日照雨
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高専に着いてすぐに硝子の元に走った。
あいつはもう先に着いてるだろうか?
名前は?皆んなはどうなった?
電話では虎杖も負傷したが、硝子の反転術式で完治してると聞いたが…。
「よ、そんな慌ててどこ行くん?」
医務室の手前で"あいつ"に会った。
ピタリと脚を止めた。
「…名前は?」
「俺がおるんやから無事に決まっとるやろ」
その和服姿の男、禪院直哉はいつもの調子で飄々と返してきた。
こいつがこんな余裕ぶってるということは名前は本当に無事なのだろう。
はぁ…と、息を深くついた。
するとすぐに直哉が真剣な顔つきになった。
あぁ、この顔は前にも見たことがある。
初めて名前の術式について話し合った時もこんな顔していた。
というより名前のこととなるとこいつはイヤに俺に食ってかかってくる。
「無様やな、悟くん。なしてこないなことになったんや」
早く名前の無事な姿を確認したいのに、コイツは俺を簡単に通すつもりはないらしい。
「直哉…悪いんだけど後でもいい?皆んなの無事を確認したいんだけど」
「名前ちゃんかなり弱っとった。危なかったかもしれんのやぞ」
「!」
そう言えば…直哉の顔色が悪い。
相当名前に呪力を分けたのだろう。
「…ごめん」
「…らしくないやん。五条悟」
ふぅーっ、息を吐くと廊下の壁に直哉がもたれた。
はやり、かなり身体も負担がかかったのか辛いようだ。
「だから宿儺の器のそばにいさせるんは反対やったんや。俺は京都校に編入しよったらって名前ちゃんにもゆーたんや」
直哉は苦虫でも噛んだような表情でガシガシと頭を掻く。
それは、初耳だった。
「…そやけど、御三家の人間がそばにおった方が、上の連中があの虎杖とかいう坊主には簡単に手出しできんからって」
最初はあないに京都来たがったったのに、寂しいもんやわ。と、溜息をつく。
「…そう。名前がそんなこと」
きっとずっと悠仁のそばにいられない俺の代わりに…とか考えたんだろう。
あんなに直哉のいる京都に行きたがってたのに。
「上の奴らがここまでしてくるとは…思ってなかった」
「…悪かったわ。俺も感情的になったわ」
すっかりいつもの調子がでない僕を見兼ねて、直哉が折れた。
「名前ちゃん、一級クラス…たぶん途中で特級クラスにまで膨れ上がった呪霊の領域展開、無理矢理こじ開けたみたいや」
「ぇ」
「しばらくは任務も無理や。あんじょうしたってやー」
そういうと直哉は気怠そうに背を預けていた壁から離れ、僕が元来た方へ向かおうとした。
今日はもう直哉に何も言い返すことが出来ない。
自分の不甲斐なさに目の前が暗くなる。
もう少しで、もしかしたら取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
「…何でだろうな」
「ん?なんや?」
僕の呟きに直哉は脚を止めて振り返った。
「名前は…僕の実の妹だ。間違いなく同じ両親から産まれた…なのに、どうして名前にあんな力がある?」
なんで。
「なんで。直哉の呪力じゃないとダメなの?」
「…」
昔、この六眼で名前のその"炎"を見たとき思った。
あれは術式なんかじゃない。
あれは、人間の力じゃない。
「あれは、強いて言えば"神力"だ」
数多の呪いを祓い、浄化する炎。
人間が持つ力にしては荷が重すぎる力。
当然使えば身体にかかる負担は大きい。
あの力は名前の生命力そのものを燃やしている。
直哉の呪力だけが、名前の生命力を回復させる事ができるとを知ったのは、幼い名前が直哉につい得意げになってその炎を見せたことがきっかけだった。
まぁ結果として直哉がいれば最悪、神力を使った名前を助けることができるという事が分かってよかった。
「何で、血の繋がった僕じゃダメなのかな」
「…さぁ、それは俺にもどうしたってわからんわ。やけどな」
そして俺のそばに寄ってきて言った。
「…安心しや。俺の呪力なくなっても、名前ちゃんだけは守ったるから」
俺の死因として可能性があるのは、唯一それだけや。
そういうと僕の肩をポンっと軽く叩いて、今度こそ歩いて行ってしまった。
あぁ。直哉のくせに。
そんなこと言ってただなんて、絶対名前に教えてやりたくない。
たとえ喜ぶと知っていたって。
俺の兄としてのプライドはズタズタだった。
カッコいいセリフを残して、颯爽と立ち去りたいはずのプライドの高いあの直哉が…。
フラフラとした足取りで去っていくのを見たら余計嫉妬した。
だけど同時に、伝えずにはいられない。
「直哉、ありがとう」
名前を救ってくれたのだから。
それは僕を救ってくれたも当然だ。
直哉は今度は振り向かずに、片手だけ上げるとフラフラと立ち去っていった。
△
「…名前」
「…ぅ…お、にぃ…?」
名前が薄らと目を開けた。
はやる気持ちを抑えて、出来るだけ穏やかな声で名前を呼んだ。
「…ぁ、ゆぅじ…、みんな…は…」
枯れた声で、力なく言葉が紡がれる。
顔色もまだ優れない。
いつも血を滲ませたような赤い唇にも今は血色がない。
胸がずきりと痛んだ。
「大丈夫。みんな無事だ。悠仁は重症だったけど、名前の炎のお陰で命に関わるような事にはならなかったよ。今は硝子の反転術式ですっかりピンピンしてるよ」
それを聞くと小さく名前が息をついた。
少し安心したのか目尻が柔らかく下がる。
しかしすぐに悲しそうな顔をする。
「ごめん、なさい…」
「何で謝るのさ」
「…みんなを、危険に晒した…」
声が震えて、その目には涙が滲んだ。
「名前のせいじゃない。上層部が何か企んでる」
ごめん、防げなかった俺のせいだ。そう続けようと思ったがやめた。
名前も俺のせいじゃないと、俺の心配をするだろう。
今の満身創痍の名前にそんなことさせるわけにはいかない。
「…とにかく、今は眠って。悠仁も名前も、しばらくは任務はなし。ちゃんと休むんだよ?」
そう言って名前のおでこに手を当てる。
丸いおでこはいつもより体温が低いような気がしてそれだけで胸がまたズキリとした。
「うん…」
名前はまた目を閉じた。
その時目尻からは涙が一筋流れた。
「…ごめんな」
名前の小さな寝息を聞きながら、同じように小さくつぶやいた。