夜の虹
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「あれ?」
屋敷の掃除をして回っている途中だった。
直哉様お1人のためのこの別棟に、見たこともない男性がいた。
太陽の光をキラキラと反射させる白髪が印象的なその人は、庭に面したこの廊下を飄々とした様子で歩いている。
サングラスをかけて、脚がすごく長い。
かなり身長が高く見える。
チビの僕は羨ましく思った。
その一方で、その風貌は怪しい人物なのではないだろうかと警戒した。
まぁ、この家に忍び込む命知らずはいないだろう。
きっとどなたかのお客様だろう。
「あの、何かお困りですか?」
僕は少し足速に近づき、その人に声をかけた。
近くで見ると僕との身長差が顕著に感じられた。
僕はその人を見上げながら返事を待った。
「あ?……誰、お前」
……怖い。
サングラス越しでもその目に凄まれているのがわかる。
「あ、あの。ここで世話役をしているものです。決して怪しいものでは……」
なんで僕が怪しい者みたいになってるんだ?
サングラスの男性はこちらをじっと見て動かない。
あぁ。どうしてこんな時に直哉様は高専に行かれてしまったのだろう。
今は一般の学校は春休みという時期なのに。
いや、そんなこと考えても仕方ない。
高専と家業と、更にはどちらからも舞い込む任務をこなす直哉様はとても多忙だ。
……ん?高専?
「あ、もしかして……高専の方ですか?」
その服装にやっと気づく。
直哉様が来ている制服によく似ている。
「直哉様の同級生の方でしょうか?」
相手の素性が少しわかって安心した僕は質問を立て続けにしてしまった。
「まぁ、そんな感じ。直哉今日いないの?」
説明は面倒臭いと言わんばかりの言い方だった。
そしてあたりをキョロキョロと見回される。
「直哉様、本日は高専に行かれています。もうすぐでお戻りになると思いますので、お待ちになられますか?」
どんな人でも直哉様のお客様であれば丁重に扱わなくてはならない。
僕は直哉様の屋敷の客間に案内しようと仕草で促した。
しかしその男性は動かず僕を見下ろしていた。
頭のてっぺんからつま先まで順番に見たかと思ったら、最後にまた顔をじっと見てくる。
正直居心地が悪い、さっきから。
「ふーん。お前が直哉の言ってた専属の世話役かよ」
そして1人納得したように笑った。
「は、はい?」
その笑顔が何だか怖くて少し後ずさる。
「ははっ。怖い?やっぱ何か兎みてぇだな」
怯える僕を愉快そうに見ている。
呪術師の方々は個性的な方が多くて、扱いが難しい。直哉様くらい素直だと助かるのだが。
「なるほどねぇ。直哉が俺に一回も会わせようとしないわけだ」
僕はこの男性が何を言っているのわからなくて、ただ言葉を詰まらせる。
次の瞬間には、彼はかけていたサングラスを外した。
「――!」
酷く美しい顔をしていた。
髪と同じ色をした長いまつ毛。
それに縁取られた空よりも青い瞳がこちらを見据えた。
全てを見透かされそうなこのどこまでも澄んだ瞳に恐怖すら覚える。
「俺が遊んでやろうか?名前」
どうして僕の名前を?
そんなことを考えていたら手が僕の顔に近づいてきたのに、反応に遅れてしまった。
「うや!」
冷たい手が僕の頬に触れて驚いた。思わず変な声が出て飛び上がった。
それと同時に、
「悟くん!!」
ホッとする声が聞こえた。
そして僕と男性の間に目にも止まらぬ速さでその人は割って入ってくれた。
「何しとんや!何でここにおる!」
「よ。久しぶり直哉」
慌てた様子の直哉様とは正反対に、男性は飄々と片手を軽くあげて挨拶した。
そのままサングラスを掛け直した。
あの恐ろしいほど青く澄んだ瞳はその影に隠れた。
そして僕は直哉様の背中が目の前にあることにひどく安心した。
「直哉様!おかえりなさいませ」
「わっかりやす。そんな嬉しそうな顔して」
サングラスの彼は長いその体を折り曲げてこちらにまた不機嫌そうな顔を近づけられる。
「うぃ゛ぃ……」
本能がこの人に近づいてはならないと訴えていた。思わず直哉様の制服を掴んで身を縮こまらせてしまった。
「何やもぉ、近いわ悟くん。名前と何しよったん?」
その体を直哉様が押し返してくださった。
僕はこの得体の知れない男性にもはや警戒心しかなかった。
「何って、直哉がこいつの話いっつもしてくるくせに俺には一回も会わせようとしねぇからさぁ。暇だからちょっと見に来た」
「どんだけ暇なん。はよ帰って」
「俺今きたばっかなんだけど」
この男性は僕を暇つぶしでわざわざ見にきたと言うのだろうか?
一体直哉様は僕のことどんな風に話したんだ。
「可愛がりがいのある世話役でいいよなぁ。俺んとこは爺か婆しかいねぇから」
「悟くんは可愛がるんやのぉて苛めたいだけやろ」
「なぁ、名前。お前時々俺んとこに世話しに来いよ」
「何言っとんや。はよ帰って」
繰り広げられる会話の内容は兎も角。直哉様がご友人の方とこんな風に仲良く(?)話しているのが新鮮でつい見入ってしまう。
僕はこの人が苦手だが、直哉様にとっては大切なご友人なのだろうか。
ただ呪霊を払うだけの殺伐とした環境でなく、こうして仲間と過ごす時間が一時でもあるのなら……
それは僕にとっては救いであった。
「気が向いたら東京に来いよ名前。いつでもいじっ…可愛いがってやるから」
……この人は苦手だが。
しかし、次の瞬間にはサングラスの彼はその場から消えてしまった。一瞬で。
「え?!」
幽霊のように消えてしまったのでまた僕は直哉様の制服を掴むだけでなく、もはや抱きついていた。
「っとに……、術式使ってまで人ん家来んなや」
「な、直哉様!今の方は一体何だったんですか?」
僕は訳がわからなくなって直哉様にしがみつく。
「……あれは東京校の"五条悟"や。俺の一個上」
「ご、五条……五条?!」
僕でも聞いたことがある。
五条家相伝の無下限呪術と、六眼を併せ持って生まれた現代呪術界における最強の呪術師……五条、悟。
「あ、わわ。ぼ、僕、とても失礼な態度を……」
「あ?何言っとんのや。それは悟くんのせいやろ。それにそんなん悟くん気にせん……。おい、どこいくんや」
僕は直哉様から手を離すとゆっくり廊下を歩き出した。
五条家の方に失礼を働いた。しかも相手は嫡男の次期当主だ。
今にも僕の首が飛ぶだろう。
「荷物を、纏めます…」
直哉様に迷惑がかかる前にここを出なくては…。
「何でや?!大丈夫やって!んなつまらんことせんから!名前!!」
△
あれから不甲斐ないとか。従者失格だとか。
頭を下げ続ける名前を宥めるのに苦労した。
確かに御三家の中で五条悟を知らないものはおらん。小さい頃からこの家にも何度か来ている。
だが名前が五条悟の顔を知らなかったのには理由がある。
俺が会わせようとしなかったからだ。
つまり俺のせい。
名前が俺の世話役になって数年経った頃だろうか。
久しぶりに悟くんが両親と共に訪ねてきたことがあった。
歳の近い俺は悟くんによくひっついとった。
何より最強の呪術師と謳われるやつには興味があった。
悟くんは話もおもろかったし。
「そういえばさっき兎みたいなやついた。直哉弟いたっけ?」
「兎???」
悟くんに唐突に言われた。
「何か忙しそうに白くてちっこいのがピョンピョン動き回ってた」
名前の事だと直感で思った。
「それ、俺専属の世話役」
「あんなちっこいのに?」
「そうやよ」
「ふーん。いいよなぁ。俺んとこも歳の近い奴がいたらいいんだけどなぁ」
俺は珍しく悟くんがそんなことを言うものだから、つい調子に乗って名前が幼いのに聡く、どんなに自分のことを甲斐甲斐しく世話をしてくれるか自慢してしまった。たまに意地悪するとその反応が可愛いのだとも。
ペラペラしゃべっていると悟くんの目が輝き出した。
その目を見て何となく話し過ぎたことを後悔した。
「面白そうじゃん。な、俺にもその世話役かしてよ」
「え?!あかんよ!あれは俺のやもん!」
「いいじゃんたまには。とりあえず今からその兎見に行っていい?」
「あかん!」
「なんでだよ!?」
それ以来悟くんが訪ねてくる時は名前には何かと理由をつけて外の用事を作らせていた。
名前にあの男は危険だと感じた。
いや、俺が怖かっただけか。
五条悟がその気になれば、俺の世話役を自分の世話役にさせる事なんて簡単だろう。
とにかくもう名前を悟くんに近づけないようにしないと。
「とりあえず、今後は悟くんには絶対付いてったらあかんで。塩撒いてでも逃げるんやよ」
「そんなことできませんよ!」
名前が半泣きになりながら叫ぶ。
そんなことしたらここを辞めさせられて直哉様のおそばにいられません。
なんて、可愛いこと言ってくれるから抱きしめてやりたくなった。
そう言えば悟くんに怯えて俺にしがみついてくる名前はまた新鮮で可愛かった。
それこそ悟くんが言うように怯えた白兎のようだった。
名前は意外にも、その小さい体の割に堂々としている。それは初めて会った時にも思った。
いつだったか俺の世話役として相応しい振る舞いをしなければと言っていた。
そのために兄貴に殴られたこともあったか…。
そんな柊があんなに俺に縋り付く姿は滅多に見れない。
……たまには悟くんに遊ばせてやるのも悪くないかもしれない。
屋敷の掃除をして回っている途中だった。
直哉様お1人のためのこの別棟に、見たこともない男性がいた。
太陽の光をキラキラと反射させる白髪が印象的なその人は、庭に面したこの廊下を飄々とした様子で歩いている。
サングラスをかけて、脚がすごく長い。
かなり身長が高く見える。
チビの僕は羨ましく思った。
その一方で、その風貌は怪しい人物なのではないだろうかと警戒した。
まぁ、この家に忍び込む命知らずはいないだろう。
きっとどなたかのお客様だろう。
「あの、何かお困りですか?」
僕は少し足速に近づき、その人に声をかけた。
近くで見ると僕との身長差が顕著に感じられた。
僕はその人を見上げながら返事を待った。
「あ?……誰、お前」
……怖い。
サングラス越しでもその目に凄まれているのがわかる。
「あ、あの。ここで世話役をしているものです。決して怪しいものでは……」
なんで僕が怪しい者みたいになってるんだ?
サングラスの男性はこちらをじっと見て動かない。
あぁ。どうしてこんな時に直哉様は高専に行かれてしまったのだろう。
今は一般の学校は春休みという時期なのに。
いや、そんなこと考えても仕方ない。
高専と家業と、更にはどちらからも舞い込む任務をこなす直哉様はとても多忙だ。
……ん?高専?
「あ、もしかして……高専の方ですか?」
その服装にやっと気づく。
直哉様が来ている制服によく似ている。
「直哉様の同級生の方でしょうか?」
相手の素性が少しわかって安心した僕は質問を立て続けにしてしまった。
「まぁ、そんな感じ。直哉今日いないの?」
説明は面倒臭いと言わんばかりの言い方だった。
そしてあたりをキョロキョロと見回される。
「直哉様、本日は高専に行かれています。もうすぐでお戻りになると思いますので、お待ちになられますか?」
どんな人でも直哉様のお客様であれば丁重に扱わなくてはならない。
僕は直哉様の屋敷の客間に案内しようと仕草で促した。
しかしその男性は動かず僕を見下ろしていた。
頭のてっぺんからつま先まで順番に見たかと思ったら、最後にまた顔をじっと見てくる。
正直居心地が悪い、さっきから。
「ふーん。お前が直哉の言ってた専属の世話役かよ」
そして1人納得したように笑った。
「は、はい?」
その笑顔が何だか怖くて少し後ずさる。
「ははっ。怖い?やっぱ何か兎みてぇだな」
怯える僕を愉快そうに見ている。
呪術師の方々は個性的な方が多くて、扱いが難しい。直哉様くらい素直だと助かるのだが。
「なるほどねぇ。直哉が俺に一回も会わせようとしないわけだ」
僕はこの男性が何を言っているのわからなくて、ただ言葉を詰まらせる。
次の瞬間には、彼はかけていたサングラスを外した。
「――!」
酷く美しい顔をしていた。
髪と同じ色をした長いまつ毛。
それに縁取られた空よりも青い瞳がこちらを見据えた。
全てを見透かされそうなこのどこまでも澄んだ瞳に恐怖すら覚える。
「俺が遊んでやろうか?名前」
どうして僕の名前を?
そんなことを考えていたら手が僕の顔に近づいてきたのに、反応に遅れてしまった。
「うや!」
冷たい手が僕の頬に触れて驚いた。思わず変な声が出て飛び上がった。
それと同時に、
「悟くん!!」
ホッとする声が聞こえた。
そして僕と男性の間に目にも止まらぬ速さでその人は割って入ってくれた。
「何しとんや!何でここにおる!」
「よ。久しぶり直哉」
慌てた様子の直哉様とは正反対に、男性は飄々と片手を軽くあげて挨拶した。
そのままサングラスを掛け直した。
あの恐ろしいほど青く澄んだ瞳はその影に隠れた。
そして僕は直哉様の背中が目の前にあることにひどく安心した。
「直哉様!おかえりなさいませ」
「わっかりやす。そんな嬉しそうな顔して」
サングラスの彼は長いその体を折り曲げてこちらにまた不機嫌そうな顔を近づけられる。
「うぃ゛ぃ……」
本能がこの人に近づいてはならないと訴えていた。思わず直哉様の制服を掴んで身を縮こまらせてしまった。
「何やもぉ、近いわ悟くん。名前と何しよったん?」
その体を直哉様が押し返してくださった。
僕はこの得体の知れない男性にもはや警戒心しかなかった。
「何って、直哉がこいつの話いっつもしてくるくせに俺には一回も会わせようとしねぇからさぁ。暇だからちょっと見に来た」
「どんだけ暇なん。はよ帰って」
「俺今きたばっかなんだけど」
この男性は僕を暇つぶしでわざわざ見にきたと言うのだろうか?
一体直哉様は僕のことどんな風に話したんだ。
「可愛がりがいのある世話役でいいよなぁ。俺んとこは爺か婆しかいねぇから」
「悟くんは可愛がるんやのぉて苛めたいだけやろ」
「なぁ、名前。お前時々俺んとこに世話しに来いよ」
「何言っとんや。はよ帰って」
繰り広げられる会話の内容は兎も角。直哉様がご友人の方とこんな風に仲良く(?)話しているのが新鮮でつい見入ってしまう。
僕はこの人が苦手だが、直哉様にとっては大切なご友人なのだろうか。
ただ呪霊を払うだけの殺伐とした環境でなく、こうして仲間と過ごす時間が一時でもあるのなら……
それは僕にとっては救いであった。
「気が向いたら東京に来いよ名前。いつでもいじっ…可愛いがってやるから」
……この人は苦手だが。
しかし、次の瞬間にはサングラスの彼はその場から消えてしまった。一瞬で。
「え?!」
幽霊のように消えてしまったのでまた僕は直哉様の制服を掴むだけでなく、もはや抱きついていた。
「っとに……、術式使ってまで人ん家来んなや」
「な、直哉様!今の方は一体何だったんですか?」
僕は訳がわからなくなって直哉様にしがみつく。
「……あれは東京校の"五条悟"や。俺の一個上」
「ご、五条……五条?!」
僕でも聞いたことがある。
五条家相伝の無下限呪術と、六眼を併せ持って生まれた現代呪術界における最強の呪術師……五条、悟。
「あ、わわ。ぼ、僕、とても失礼な態度を……」
「あ?何言っとんのや。それは悟くんのせいやろ。それにそんなん悟くん気にせん……。おい、どこいくんや」
僕は直哉様から手を離すとゆっくり廊下を歩き出した。
五条家の方に失礼を働いた。しかも相手は嫡男の次期当主だ。
今にも僕の首が飛ぶだろう。
「荷物を、纏めます…」
直哉様に迷惑がかかる前にここを出なくては…。
「何でや?!大丈夫やって!んなつまらんことせんから!名前!!」
△
あれから不甲斐ないとか。従者失格だとか。
頭を下げ続ける名前を宥めるのに苦労した。
確かに御三家の中で五条悟を知らないものはおらん。小さい頃からこの家にも何度か来ている。
だが名前が五条悟の顔を知らなかったのには理由がある。
俺が会わせようとしなかったからだ。
つまり俺のせい。
名前が俺の世話役になって数年経った頃だろうか。
久しぶりに悟くんが両親と共に訪ねてきたことがあった。
歳の近い俺は悟くんによくひっついとった。
何より最強の呪術師と謳われるやつには興味があった。
悟くんは話もおもろかったし。
「そういえばさっき兎みたいなやついた。直哉弟いたっけ?」
「兎???」
悟くんに唐突に言われた。
「何か忙しそうに白くてちっこいのがピョンピョン動き回ってた」
名前の事だと直感で思った。
「それ、俺専属の世話役」
「あんなちっこいのに?」
「そうやよ」
「ふーん。いいよなぁ。俺んとこも歳の近い奴がいたらいいんだけどなぁ」
俺は珍しく悟くんがそんなことを言うものだから、つい調子に乗って名前が幼いのに聡く、どんなに自分のことを甲斐甲斐しく世話をしてくれるか自慢してしまった。たまに意地悪するとその反応が可愛いのだとも。
ペラペラしゃべっていると悟くんの目が輝き出した。
その目を見て何となく話し過ぎたことを後悔した。
「面白そうじゃん。な、俺にもその世話役かしてよ」
「え?!あかんよ!あれは俺のやもん!」
「いいじゃんたまには。とりあえず今からその兎見に行っていい?」
「あかん!」
「なんでだよ!?」
それ以来悟くんが訪ねてくる時は名前には何かと理由をつけて外の用事を作らせていた。
名前にあの男は危険だと感じた。
いや、俺が怖かっただけか。
五条悟がその気になれば、俺の世話役を自分の世話役にさせる事なんて簡単だろう。
とにかくもう名前を悟くんに近づけないようにしないと。
「とりあえず、今後は悟くんには絶対付いてったらあかんで。塩撒いてでも逃げるんやよ」
「そんなことできませんよ!」
名前が半泣きになりながら叫ぶ。
そんなことしたらここを辞めさせられて直哉様のおそばにいられません。
なんて、可愛いこと言ってくれるから抱きしめてやりたくなった。
そう言えば悟くんに怯えて俺にしがみついてくる名前はまた新鮮で可愛かった。
それこそ悟くんが言うように怯えた白兎のようだった。
名前は意外にも、その小さい体の割に堂々としている。それは初めて会った時にも思った。
いつだったか俺の世話役として相応しい振る舞いをしなければと言っていた。
そのために兄貴に殴られたこともあったか…。
そんな柊があんなに俺に縋り付く姿は滅多に見れない。
……たまには悟くんに遊ばせてやるのも悪くないかもしれない。