日照雨
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
無駄に長い。オチなし。
「ねぇ、名前」
「何?野薔薇」
「あんた、そんなに素のスペック高いのに…何でそんな制服ダサいの。スカートにしないの?」
「え?」
「あ、それ俺も思った!何でそんなダボっとしたデザインにしたの?」
「え!」
「…ほぼ俺とデザインはかわらないよな。…サイズも少し名前には大きいんじゃねぇか?」
「…」
それは全員任務のない平和な朝。
授業の始まる前のことだった。
虎杖たち4人はそれぞれ思い思いに授業が始まる前の時間を過ごしていたが、名前の制服のデザインについての話題は釘崎のひと言から始まった。
「ねぇ待って!この制服ってもしかして…自分でデザイン決めれるの?!」
名前のその言葉で、勘の良い伏黒は全てを察した。
「俺は五条先生が決めてくれたけど…そういえば自分でカスタマイズ自由って言ってたような」
「私は自分で決めたわよ。入学前に届く様にデザインと寸法ちゃんと送ったんだから」
名前は虎杖と釘崎のその返事を聞くなりわなわなと震えた。
「…どうせ、五条先生に今はこれしかないとか言われたんだろ」
伏黒が溜息をついてそう言い放つ。
「「えぇ??」」
「お兄ちゃんめ…、私が寮生活を強引に決めたのが気に入らないからってこんな嫌がらせまでして…!」
たまたまクラスメイトに伏黒しかおらず、しかもデザインも一緒なので自分の学年はこれで作られているのだろうとでも最初は思っていたのだろう。
それを良いことに、悟は少しでも可愛い妹に変な虫がつきにくいように、体のラインもでにくく似合わないデザインのものを着させた。
「…なんてゆうか、五条先生すげぇな。そこまでする?」
「… シスコン極まる兄を持って不憫ね」
三人は哀れみの目で名前を見る。
「今からお兄ちゃんに不服申立てしてくる!」
ガタッ!!
そう言って音を立てて席から立ち上がる。
それを釘崎が掌で制する。
「待ちなさい!名前!」
「止めないでよー!」
制服一つで大人気ないかもしれないと思ってはいるが、入学も勝手に決められて京都校に行けなかったことは今でも不満だった。
もちろん東京校に実際来てみて、仲間思いの同級生と先輩に恵まれて、東京校に来たこと自体を後悔はしていない。
我慢ならないのはその兄の横暴さであった。
「わかってるわ。でもただ異議を唱えるだけじゃダメ」
「え?」
面白そうな雰囲気に虎杖も伏黒もことの成り行きを見守る。
「もっといい方法で復讐するのよ」
「え?!ふ、復讐?!」
「はい!釘崎先生!具体的には一体どうするんですか?!」
悪ノリした虎杖がわざとらしく手をあげる。
「制服勝手に変えちゃえばいいのよ。私がデザイン考えてあげる」
「ほ、本当?!」
釘崎は自分が寸法を送った部署も連絡先も控えていた。
悟に相談しなくても、勝手にこちらで行動に移してしまった方が確実、且つ早いだろう。
「いつも五条先生の思い通りにはならないって、思い知らせてやるのよ!」
「俺も手伝う!」
「…まぁ、寸法はちゃんと合わせた方がいいだろ。動きにくい」
それぞれ五条悟がどんな反応をするのかを見るのを目的に、手伝いを名乗り出た。
「みんなありがとう!」
早速釘崎がノートを取り出し、1番最後のページを破りとるとそこにペンを走らせた。
「やっぱり寸法はしっかり測って、体のラインが出るようにタイトなデザインね!」
「た、タイト…」
名前が不安そうな顔をしている。
「やっぱり男としてはミニスカ希望!」
「え!」
「いや、実用性を考えたらパンツスタイルの方がいいんじゃねぇか?」
「ダメよ!それじゃ五条先生への復讐にならないわ!虎杖の意見を採用してミニスカでいくわ」
「え!で、でも動いた時にそ、その。見えちゃわないかな…」
「プリーツでいくか、真希さんみたいなタイトスカートでいくか…」
「でも、伏黒の言う通り脚剥き出しじゃ何か防御力が心配だよなぁ」
「うーん。そうね。私と真希さんは黒タイツだから、名前もそうするかぁ」
「でも何かインパクトに欠けるよなぁ」
「…じゃあ、ニーハイ」
「「ふっ、伏黒様ぁー!!」」
話がどんどん進んでおり、入る隙のない当の本人は横で置いてけぼりをくらっていた。
虎杖と釘崎が絶対領域!と言ってはしゃいでいるのを不思議そうに見ているしかできなかった。
△
「おぉー!」
「いいじゃんいいじゃん!めっちゃ似合ってるって!」
「……似合ってる」
「何で伏黒が照れてんのよ!私がデザインと寸法したんだから当然ね!」
不意打ちに釘崎がスマホでパシャリと名前を撮影した。
驚いた名前は顔を真っ赤にして丈の短いスカートを下に引っ張っている。
名前の新しい例の制服があれから数日足らずで届いた。
寮では授業後にお披露目会だ!と4人で釘崎の部屋に集まっていた。
着替えを済ませた名前が釘崎の部屋に入ると歓声が上がった。
以前と比べてサイズはしっかり合わせられて体のラインが強調されていた。
脚もタイトなミニスカートにニーハイといった大胆な姿。
細いウエストに、しなやかに伸びる脚。
白く輝く太もも。
小柄で華奢だとは思っていたが、その場にいた全員がこいつ、こんなにスタイル良かったのかと驚いた。
もう限界だと言わんばかりに名前は今来た道を戻ろうとした。
「や、やっぱりこれじゃ動きにくいから前の制服に戻す!!」
「はぁ?!何言ってんのよ!五条先生の思い通りにはならないって思い知らせてやるんでしょ!」
慌てて釘崎が名前の腕を掴んだ。
「それに今2年の先輩達にも写真送ったら、今から見に来るって」
「えぇ?!」
「だからもうしばらくこのままでいて♪」
満面の笑みで言われて名前は口をパクパクさせていると。
「よぉ!名前を見にきたぞー」
「しゃ、しゃけ!!」
「おい。お前ら邪魔で見えねぇよ。特にパンダ!」
部屋の扉が勢いよく開けられた。
乙女の部屋にノックぐらいしなさいよ!と釘崎が訴えるがこの2年生達には聞こえていないようだ。
「おぉー!可愛いぞ!名前」
「しゃけしゃけ!」
「いいんじゃね?そっちのがお前には似合うよ」
お世辞なぞ言わない2年生が褒めてくれたことで
名前はホッとした。
皆でそのまま名前の制服から悟の過保護さについても話は及び、和気藹々と時間を過ごしていた。
しかし。
「そういや、野薔薇が送ってきた写真。あいつにもさっき送ってやったぜ」
「…え?」
「そのうち電話寄越してくるかもな」
真希の言葉に名前が固まった。
不意打ちに撮られてどんな顔で写ったかもわからない写真…。
「ま、真希ちゃん。送ったって誰に…」
「あ?あの金髪ピアスに決まってんだろ」
涼しい顔で真希は答えた。
「えぇ?!な、直哉くんに…??送っちゃったの?!」
よりによってその写真写りも確認できていない写真を、想い人に送られているとは冷や汗ものだった。
「け、消して!送信取り消しして!」
名前が真希の腕に縋り付く。
「はぁ?もう速攻で既読ついてたし、もう消せねぇよ」
「じゃ、じゃあ返事なんて来てたの…??」
皆の視線が真希のスマホへと集中する。
「直哉って…真希さんの従兄弟で名前の好きな…」
「ちょ!野薔薇!」
「今更だろ」
「しゃけ」
真っ赤になる名前を皆が面白そうにつつく。
それを見ながら真希はニヤニヤしながら慣れた手つきでトークアプリを開く。
名前はなんと返事が来ているのか気になって仕方がなかったのでその画面を覗き込む。
「どうせもっと写真送れとかきてんじゃ…あれ?」
きっと新着のトークの知らせでいっぱいになっていると踏んでいた真希は拍子抜けした。
「…まだ、何も来てねぇな」
その一言に何となく気不味い空気が流れる。
「そ、そっか…」
「まぁ、あいつ腐っても特別一級だからな。忙しいんだろ」
明らかに落ち込んでしまった名前を真希が出来るだけ自然体でフォローする。
皆に気を遣わせないよう、名前も出来るだけ笑顔で返事をした。
「そうだね。あ、明日悠仁と恵は朝から任務だったね!私もそろそろ自分の部屋に戻るね」
その言葉に皆それぞれ自室に戻る流れになり、名前も言った通り自分の部屋に戻り、着替えを済ませた。
早々とベッドに潜り込んで深呼吸をする。
真希のメッセージに返信がなかったことが自分の中ではかなりショックだった。
何も反応がないという事実は必要以上に不安を駆り立てた。
(…直哉くん、ああいう服装はタイプじゃなかったかな)
下品だったろうか?
幻滅されてしまったろうか?
いや、彼はいつもどんな時でも自分を肯定してくれていた。
きっと大丈夫。
でも…。
そんな考えを巡らせ、長い夜を超えた。
「…ん」
眩しさと朝独特の肌寒さで目を覚ます。
あのまま眠れないかもしれないと思ったが、いつの間にか眠れたようだ。
ふと視線を横に映すと、件の制服がハンガーにかけて壁に吊るされている、
今日はどうしようか?
やっぱり前のダサい制服に戻そうか?
しかしみんなが褒めてくれたこの新しい制服、実は自分も結構気に入っているのだ。
まだ少し慣れないが。
「やっぱり、とりあえずお兄ちゃんの思い通りにはなりたくない!」
そう決心すると新しい制服に袖を通した。
身支度をし、野薔薇と2人で今日は授業だ、と予定を確認した。
その時だった。
「名前ーーー!!!」
「きぁあぁ!!?」
ノックもなしに叫び声と共に部屋の扉が開かれた。
驚きのあまり名前は飛び上がる。
と、同時に部屋に入ってきた人物に両肩を掴まれた。
「何何何?!その格好どうしたの?!」
「お、お兄ちゃん!!」
今日は兄が担当する授業が予定されたいたので、その時に見せようと思っていたのに…。
何故部屋にまで?いつ知ったのだろうか?
何から問い質せばいいかわからず、名前は口をパクパクさせた。
「そんな破廉恥なデザインお兄ちゃん認めないからな!」
「なっ…!!はれんちって、おじさんみたいなこと言わないでよ!」
顔を真っ赤にして名前が悟の胸を押し返した。
(ちょ、びくともしない…)
体格差もありちっとも悟を引きはがすことができない。
「元の制服に戻して!悪い虫がこれ以上ついたら俺心労で死んじゃうから!」
「何言ってるのよ!そんな繊細な心臓じゃないくせに!はーなーせー!!私はこれ以上お兄ちゃんの勝手には振り回されたくないのー!!」
先ほどより強く押す。
一方悟からは頷かなければ離さないという気迫を感じる。
しかしここで頷いてしまっては名前の自己主張はそれまでになってしまう。
協力してくれた友人たちにも見せる顔がない。
どうしたらこの過保護が行き過ぎている兄にわかってもらえるのか…。
名前がそう思った時だった。
「…名前ちゃん」
悟でも名前でもない者の声が聞こえた。
「え?」
声のした入口に2人とも視線を移す。
そこには予想もしていなかった人物が立っていた。
「な、直哉君!?」
いつもの書生のような和装姿。
朝日にその金色の髪がキラキラと反射していた。
「げ。何、直哉、何しに来たの?女子寮に不法侵入だから。通報するよ」
「お兄ちゃんもでしょうが!」
僕はここの教員で名前は兄妹だから問題ないでーす。とふざける兄のすきをついて、名前は悟を押しのけて直哉の前へ駆け寄った。
「な、直哉君。どうしてここに?」
未だ入口でぽかんとした表情で突っ立っている直哉に、名前は恐る恐る声をかけた。
「名前ちゃん…。やばい。めっちゃ可愛い」
「え?」
「昨日速攻任務終わらして来てよかったわー!!やっぱ本物みたいやん?昨日真希ちゃんが任務中に名前ちゃんの写真送ってくるからそっちに夢中んなって危うく呪霊に殺されかけたわ。せや!それより俺にも写真撮らして?」
「え?えぇ?!」
息継ぎをする暇もなく話す直哉に、名前は何も言葉を返せないまま肩を組まれる。どうやら一緒に撮ろうという意味らしい。
名前の肩に手を回し、顔を隣にくっつける。
(きゃああああ!?ち、近い!直哉君が近い!!どうしよう!?)
(名前ちゃんなんか甘くていいにおいするわー)
和装の直哉からは不釣り合いなスマホがどこからか取り出されてこちらに向けた。
と、そのとき。
「はいストーップ!!お前なんかが名前の絶対領域を見ていいと思うなよー!ましてや写真なんか撮らせるか!帰れ!」
悟は名前と直哉の間に無理やり割り込んで二人を引きはがす。
直哉はそんな悟に飄々とした態度で言葉を返す。
「あれ、悟くんおったんか?名前ちゃんが眩しすぎて見えんかったわ」
「へー、糸目になりすぎて視野狭窄まであるんじゃない?眼科行けよ」
「お兄ちゃん!!」
チリッーーー。
火の粉が爆ぜたような音がした気がした。
悟の後ろでは見たこともないほど怒っている名前がいた。
「… 名前?」
名前の瞳が炎のように大きく揺らいだような気がした。
「もう!わけのわかんないことばっかり!直哉君にまでそんなこと言って!お兄ちゃんなんか…嫌い!!」
「えぇ?!」
「ははは!」
本気で落ち込む悟を笑い飛ばす直哉。
「何笑ってんの、お前のせいだかんな!だいたい直哉みたいなロリコンが名前の周りうろつくから俺が過保護にならざるを得ないんでしょうが」
小声で呪いの言葉を吐きながら、目隠し越しに直哉を睨む。
「はぁ?人聞き悪いこと言わんといてくれる?そんなに歳離れとらんし」
「お前俺の一個下でしょーが」
「もう!やめてってば!」
名前が叫ぶと同時に悟がぐるりとこちらに大きく振り返った。
「な、何よ」
何か言いたそうに名前を見つめる。
「とにかく!その制服じゃ授業受けさせないから!前の制服着て!」
そう言って名前のジャケットを掴みボタンを外そうとする。
「は、ちょ、何してんのよ!馬鹿!やめてよ!」
「悟くん!何もったいないことしてんねん!やめ…」
それを止めようと近づいてきた直哉の手が、何かに気づいたようにはたと止まる。
「前の制服ってあのダボっとしとるやつやんな…あかん。それにミニスカなんてエロすぎ…尊い」
「ちょ、え?何?なんて言ったの?それより直哉君!お兄ちゃんを止めて!」
「名前ちゃんあかん!そんなん他の男に見せられん!!これもっと丈、長くできんの?!」
そう言った直哉は名前のスカートの裾を両手で掴むと、下に向かってぐいぐいと引っ張った。
「きやぁぁあぁ?!何してんの何してんの?!直哉くんまでどうしちゃったの?!」
名前は必死に両手でスカートを抑える。
その隙に馬鹿な兄が制服のボタンを外してくる。
一体どうしてこんなことになったのか?
名前はもうパニック状態だった。
訳がわからずもう泣き出したくなった。
その時。
ゴンっ!!!!
ガンッ!!!!
2つの鈍い音が部屋に響いた。
それと同時に名前の動きを抑えていた悟と直哉の手が離された。
「お前らなぁ…恥を知れ」
「ホント馬っ鹿じゃないの?!」
名前が視線を上げるとそこには2人の友人の姿があった。
「ま、真希ちゃん…野薔薇ぁ…」
救い主だ。名前は2人を思わず拝んだ。
その下では直哉が頭を抱えてうずくまっている。どうやら真希に脳天を殴られたらしい。
「酷い酷い!教師を金槌で殴るなんて!学級崩壊だ!」
「アンタはどうせ痛くもなんともないでしょ!」
痛いよー!などと、わざとらしく騒ぐ悟に釘崎が怒鳴りつける。
右手には金槌を握っている。
一般人が見たら恐ろしい絵面だ。
一方直哉は真希の渾身の一撃をくらってかなり痛そうであった。
あまりの痛さに声にならぬ声がうめき声として部屋に響いた。
「ったく、女の部屋で何騒いでんだよいい歳した大人が」
「っ…真希ちゃん…自分ちょっとお転婆が過ぎるんちゃう?」
立ち上がる気はないのか、そのまま蹲ったまま直哉が真希を見上げる。
「どっちが。ほれ、早く帰れ。じゃねぇとじじぃに直哉が五条家のお嬢に不埒なことしたってチクるぞ」
「まだしてへんやん」
「おい。今まだつった?」
悟が聞き捨てならないと直哉に向かって一歩踏み出そうとした。
あー、もうめんどくさいからやめろ。と、真希と釘崎が間に入った時、やっとここで我に返った名前が制服はまたデザインを考え直すと言ったことでその場はやっと丸く収まった。
もう書けないオワレ
「ねぇ、名前」
「何?野薔薇」
「あんた、そんなに素のスペック高いのに…何でそんな制服ダサいの。スカートにしないの?」
「え?」
「あ、それ俺も思った!何でそんなダボっとしたデザインにしたの?」
「え!」
「…ほぼ俺とデザインはかわらないよな。…サイズも少し名前には大きいんじゃねぇか?」
「…」
それは全員任務のない平和な朝。
授業の始まる前のことだった。
虎杖たち4人はそれぞれ思い思いに授業が始まる前の時間を過ごしていたが、名前の制服のデザインについての話題は釘崎のひと言から始まった。
「ねぇ待って!この制服ってもしかして…自分でデザイン決めれるの?!」
名前のその言葉で、勘の良い伏黒は全てを察した。
「俺は五条先生が決めてくれたけど…そういえば自分でカスタマイズ自由って言ってたような」
「私は自分で決めたわよ。入学前に届く様にデザインと寸法ちゃんと送ったんだから」
名前は虎杖と釘崎のその返事を聞くなりわなわなと震えた。
「…どうせ、五条先生に今はこれしかないとか言われたんだろ」
伏黒が溜息をついてそう言い放つ。
「「えぇ??」」
「お兄ちゃんめ…、私が寮生活を強引に決めたのが気に入らないからってこんな嫌がらせまでして…!」
たまたまクラスメイトに伏黒しかおらず、しかもデザインも一緒なので自分の学年はこれで作られているのだろうとでも最初は思っていたのだろう。
それを良いことに、悟は少しでも可愛い妹に変な虫がつきにくいように、体のラインもでにくく似合わないデザインのものを着させた。
「…なんてゆうか、五条先生すげぇな。そこまでする?」
「… シスコン極まる兄を持って不憫ね」
三人は哀れみの目で名前を見る。
「今からお兄ちゃんに不服申立てしてくる!」
ガタッ!!
そう言って音を立てて席から立ち上がる。
それを釘崎が掌で制する。
「待ちなさい!名前!」
「止めないでよー!」
制服一つで大人気ないかもしれないと思ってはいるが、入学も勝手に決められて京都校に行けなかったことは今でも不満だった。
もちろん東京校に実際来てみて、仲間思いの同級生と先輩に恵まれて、東京校に来たこと自体を後悔はしていない。
我慢ならないのはその兄の横暴さであった。
「わかってるわ。でもただ異議を唱えるだけじゃダメ」
「え?」
面白そうな雰囲気に虎杖も伏黒もことの成り行きを見守る。
「もっといい方法で復讐するのよ」
「え?!ふ、復讐?!」
「はい!釘崎先生!具体的には一体どうするんですか?!」
悪ノリした虎杖がわざとらしく手をあげる。
「制服勝手に変えちゃえばいいのよ。私がデザイン考えてあげる」
「ほ、本当?!」
釘崎は自分が寸法を送った部署も連絡先も控えていた。
悟に相談しなくても、勝手にこちらで行動に移してしまった方が確実、且つ早いだろう。
「いつも五条先生の思い通りにはならないって、思い知らせてやるのよ!」
「俺も手伝う!」
「…まぁ、寸法はちゃんと合わせた方がいいだろ。動きにくい」
それぞれ五条悟がどんな反応をするのかを見るのを目的に、手伝いを名乗り出た。
「みんなありがとう!」
早速釘崎がノートを取り出し、1番最後のページを破りとるとそこにペンを走らせた。
「やっぱり寸法はしっかり測って、体のラインが出るようにタイトなデザインね!」
「た、タイト…」
名前が不安そうな顔をしている。
「やっぱり男としてはミニスカ希望!」
「え!」
「いや、実用性を考えたらパンツスタイルの方がいいんじゃねぇか?」
「ダメよ!それじゃ五条先生への復讐にならないわ!虎杖の意見を採用してミニスカでいくわ」
「え!で、でも動いた時にそ、その。見えちゃわないかな…」
「プリーツでいくか、真希さんみたいなタイトスカートでいくか…」
「でも、伏黒の言う通り脚剥き出しじゃ何か防御力が心配だよなぁ」
「うーん。そうね。私と真希さんは黒タイツだから、名前もそうするかぁ」
「でも何かインパクトに欠けるよなぁ」
「…じゃあ、ニーハイ」
「「ふっ、伏黒様ぁー!!」」
話がどんどん進んでおり、入る隙のない当の本人は横で置いてけぼりをくらっていた。
虎杖と釘崎が絶対領域!と言ってはしゃいでいるのを不思議そうに見ているしかできなかった。
△
「おぉー!」
「いいじゃんいいじゃん!めっちゃ似合ってるって!」
「……似合ってる」
「何で伏黒が照れてんのよ!私がデザインと寸法したんだから当然ね!」
不意打ちに釘崎がスマホでパシャリと名前を撮影した。
驚いた名前は顔を真っ赤にして丈の短いスカートを下に引っ張っている。
名前の新しい例の制服があれから数日足らずで届いた。
寮では授業後にお披露目会だ!と4人で釘崎の部屋に集まっていた。
着替えを済ませた名前が釘崎の部屋に入ると歓声が上がった。
以前と比べてサイズはしっかり合わせられて体のラインが強調されていた。
脚もタイトなミニスカートにニーハイといった大胆な姿。
細いウエストに、しなやかに伸びる脚。
白く輝く太もも。
小柄で華奢だとは思っていたが、その場にいた全員がこいつ、こんなにスタイル良かったのかと驚いた。
もう限界だと言わんばかりに名前は今来た道を戻ろうとした。
「や、やっぱりこれじゃ動きにくいから前の制服に戻す!!」
「はぁ?!何言ってんのよ!五条先生の思い通りにはならないって思い知らせてやるんでしょ!」
慌てて釘崎が名前の腕を掴んだ。
「それに今2年の先輩達にも写真送ったら、今から見に来るって」
「えぇ?!」
「だからもうしばらくこのままでいて♪」
満面の笑みで言われて名前は口をパクパクさせていると。
「よぉ!名前を見にきたぞー」
「しゃ、しゃけ!!」
「おい。お前ら邪魔で見えねぇよ。特にパンダ!」
部屋の扉が勢いよく開けられた。
乙女の部屋にノックぐらいしなさいよ!と釘崎が訴えるがこの2年生達には聞こえていないようだ。
「おぉー!可愛いぞ!名前」
「しゃけしゃけ!」
「いいんじゃね?そっちのがお前には似合うよ」
お世辞なぞ言わない2年生が褒めてくれたことで
名前はホッとした。
皆でそのまま名前の制服から悟の過保護さについても話は及び、和気藹々と時間を過ごしていた。
しかし。
「そういや、野薔薇が送ってきた写真。あいつにもさっき送ってやったぜ」
「…え?」
「そのうち電話寄越してくるかもな」
真希の言葉に名前が固まった。
不意打ちに撮られてどんな顔で写ったかもわからない写真…。
「ま、真希ちゃん。送ったって誰に…」
「あ?あの金髪ピアスに決まってんだろ」
涼しい顔で真希は答えた。
「えぇ?!な、直哉くんに…??送っちゃったの?!」
よりによってその写真写りも確認できていない写真を、想い人に送られているとは冷や汗ものだった。
「け、消して!送信取り消しして!」
名前が真希の腕に縋り付く。
「はぁ?もう速攻で既読ついてたし、もう消せねぇよ」
「じゃ、じゃあ返事なんて来てたの…??」
皆の視線が真希のスマホへと集中する。
「直哉って…真希さんの従兄弟で名前の好きな…」
「ちょ!野薔薇!」
「今更だろ」
「しゃけ」
真っ赤になる名前を皆が面白そうにつつく。
それを見ながら真希はニヤニヤしながら慣れた手つきでトークアプリを開く。
名前はなんと返事が来ているのか気になって仕方がなかったのでその画面を覗き込む。
「どうせもっと写真送れとかきてんじゃ…あれ?」
きっと新着のトークの知らせでいっぱいになっていると踏んでいた真希は拍子抜けした。
「…まだ、何も来てねぇな」
その一言に何となく気不味い空気が流れる。
「そ、そっか…」
「まぁ、あいつ腐っても特別一級だからな。忙しいんだろ」
明らかに落ち込んでしまった名前を真希が出来るだけ自然体でフォローする。
皆に気を遣わせないよう、名前も出来るだけ笑顔で返事をした。
「そうだね。あ、明日悠仁と恵は朝から任務だったね!私もそろそろ自分の部屋に戻るね」
その言葉に皆それぞれ自室に戻る流れになり、名前も言った通り自分の部屋に戻り、着替えを済ませた。
早々とベッドに潜り込んで深呼吸をする。
真希のメッセージに返信がなかったことが自分の中ではかなりショックだった。
何も反応がないという事実は必要以上に不安を駆り立てた。
(…直哉くん、ああいう服装はタイプじゃなかったかな)
下品だったろうか?
幻滅されてしまったろうか?
いや、彼はいつもどんな時でも自分を肯定してくれていた。
きっと大丈夫。
でも…。
そんな考えを巡らせ、長い夜を超えた。
「…ん」
眩しさと朝独特の肌寒さで目を覚ます。
あのまま眠れないかもしれないと思ったが、いつの間にか眠れたようだ。
ふと視線を横に映すと、件の制服がハンガーにかけて壁に吊るされている、
今日はどうしようか?
やっぱり前のダサい制服に戻そうか?
しかしみんなが褒めてくれたこの新しい制服、実は自分も結構気に入っているのだ。
まだ少し慣れないが。
「やっぱり、とりあえずお兄ちゃんの思い通りにはなりたくない!」
そう決心すると新しい制服に袖を通した。
身支度をし、野薔薇と2人で今日は授業だ、と予定を確認した。
その時だった。
「名前ーーー!!!」
「きぁあぁ!!?」
ノックもなしに叫び声と共に部屋の扉が開かれた。
驚きのあまり名前は飛び上がる。
と、同時に部屋に入ってきた人物に両肩を掴まれた。
「何何何?!その格好どうしたの?!」
「お、お兄ちゃん!!」
今日は兄が担当する授業が予定されたいたので、その時に見せようと思っていたのに…。
何故部屋にまで?いつ知ったのだろうか?
何から問い質せばいいかわからず、名前は口をパクパクさせた。
「そんな破廉恥なデザインお兄ちゃん認めないからな!」
「なっ…!!はれんちって、おじさんみたいなこと言わないでよ!」
顔を真っ赤にして名前が悟の胸を押し返した。
(ちょ、びくともしない…)
体格差もありちっとも悟を引きはがすことができない。
「元の制服に戻して!悪い虫がこれ以上ついたら俺心労で死んじゃうから!」
「何言ってるのよ!そんな繊細な心臓じゃないくせに!はーなーせー!!私はこれ以上お兄ちゃんの勝手には振り回されたくないのー!!」
先ほどより強く押す。
一方悟からは頷かなければ離さないという気迫を感じる。
しかしここで頷いてしまっては名前の自己主張はそれまでになってしまう。
協力してくれた友人たちにも見せる顔がない。
どうしたらこの過保護が行き過ぎている兄にわかってもらえるのか…。
名前がそう思った時だった。
「…名前ちゃん」
悟でも名前でもない者の声が聞こえた。
「え?」
声のした入口に2人とも視線を移す。
そこには予想もしていなかった人物が立っていた。
「な、直哉君!?」
いつもの書生のような和装姿。
朝日にその金色の髪がキラキラと反射していた。
「げ。何、直哉、何しに来たの?女子寮に不法侵入だから。通報するよ」
「お兄ちゃんもでしょうが!」
僕はここの教員で名前は兄妹だから問題ないでーす。とふざける兄のすきをついて、名前は悟を押しのけて直哉の前へ駆け寄った。
「な、直哉君。どうしてここに?」
未だ入口でぽかんとした表情で突っ立っている直哉に、名前は恐る恐る声をかけた。
「名前ちゃん…。やばい。めっちゃ可愛い」
「え?」
「昨日速攻任務終わらして来てよかったわー!!やっぱ本物みたいやん?昨日真希ちゃんが任務中に名前ちゃんの写真送ってくるからそっちに夢中んなって危うく呪霊に殺されかけたわ。せや!それより俺にも写真撮らして?」
「え?えぇ?!」
息継ぎをする暇もなく話す直哉に、名前は何も言葉を返せないまま肩を組まれる。どうやら一緒に撮ろうという意味らしい。
名前の肩に手を回し、顔を隣にくっつける。
(きゃああああ!?ち、近い!直哉君が近い!!どうしよう!?)
(名前ちゃんなんか甘くていいにおいするわー)
和装の直哉からは不釣り合いなスマホがどこからか取り出されてこちらに向けた。
と、そのとき。
「はいストーップ!!お前なんかが名前の絶対領域を見ていいと思うなよー!ましてや写真なんか撮らせるか!帰れ!」
悟は名前と直哉の間に無理やり割り込んで二人を引きはがす。
直哉はそんな悟に飄々とした態度で言葉を返す。
「あれ、悟くんおったんか?名前ちゃんが眩しすぎて見えんかったわ」
「へー、糸目になりすぎて視野狭窄まであるんじゃない?眼科行けよ」
「お兄ちゃん!!」
チリッーーー。
火の粉が爆ぜたような音がした気がした。
悟の後ろでは見たこともないほど怒っている名前がいた。
「… 名前?」
名前の瞳が炎のように大きく揺らいだような気がした。
「もう!わけのわかんないことばっかり!直哉君にまでそんなこと言って!お兄ちゃんなんか…嫌い!!」
「えぇ?!」
「ははは!」
本気で落ち込む悟を笑い飛ばす直哉。
「何笑ってんの、お前のせいだかんな!だいたい直哉みたいなロリコンが名前の周りうろつくから俺が過保護にならざるを得ないんでしょうが」
小声で呪いの言葉を吐きながら、目隠し越しに直哉を睨む。
「はぁ?人聞き悪いこと言わんといてくれる?そんなに歳離れとらんし」
「お前俺の一個下でしょーが」
「もう!やめてってば!」
名前が叫ぶと同時に悟がぐるりとこちらに大きく振り返った。
「な、何よ」
何か言いたそうに名前を見つめる。
「とにかく!その制服じゃ授業受けさせないから!前の制服着て!」
そう言って名前のジャケットを掴みボタンを外そうとする。
「は、ちょ、何してんのよ!馬鹿!やめてよ!」
「悟くん!何もったいないことしてんねん!やめ…」
それを止めようと近づいてきた直哉の手が、何かに気づいたようにはたと止まる。
「前の制服ってあのダボっとしとるやつやんな…あかん。それにミニスカなんてエロすぎ…尊い」
「ちょ、え?何?なんて言ったの?それより直哉君!お兄ちゃんを止めて!」
「名前ちゃんあかん!そんなん他の男に見せられん!!これもっと丈、長くできんの?!」
そう言った直哉は名前のスカートの裾を両手で掴むと、下に向かってぐいぐいと引っ張った。
「きやぁぁあぁ?!何してんの何してんの?!直哉くんまでどうしちゃったの?!」
名前は必死に両手でスカートを抑える。
その隙に馬鹿な兄が制服のボタンを外してくる。
一体どうしてこんなことになったのか?
名前はもうパニック状態だった。
訳がわからずもう泣き出したくなった。
その時。
ゴンっ!!!!
ガンッ!!!!
2つの鈍い音が部屋に響いた。
それと同時に名前の動きを抑えていた悟と直哉の手が離された。
「お前らなぁ…恥を知れ」
「ホント馬っ鹿じゃないの?!」
名前が視線を上げるとそこには2人の友人の姿があった。
「ま、真希ちゃん…野薔薇ぁ…」
救い主だ。名前は2人を思わず拝んだ。
その下では直哉が頭を抱えてうずくまっている。どうやら真希に脳天を殴られたらしい。
「酷い酷い!教師を金槌で殴るなんて!学級崩壊だ!」
「アンタはどうせ痛くもなんともないでしょ!」
痛いよー!などと、わざとらしく騒ぐ悟に釘崎が怒鳴りつける。
右手には金槌を握っている。
一般人が見たら恐ろしい絵面だ。
一方直哉は真希の渾身の一撃をくらってかなり痛そうであった。
あまりの痛さに声にならぬ声がうめき声として部屋に響いた。
「ったく、女の部屋で何騒いでんだよいい歳した大人が」
「っ…真希ちゃん…自分ちょっとお転婆が過ぎるんちゃう?」
立ち上がる気はないのか、そのまま蹲ったまま直哉が真希を見上げる。
「どっちが。ほれ、早く帰れ。じゃねぇとじじぃに直哉が五条家のお嬢に不埒なことしたってチクるぞ」
「まだしてへんやん」
「おい。今まだつった?」
悟が聞き捨てならないと直哉に向かって一歩踏み出そうとした。
あー、もうめんどくさいからやめろ。と、真希と釘崎が間に入った時、やっとここで我に返った名前が制服はまたデザインを考え直すと言ったことでその場はやっと丸く収まった。
もう書けないオワレ