕分けをする手を止めて、僕の頭を撫でてくれるのが幸せで幸せで…。
ずっとこうなりたかった。
君が僕を助けてくれたあの日から。
ずっと君だけを想って。
本当にこんな日が訪れるなんて夢みたいだ。
その時、視界の端にオレンジ色の何かが映り込んだ。
「…その花は何の薬になるの?」
「え?これ?」
また名前の歌を遮ってしまったな。
でも、また歌ってってお願いしたら名前は僕のためにまた歌ってくれるよね?
名前は今籠から取り出したオレンジ色の花を、自分の鼻に近づけて匂いを嗅いでいた。
「これね、薬にはならないんだ」
「へぇ?そうなの?」
じゃあ何で摘んだの?
そう言いたげな僕の表情を読み取ってか、名前は続けた。
「この花カツキがいい匂いがするって言ってたから、お土産に家に飾ろうかなって思って」
ズクリ。
穏やだった水面に突然石を投げ込まれたように心に漣がたった。
何の悪気もなく、屈託なく笑う名前に罪悪感を覚える。
そう君は、悪くない。
ただ僕の知らない…君とかっちゃんが2人で過ごしてきた時間があるだけ。
「…そうなんだ」
頭では冷静なつもりでも、口からはそんなたった一言を搾り出すだけで精一杯だった。
名前の番になれたところで、その時間の差はどうしたって埋めることは出来ない…。
「…ねぇ、イズク。イズクの好きなものも教えてよ」
「ぇ」
僕はできるだけこの感情を表情には出さないようにしていたつもりだけど、突然そんなことを聞いてくる名前に、顔に出てしまっていたのかなと驚く。何か悟らせてしまっただろうか?
「イズクの好きなものとか、もちろん嫌いなものも知りたいな。イズクのこともっと教えてよ」
「名前…」
あぁ。君はやっぱり優しいな。
そうだよね。
過去は変えられなくても、僕らにはこれからの未来がある。
これからはずっと一緒なんだから。
そんな気持ちにさせてくれる君が本当に愛しい。
「ね、何が好き?」
「名前」
「えー?そうじゃなくて何か好きな色とか食べ物とかさぁ」
「名前の全てが好き」
「!、もー」
そうちょっと怒ったように言いながらも、嬉しそうに笑ってくれる君が…僕は。
僕は名前の膝から起き上がると、名前に顔を近づけて唇を押し当てた。
拒絶されないことに安心して、角度を変えて何度もその花びらのような唇を喰んだ。
顔を離せば恥ずかしそうに俯く名前。
「本当だよ。君の全てが好きなんだ」
「…っ」
本当だよ。本当に本当なんだ。
僕が君だけを想って生きてきたこれまでの人生と覚悟を甘く見ないでほしい。
名前の手元で風に揺れたオレンジ色の花が咎めるようにこちらに傾いた。
それをそっと奪い取ると、籠の中に静かに入れてしまった。
すると頬を赤く染めた名前が小さな声で話し出した。
「…イズク、僕ね。君のこともカツキのことも本当に大切だよ」
「うん」
「でも時々不安だよ。それって、2人にはとても残酷なことなんじゃないのかなって…」
「…」
人間の感覚で言えば、そうなのだろう。
人の言葉や生活、知識を学ぶために長らく人間と偽って生きてきたから分かる。その気持ちもわかってるつもりだ。
愛した人には、同じように愛されたいものだ。
でも僕たちは狼男だし、1人の強い狼男が何人も番を持つことは当たり前だったし、逆もまた然り。
それに、今のこの3人の形は僕とかっちゃんが望んだのだ。
何よりそう、きっと僕が。
「違うよ。僕が望んだんだよ」
「でも…」
「そりゃ時々名前を独り占めしたくなるよ。でも、かっちゃんがいなければなんて思わないよ」
「…本当?無理してない?」
それでも僕を心配してくれる名前に、今度は安心してもらわなきゃって、名前には笑ってて欲しいって…何か必死な気持ちになった。だからさっきまでの嫉妬なんかどこかへ行ってしまった。
だって君を想えば僕はどこまでだって強くなれるから。
名前の慈悲に満ちた瞳をまっすぐ見て言う。
「無理なら番になってなんて言わなかったよ。それに僕も、名前とかっちゃんのこと本当に大切に思ってるよ」
その薬で少し荒れてしまってる小さな手を握る。
名前が笑う。
そうそう。名前はそうでなくちゃ。
名前が笑顔じゃなきゃどんな薬だって僕らを元気付けることはできないんだからさ。
「僕たちを信じて」
信じて。
例え嘘でも。
信じてよ。
例え嘘をついたとしても、それは名前の笑顔と、僕たちの幸せを守るためだけにつく嘘だから。
だからーー。
「…うん。わかった」
柔らかく笑う名前を今度は抱きしめる。
だから、信じて。これからも。
それに今日言ったことは、全部本心だから。
あぁ、名前って花の香りに似てるなぁ。
いつも薬になる草とか花とか触ってるからかな?
森に入ってすぐ、木々がなく少し開けた場所がある。日差しがたくさん降り注ぐそこには低層に生える草本が沢山あって、名前は先程から熱心にそれらを採取していた。
花が咲き誇る森の中で歌を歌いながら草花を愛でる僕の番は、この世界の何よりも美しく愛らしい生き物だと思った。
僕はそんな名前の膝に頭を乗せて寝転がり、最高の時間を過ごした。
珍しくかっちゃんは一緒じゃない。
何か森の狼男たちがザワザワしてたから様子見てくるって言ってた。
僕はもう小さい頃から群れとは袂を別れてしまったから、気楽なもんだ。
草花を仕分けながら、気まぐれに名前が僕の頭を優しく撫でてくれた。
…あー。いいな。
この時間が永遠に続けばいいのに。
優しい日差し、髪を撫ぜる優しい手と、肌を滑る穏やかな風。耳を心地よく揺らす名前の歌声、花と愛しい人の匂いーーー。
「…名前」
「ん?」
「その歌好き」
「僕も。歌は全部おばあちゃんが教えてくれたんだ」
あ、薬のこともだね。
そう続けた名前に頷きながら、でも何か、そうじゃなくて、ってもどかしい気持ちになって少し考えた。
そう。
その歌が好きなんだけどさ。
「名前が歌ってるから好き」
そうそう。そういうこと。
名前が好きなものは、僕も好き。
名前の、全てが好き。
名前だから、好き。
「なんか照れるなぁ」
「続き歌って?」
歌うのを止めてしまったことに気づいて催促する。
頬をほんのり赤くして恥ずかしがりながら歌う君はなんて尊いんだろう。
恍惚とするほど穏やかな気持ちになる。
本当に、時間が止まってしまえばいいのに。
名前が薬草の仕分けをする手を止めて、僕の頭を撫でてくれるのが幸せで幸せで…。
ずっとこうなりたかった。
君が僕を助けてくれたあの日から。
ずっと君だけを想って。
本当にこんな日が訪れるなんて夢みたいだ。
その時、視界の端にオレンジ色の何かが映り込んだ。
「…その花は何の薬になるの?」
「え?これ?」
また名前の歌を遮ってしまったな。
でも、また歌ってってお願いしたら名前は僕のためにまた歌ってくれるよね?
名前は今籠から取り出したオレンジ色の花を、自分の鼻に近づけて匂いを嗅いでいた。
「これね、薬にはならないんだ」
「へぇ?そうなの?」
じゃあ何で摘んだの?
そう言いたげな僕の表情を読み取ってか、名前は続けた。
「この花カツキがいい匂いがするって言ってたから、お土産に家に飾ろうかなって思って」
ズクリ。
穏やだった水面に突然石を投げ込まれたように心に漣がたった。
何の悪気もなく、屈託なく笑う名前に罪悪感を覚える。
そう君は、悪くない。
ただ僕の知らない…君とかっちゃんが2人で過ごしてきた時間があるだけ。
「…そうなんだ」
頭では冷静なつもりでも、口からはそんなたった一言を搾り出すだけで精一杯だった。
名前の番になれたところで、その時間の差はどうしたって埋めることは出来ない…。
「…ねぇ、イズク。イズクの好きなものも教えてよ」
「ぇ」
僕はできるだけこの感情を表情には出さないようにしていたつもりだけど、突然そんなことを聞いてくる名前に、顔に出てしまっていたのかなと驚く。何か悟らせてしまっただろうか?
「イズクの好きなものとか、もちろん嫌いなものも知りたいな。イズクのこともっと教えてよ」
「名前…」
あぁ。君はやっぱり優しいな。
そうだよね。
過去は変えられなくても、僕らにはこれからの未来がある。
これからはずっと一緒なんだから。
そんな気持ちにさせてくれる君が本当に愛しい。
「ね、何が好き?」
「名前」
「えー?そうじゃなくて何か好きな色とか食べ物とかさぁ」
「名前の全てが好き」
「!、もー」
そうちょっと怒ったように言いながらも、嬉しそうに笑ってくれる君が…僕は。
僕は名前の膝から起き上がると、名前に顔を近づけて唇を押し当てた。
拒絶されないことに安心して、角度を変えて何度もその花びらのような唇を喰んだ。
顔を離せば恥ずかしそうに俯く名前。
「本当だよ。君の全てが好きなんだ」
「…っ」
本当だよ。本当に本当なんだ。
僕が君だけを想って生きてきたこれまでの人生と覚悟を甘く見ないでほしい。
名前の手元で風に揺れたオレンジ色の花が咎めるようにこちらに傾いた。
それをそっと奪い取ると、籠の中に静かに入れてしまった。
すると頬を赤く染めた名前が小さな声で話し出した。
「…イズク、僕ね。君のこともカツキのことも本当に大切だよ」
「うん」
「でも時々不安だよ。それって、2人にはとても残酷なことなんじゃないのかなって…」
「…」
人間の感覚で言えば、そうなのだろう。
人の言葉や生活、知識を学ぶために長らく人間と偽って生きてきたから分かる。その気持ちもわかってるつもりだ。
愛した人には、同じように愛されたいものだ。
でも僕たちは狼男だし、1人の強い狼男が何人も番を持つことは当たり前だったし、逆もまた然り。
それに、今のこの3人の形は僕とかっちゃんが望んだのだ。
何よりそう、きっと僕が。
「違うよ。僕が望んだんだよ」
「でも…」
「そりゃ時々名前を独り占めしたくなるよ。でも、かっちゃんがいなければなんて思わないよ」
「…本当?無理してない?」
それでも僕を心配してくれる名前に、今度は安心してもらわなきゃって、名前には笑ってて欲しいって…何か必死な気持ちになった。だからさっきまでの嫉妬なんかどこかへ行ってしまった。
だって君を想えば僕はどこまでだって強くなれるから。
名前の慈悲に満ちた瞳をまっすぐ見て言う。
「無理なら番になってなんて言わなかったよ。それに僕も、名前とかっちゃんのこと本当に大切に思ってるよ」
その薬で少し荒れてしまってる小さな手を握る。
名前が笑う。
そうそう。名前はそうでなくちゃ。
名前が笑顔じゃなきゃどんな薬だって僕らを元気付けることはできないんだからさ。
「僕たちを信じて」
信じて。
例え嘘でも。
信じてよ。
例え嘘をついたとしても、それは名前の笑顔と、僕たちの幸せを守るためだけにつく嘘だから。
だからーー。
「…うん。わかった」
柔らかく笑う名前を今度は抱きしめる。
だから、信じて。これからも。
それに今日言ったことは、全部本心だから。