夜の虹
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ああーー!こっちの世界の名前もほんまかいらしいわ!
俺がちょっと落ち込んだフリしたらすぐ甘やかしてくれるんやから。ホント、優しいやっちゃで。
それに元の世界に戻るまではこっちの名前を堪能せんと損っちゅう話や。
しかもツンツンした名前なんてこの先拝めることないやろからなぁ。苛めたらどんな反応するんやろ?俺にどこまでも従順で可愛い子犬みたいな名前ももちろんええけど、懐かない気高い猫みたいな名前ももちろんええ。そんな名前に意地悪するのは…うん、絶対楽しいやろ。
叶うならこっちにおる間に、戦う勇ましい姿の名前も見ておきたいわ。
世界線が違うとかはよぉわからんけど、どの世界にいようと名前は俺のもんや。
「…さっきは落ち込んでると思ったら、ニタニタして…何考えてるんだ?」
「ん?」
自分を見上げる視線を感じて横を見る。
広い、それはそれは迷路のような城の中を名前と隣に並んで歩く。高い天井からは所々明かり取りの窓があり、光の帯が名前に降り注ぐ。
「…綺麗やなぁ思て」
「?、あぁ。この時間は光が綺麗に入るからな。城の中が美しく見えるな」
天井を見上げた名前が呟いた。
ちゃうて。こっちの名前もかなりの鈍感ちゃんやな。
やれやれと思ったら名前がふっと笑った。
「あ?なんや」
「いや、お前がそういう情緒みたいなのを感じるタイプに見えなかったのでな。意外だった」
失礼やなぁ。
いつも自室の縁側から見えるの四季を愛であった仲だと言うのに。
あの庭は春は桜、夏は池と常緑、秋は楓、冬は降り積もる雪が美しく見えるよう設計されている。それを教えたのは他でもない自分なのにと、そこまで考えて思った。
名前が世話役として禪院家に来るまでは庭を見て美しいと思ったことなんてなかった。
季節が移ろうごとにお前が俺を縁側に呼んではそれを喜んで見ているから、いつしかそう言う情緒みたいなものを楽しむことができるようになった。
「…礼拝堂も綺麗だぞ。ステンドグラスに入る光が朝日と夕日で色が変わるから、それぞれの時間に行ってみるといい」
考え込んだ俺の横から声がした。
それを聞いてやっぱりこの少年も名前なのだと思った。
「ここが俺の部屋だ」
装飾が施された重厚感のある扉の前で名前が止まった。
ここに来るまで何人かすれ違っては俺を奇妙なものでも見るような目で見ていた。
その度に名前は、
「異国からお越しいただいた客人だ。珍しい術式をお持ちのようだから招待した」
とそれらしい嘘をわざわざついて説明した。
「もう俺のことそないに信用してくれとるん?」
部屋に招かれ、またさっきのように無遠慮にベッドに転がった。さっきと違うのはベッドがキングサイズくらいあることだろうか。
悟くんサイズやな。
それをやれやれとため息は吐くものの咎めはしない名前は、重たそうな装飾がついた白いコートを脱いでこれまた立派なクローゼットに戻す。
「お前が俺たちに何か危害を加えるつもりがないのは何となくわかっている。それにしばらくはここにいるだろ?本当のことを説明してもいいが、あぁ言っておいた方が面倒にならなくて済む」
そう言って名前はベッドから離れた場所にある…仕事用のデスクだろうか?何やら紙が山積みになっているテーブルの椅子に腰掛けた。
「じゃあお前の術式について教えてもらおうか」
「は?」
「は?って、そう言う約束でここに連れてきたんだぞ」
そう言えばそうだったか?とりあえず名前と離れる時間がもったいなくて部屋に何とか転がり込もうと思っていたので条件なんて何でもよかった。部屋に入ってしまえばあとはごねるなり拗ねるなりなんでもして居座る気だった。
「あーはいはい!そやったなぁ!ほな俺の家の相伝から説明したるわなぁー」
そんな思惑を悟られないよう大袈裟に声を上げて誤魔化す。
出来るだけ話も長くなるように家の歴史から話し始めた。
すぐにもういい、と言われるかと思ったが聞いたこともない世界や術式の話に名前は興味津々のようだった。
長い長ーい俺の話もついに終わった頃には、もう夜空の高い位置に月が浮かんでいた。
話の途中、従者によって運ばれてきた食事は見たことも聞いたこともないものばかりだったがうまかった。
「なるほど…その論理からいくとお前の術式は術者の力量によっては加速度もかなりのものに…」
やっぱりこっちの名前も賢くて実に聡明なようだ。一度聞いただけで俺の術式を理解して何やら独り言を呟いていた。
「なぁ、俺今日一日色々ありすぎて眠たいわ…」
「ん?…あぁ!すまない。そうだな、さっきの部屋までまた案内しよう」
立ち上がった名前を目尻にベッドに倒れ込んで寝返りを打つ。
「もう動けん。ここで寝る」
「は、はぁ?!何言ってるんだ!俺が眠れないだろ!起きろ!」
俺の肩を名前がユサユサと揺する。
こんな時でも遠慮して少しの力でしか揺すらない名前の優しさと甘さにこっそり悶えた。
「んんっ!…無理。ベッドこないに広いんやから一緒に寝たらええやん」
「馬鹿いうな!」
背を向けているため顔は見えないが、きっと顔を真っ赤にしているのだろう。
やっぱりかいらしいなぁ。
それにこのベッドちゃぁんと名前の匂いがする。相変わらず男のくせに何てえぇ匂いなんや。
あ。あかん。ホンマに、眠たいわ。
肩に触れる名前の手があったかい。
「…おい。おいって。…嘘だろ、本当に寝やがった…」
はぁぁと深く溜息が吐かれたのを俺は知らん。
△
「直哉様。礼拝堂がとても綺麗だそうですよ!見に行きませんか」
「… 名前?!」
その夜、ふと目が覚めた。
夢だ。
白い光の中で俺に微笑む名前。
差し出されたその手を咄嗟に掴もうと、自分の手を伸ばそうとしたところで意識が浮上した。
そして自分に上等な毛布がかけられていることに気づいた。同時に着物のまま寝てしまったことも。
起きたら元の世界…何て少し期待もしていたが、月灯りに照らされた部屋を見渡せば現実を思い知る。
「あれ?名前は…」
隣には誰もいなかった。
もしかして俺に気を遣ってあの倉庫のような小部屋に名前が寝ているのだろうか?
そう思ってベッドから起き上がり寝室を出る。
そして窓際にあるこれまた大きくて豪華なソファの上に小さな毛布の山が見えた。
「…」
近づくと丸くなって眠っている名前の寝顔がそこにはあった。窓から入り込む月明かりに照らされてそれはそれは美しかった。
俺はそっとカーテンを閉める。
少しでも月に攫われてしまうかもしれないなんて馬鹿なことを考えた自分に呆れた。
その時だった。
部屋の外に気配を感じた。
人間のようだ。
1人。
こんな時間に何だ?
もしかして王族の名前を狙った刺客?
それとも異質な自分を警戒した隊員の誰かか?
だが、殺気を感じられないその気配に俺はまた悠長にベッドへと戻り腰掛けた。
そして気配の主が部屋の扉を開けるのをそこから見守った。
扉が開かれ、入ってきたのは筋骨隆々と言った感じの厳つい男だった。
何か甚壱君思い出した。
そいつがベッドにいる俺に視線を向けた。
すると一瞬驚いた顔をしたと思ったらすぐに不機嫌そうにその顔を歪めた。
「なんだ、テメェ」
見た目通りの野太い声が部屋に響いた。
「俺の名前はどこいった?」
「あ?お前名前のなんなんや?」
俺のやと?何寝ぼけたこと言っとんのや。
殺してええか?
酒でも飲んでいるのか、酒気がここまで漂ってきた。
男は俺に近づいてきて言った。
「奇妙な出立…、昼間隊員たちが噂してた名前の客ってのはお前か。俺はあいつの従兄弟でこの教団のNo.2だ。そんな俺にお前…頭が高いと思わないか?」
伸びてきた腕が届く寸前で俺は術式を使って背後に回った。
突然消えた俺に、男は狼狽えることなくそのままその太い腕を振り上げて振り向きざまに振りかぶった。
酒を飲んでこのスピードと判断力は成る程、No.2というのも嘘ではないかもしれない。
もちろんその拳が俺に当たることはないが。
さらに別の場所に移動した俺を男はまだ余裕のある表情で見ている。
「珍しい術式を使うって話だったなぁ。けどよぉ。逃げてばっかじゃ悪魔相手には役に立たないぜ?」
ぶっ飛ばしてやっても良いが、まだこいつの術式すら不明。隣では名前が眠っているため大きな音を出して起こしたくない。
とりあえず何をしにこの部屋にきたのかだけ聞いてやろう。そのあとは窓からうっかり落としてしまえばいいだろう。
そう思った時、凛として澄んだ声が響いた。
「やめろ。人の部屋で…何してやがる」
そこには名前が寝巻き姿のまま立っていた。
上等なシルクの真っ白な寝巻き…
か、かわえぇ。
いつもの浴衣もええ。だけどそのパジャマもええ。萌。
「おい。名前、誰の許可とってこんな怪しいヤツ城の中に入れた。しかも部屋にまで連れ込みやがって…」
「貴様の許可が必要か?」
名前が見たこともないほど嫌悪を露わにした表情で男を睨んでいた。
ひぇぇ!ゾクゾクするわぁ!怒った名前もええわぁ!
ん?…なんや、急に部屋ん中寒ぅなってきた…?
その異変に男も気づくと表情が少し強張った。
「ちっ…。わぁったよ。また出直すからよ」
「二度と来るな」
何と驚いたことに男はあっさり名前の部屋から出ていった。
それと同時に先程まで感じていた冷気もどこかへ消え失せた。
「…すまなかったな。怪我はないか?」
ちょっと唖然としてる俺に名前が近づいてきて言った。
おぉ、さっきの殺伐とした雰囲気の名前からの俺を心配する可愛い名前…ギャップで俺を殺す気なんか?
「もぉ焦ったわぁ。殺してまうかもしれん思たわ。今のやつなんなん?」
悶える俺をひた隠しにしてニヤニヤと名前に近づく。
俺の質問に名前は深いため息と共に頭を抱えた。
「…俺の従兄弟で教団のトップの1人だ。あんな奴だが、悪魔祓いとしての実力は確かだ」
「ホンマにー?あいつ自分でNo.2だとかほざいとったけどそれ名前より凄いんか?」
不服ながらと言った顔をした名前は簡単に説明した。
教団は四つの部隊に大きく分かれていて、それぞれトップとして束ねる隊長がいる。
隊長4人に対して正式にNo.1など順位がつけられているわけではないが、呪力や術式の種類によって暗黙のランク付けがされているとのこと。
「俺は残念ながら、術式の性質上あいつ相手だと武が悪い…」
本気で殺し合えば負けるだろうとの発言に、いささか不満を感じた。
そこで思いついた。
「せや。俺がこっちにいる間名前の部下になったるわ」
「…は?」
何の話?
と顔に書いてある名前に嬉々として俺は説明した。
「術式は変えられんでも部下は変えられるやろ?この直哉様が部下になって名前にデカい顔させたるわ」
おぉ!我ながらいいアイディアや!そうすれば任務中の名前ともずっとおれるし、戦う勇ましい姿の名前も見れる。
俺のかっこええところも見せれるしな♪
「よし!明日から呪い、やない。…悪魔祓いに連れてったってや!」
「な、何勝手に決めてるんだ!そんな危険なところに連れて行けるか!」
え?何?ツンデレ?俺のこと心配してくれとるわけ?
「ぐっ…尊い…」
「お、おいどうした?さっきやっぱり何かされたか?」
突然しゃがみ込んだ俺に心配そうに名前が声をかける。
そんな心配そうな顔して覗き込まんといて。すぐそこにベッドまである状況でよく我慢しとる、俺。それにあんな男に俺が攻撃くらうわけな…あ、そや。
「そもそもあの男、名前に何の用やったんや。まさか夜這いか?」
「…」
「は?嘘やんな?」
冗談でニヤニヤ顔で聞いた俺に対して名前の顔が強張った。顔色も悪い。
俺は感情がなくなったように自分でも表情が抜け落ちたのがわかった。
名前ははぁと溜息をついてポツポツ話し出した。
「この国は宗教上の理由で婚前に異性間での行為は禁止されてる…だからたまに同性で欲を発散させようとする奴がいるんだ」
え、ちょ、待ちぃな。
なんやなんやなんや。
え?じゃあこっちの俺の名前はもう処女じゃあらへんの?
俺のもんに、汚い手で…
「さっきの男殺してやるわ」
「…‼︎」
俺の殺気と呪力に少々びっくりしたのか、名前が一歩後ずさった。
「ぁ、ま、待て。早まるな」
部屋から出て行こうとする俺の羽織を名前がぎゅっと掴んで引き止めた。
「俺だって隊長の1人だ。いくら術式の相性が悪いからって簡単に言いなりになったりはしないさ」
俺の肩がダサいくらいピクっと揺れた。
「ただ毎回追い返すのが面倒でな。だから最近はあの小部屋でよく寝てるんだ」
そう言われて昼間連れて行かれた物置のような部屋を思い出した。
なるぼどなぁ。
「そか。ほな名前はまだ処女やんな?」
「は?!っば、…変なこと聞くな!」
顔を真っ赤にして叫ぶ名前に俺は機嫌をすっかり良くした。
「あー!よかったわぁ!俺の名前が穢されたんやないかと心配したわ!ほな、今のうちに名前の処女は俺がもらっとくわ」
「はぁ?!」
その俺よりも華奢な肩を両手でがしりと掴んだ。と、思ったら視界から目の前にいたはずの名前が急に消えて、俺は前方に体が飛んだ。
あ、投げられたんか。
そう思ってそのまま大人しく体がベッドに着地するのを待った。
案の定ボフンという音と共に痛みもなく体がベッドに沈んだ。
「な、何考えてんだ!笑えないぞ!」
ベッドから顔だけ上げれば、その可愛い顔を真っ赤にわなわなしている名前が見えた。
これは意外やったわ。完全に油断してたとはいえこっちの名前はやっぱ強いみたいやな。これは一筋縄じゃいかへんな。
そやけど怪我せんようにわざわざベッドに投げるなんて…俺愛されとるなぁ。
「照れてしもて。可愛いらしぃのお、名前隊長さんは」
ごろんと横向きに寝転がる。
未だに顔を赤くしている名前はそのまま声にならない声を発したと思ったら、
「もう寝る!!」
と言ってまたソファの方へズンズンと大股で歩いていってしまった。
あらら。
一緒に寝たろ思たのに。
まぁええわ。今日は揶揄うのはこの辺にしといたろか。
俺は再び名前の匂いに包まれるべく上等なシーツの肌触りを堪能しながら眠りに落ちた。
俺がちょっと落ち込んだフリしたらすぐ甘やかしてくれるんやから。ホント、優しいやっちゃで。
それに元の世界に戻るまではこっちの名前を堪能せんと損っちゅう話や。
しかもツンツンした名前なんてこの先拝めることないやろからなぁ。苛めたらどんな反応するんやろ?俺にどこまでも従順で可愛い子犬みたいな名前ももちろんええけど、懐かない気高い猫みたいな名前ももちろんええ。そんな名前に意地悪するのは…うん、絶対楽しいやろ。
叶うならこっちにおる間に、戦う勇ましい姿の名前も見ておきたいわ。
世界線が違うとかはよぉわからんけど、どの世界にいようと名前は俺のもんや。
「…さっきは落ち込んでると思ったら、ニタニタして…何考えてるんだ?」
「ん?」
自分を見上げる視線を感じて横を見る。
広い、それはそれは迷路のような城の中を名前と隣に並んで歩く。高い天井からは所々明かり取りの窓があり、光の帯が名前に降り注ぐ。
「…綺麗やなぁ思て」
「?、あぁ。この時間は光が綺麗に入るからな。城の中が美しく見えるな」
天井を見上げた名前が呟いた。
ちゃうて。こっちの名前もかなりの鈍感ちゃんやな。
やれやれと思ったら名前がふっと笑った。
「あ?なんや」
「いや、お前がそういう情緒みたいなのを感じるタイプに見えなかったのでな。意外だった」
失礼やなぁ。
いつも自室の縁側から見えるの四季を愛であった仲だと言うのに。
あの庭は春は桜、夏は池と常緑、秋は楓、冬は降り積もる雪が美しく見えるよう設計されている。それを教えたのは他でもない自分なのにと、そこまで考えて思った。
名前が世話役として禪院家に来るまでは庭を見て美しいと思ったことなんてなかった。
季節が移ろうごとにお前が俺を縁側に呼んではそれを喜んで見ているから、いつしかそう言う情緒みたいなものを楽しむことができるようになった。
「…礼拝堂も綺麗だぞ。ステンドグラスに入る光が朝日と夕日で色が変わるから、それぞれの時間に行ってみるといい」
考え込んだ俺の横から声がした。
それを聞いてやっぱりこの少年も名前なのだと思った。
「ここが俺の部屋だ」
装飾が施された重厚感のある扉の前で名前が止まった。
ここに来るまで何人かすれ違っては俺を奇妙なものでも見るような目で見ていた。
その度に名前は、
「異国からお越しいただいた客人だ。珍しい術式をお持ちのようだから招待した」
とそれらしい嘘をわざわざついて説明した。
「もう俺のことそないに信用してくれとるん?」
部屋に招かれ、またさっきのように無遠慮にベッドに転がった。さっきと違うのはベッドがキングサイズくらいあることだろうか。
悟くんサイズやな。
それをやれやれとため息は吐くものの咎めはしない名前は、重たそうな装飾がついた白いコートを脱いでこれまた立派なクローゼットに戻す。
「お前が俺たちに何か危害を加えるつもりがないのは何となくわかっている。それにしばらくはここにいるだろ?本当のことを説明してもいいが、あぁ言っておいた方が面倒にならなくて済む」
そう言って名前はベッドから離れた場所にある…仕事用のデスクだろうか?何やら紙が山積みになっているテーブルの椅子に腰掛けた。
「じゃあお前の術式について教えてもらおうか」
「は?」
「は?って、そう言う約束でここに連れてきたんだぞ」
そう言えばそうだったか?とりあえず名前と離れる時間がもったいなくて部屋に何とか転がり込もうと思っていたので条件なんて何でもよかった。部屋に入ってしまえばあとはごねるなり拗ねるなりなんでもして居座る気だった。
「あーはいはい!そやったなぁ!ほな俺の家の相伝から説明したるわなぁー」
そんな思惑を悟られないよう大袈裟に声を上げて誤魔化す。
出来るだけ話も長くなるように家の歴史から話し始めた。
すぐにもういい、と言われるかと思ったが聞いたこともない世界や術式の話に名前は興味津々のようだった。
長い長ーい俺の話もついに終わった頃には、もう夜空の高い位置に月が浮かんでいた。
話の途中、従者によって運ばれてきた食事は見たことも聞いたこともないものばかりだったがうまかった。
「なるほど…その論理からいくとお前の術式は術者の力量によっては加速度もかなりのものに…」
やっぱりこっちの名前も賢くて実に聡明なようだ。一度聞いただけで俺の術式を理解して何やら独り言を呟いていた。
「なぁ、俺今日一日色々ありすぎて眠たいわ…」
「ん?…あぁ!すまない。そうだな、さっきの部屋までまた案内しよう」
立ち上がった名前を目尻にベッドに倒れ込んで寝返りを打つ。
「もう動けん。ここで寝る」
「は、はぁ?!何言ってるんだ!俺が眠れないだろ!起きろ!」
俺の肩を名前がユサユサと揺する。
こんな時でも遠慮して少しの力でしか揺すらない名前の優しさと甘さにこっそり悶えた。
「んんっ!…無理。ベッドこないに広いんやから一緒に寝たらええやん」
「馬鹿いうな!」
背を向けているため顔は見えないが、きっと顔を真っ赤にしているのだろう。
やっぱりかいらしいなぁ。
それにこのベッドちゃぁんと名前の匂いがする。相変わらず男のくせに何てえぇ匂いなんや。
あ。あかん。ホンマに、眠たいわ。
肩に触れる名前の手があったかい。
「…おい。おいって。…嘘だろ、本当に寝やがった…」
はぁぁと深く溜息が吐かれたのを俺は知らん。
△
「直哉様。礼拝堂がとても綺麗だそうですよ!見に行きませんか」
「… 名前?!」
その夜、ふと目が覚めた。
夢だ。
白い光の中で俺に微笑む名前。
差し出されたその手を咄嗟に掴もうと、自分の手を伸ばそうとしたところで意識が浮上した。
そして自分に上等な毛布がかけられていることに気づいた。同時に着物のまま寝てしまったことも。
起きたら元の世界…何て少し期待もしていたが、月灯りに照らされた部屋を見渡せば現実を思い知る。
「あれ?名前は…」
隣には誰もいなかった。
もしかして俺に気を遣ってあの倉庫のような小部屋に名前が寝ているのだろうか?
そう思ってベッドから起き上がり寝室を出る。
そして窓際にあるこれまた大きくて豪華なソファの上に小さな毛布の山が見えた。
「…」
近づくと丸くなって眠っている名前の寝顔がそこにはあった。窓から入り込む月明かりに照らされてそれはそれは美しかった。
俺はそっとカーテンを閉める。
少しでも月に攫われてしまうかもしれないなんて馬鹿なことを考えた自分に呆れた。
その時だった。
部屋の外に気配を感じた。
人間のようだ。
1人。
こんな時間に何だ?
もしかして王族の名前を狙った刺客?
それとも異質な自分を警戒した隊員の誰かか?
だが、殺気を感じられないその気配に俺はまた悠長にベッドへと戻り腰掛けた。
そして気配の主が部屋の扉を開けるのをそこから見守った。
扉が開かれ、入ってきたのは筋骨隆々と言った感じの厳つい男だった。
何か甚壱君思い出した。
そいつがベッドにいる俺に視線を向けた。
すると一瞬驚いた顔をしたと思ったらすぐに不機嫌そうにその顔を歪めた。
「なんだ、テメェ」
見た目通りの野太い声が部屋に響いた。
「俺の名前はどこいった?」
「あ?お前名前のなんなんや?」
俺のやと?何寝ぼけたこと言っとんのや。
殺してええか?
酒でも飲んでいるのか、酒気がここまで漂ってきた。
男は俺に近づいてきて言った。
「奇妙な出立…、昼間隊員たちが噂してた名前の客ってのはお前か。俺はあいつの従兄弟でこの教団のNo.2だ。そんな俺にお前…頭が高いと思わないか?」
伸びてきた腕が届く寸前で俺は術式を使って背後に回った。
突然消えた俺に、男は狼狽えることなくそのままその太い腕を振り上げて振り向きざまに振りかぶった。
酒を飲んでこのスピードと判断力は成る程、No.2というのも嘘ではないかもしれない。
もちろんその拳が俺に当たることはないが。
さらに別の場所に移動した俺を男はまだ余裕のある表情で見ている。
「珍しい術式を使うって話だったなぁ。けどよぉ。逃げてばっかじゃ悪魔相手には役に立たないぜ?」
ぶっ飛ばしてやっても良いが、まだこいつの術式すら不明。隣では名前が眠っているため大きな音を出して起こしたくない。
とりあえず何をしにこの部屋にきたのかだけ聞いてやろう。そのあとは窓からうっかり落としてしまえばいいだろう。
そう思った時、凛として澄んだ声が響いた。
「やめろ。人の部屋で…何してやがる」
そこには名前が寝巻き姿のまま立っていた。
上等なシルクの真っ白な寝巻き…
か、かわえぇ。
いつもの浴衣もええ。だけどそのパジャマもええ。萌。
「おい。名前、誰の許可とってこんな怪しいヤツ城の中に入れた。しかも部屋にまで連れ込みやがって…」
「貴様の許可が必要か?」
名前が見たこともないほど嫌悪を露わにした表情で男を睨んでいた。
ひぇぇ!ゾクゾクするわぁ!怒った名前もええわぁ!
ん?…なんや、急に部屋ん中寒ぅなってきた…?
その異変に男も気づくと表情が少し強張った。
「ちっ…。わぁったよ。また出直すからよ」
「二度と来るな」
何と驚いたことに男はあっさり名前の部屋から出ていった。
それと同時に先程まで感じていた冷気もどこかへ消え失せた。
「…すまなかったな。怪我はないか?」
ちょっと唖然としてる俺に名前が近づいてきて言った。
おぉ、さっきの殺伐とした雰囲気の名前からの俺を心配する可愛い名前…ギャップで俺を殺す気なんか?
「もぉ焦ったわぁ。殺してまうかもしれん思たわ。今のやつなんなん?」
悶える俺をひた隠しにしてニヤニヤと名前に近づく。
俺の質問に名前は深いため息と共に頭を抱えた。
「…俺の従兄弟で教団のトップの1人だ。あんな奴だが、悪魔祓いとしての実力は確かだ」
「ホンマにー?あいつ自分でNo.2だとかほざいとったけどそれ名前より凄いんか?」
不服ながらと言った顔をした名前は簡単に説明した。
教団は四つの部隊に大きく分かれていて、それぞれトップとして束ねる隊長がいる。
隊長4人に対して正式にNo.1など順位がつけられているわけではないが、呪力や術式の種類によって暗黙のランク付けがされているとのこと。
「俺は残念ながら、術式の性質上あいつ相手だと武が悪い…」
本気で殺し合えば負けるだろうとの発言に、いささか不満を感じた。
そこで思いついた。
「せや。俺がこっちにいる間名前の部下になったるわ」
「…は?」
何の話?
と顔に書いてある名前に嬉々として俺は説明した。
「術式は変えられんでも部下は変えられるやろ?この直哉様が部下になって名前にデカい顔させたるわ」
おぉ!我ながらいいアイディアや!そうすれば任務中の名前ともずっとおれるし、戦う勇ましい姿の名前も見れる。
俺のかっこええところも見せれるしな♪
「よし!明日から呪い、やない。…悪魔祓いに連れてったってや!」
「な、何勝手に決めてるんだ!そんな危険なところに連れて行けるか!」
え?何?ツンデレ?俺のこと心配してくれとるわけ?
「ぐっ…尊い…」
「お、おいどうした?さっきやっぱり何かされたか?」
突然しゃがみ込んだ俺に心配そうに名前が声をかける。
そんな心配そうな顔して覗き込まんといて。すぐそこにベッドまである状況でよく我慢しとる、俺。それにあんな男に俺が攻撃くらうわけな…あ、そや。
「そもそもあの男、名前に何の用やったんや。まさか夜這いか?」
「…」
「は?嘘やんな?」
冗談でニヤニヤ顔で聞いた俺に対して名前の顔が強張った。顔色も悪い。
俺は感情がなくなったように自分でも表情が抜け落ちたのがわかった。
名前ははぁと溜息をついてポツポツ話し出した。
「この国は宗教上の理由で婚前に異性間での行為は禁止されてる…だからたまに同性で欲を発散させようとする奴がいるんだ」
え、ちょ、待ちぃな。
なんやなんやなんや。
え?じゃあこっちの俺の名前はもう処女じゃあらへんの?
俺のもんに、汚い手で…
「さっきの男殺してやるわ」
「…‼︎」
俺の殺気と呪力に少々びっくりしたのか、名前が一歩後ずさった。
「ぁ、ま、待て。早まるな」
部屋から出て行こうとする俺の羽織を名前がぎゅっと掴んで引き止めた。
「俺だって隊長の1人だ。いくら術式の相性が悪いからって簡単に言いなりになったりはしないさ」
俺の肩がダサいくらいピクっと揺れた。
「ただ毎回追い返すのが面倒でな。だから最近はあの小部屋でよく寝てるんだ」
そう言われて昼間連れて行かれた物置のような部屋を思い出した。
なるぼどなぁ。
「そか。ほな名前はまだ処女やんな?」
「は?!っば、…変なこと聞くな!」
顔を真っ赤にして叫ぶ名前に俺は機嫌をすっかり良くした。
「あー!よかったわぁ!俺の名前が穢されたんやないかと心配したわ!ほな、今のうちに名前の処女は俺がもらっとくわ」
「はぁ?!」
その俺よりも華奢な肩を両手でがしりと掴んだ。と、思ったら視界から目の前にいたはずの名前が急に消えて、俺は前方に体が飛んだ。
あ、投げられたんか。
そう思ってそのまま大人しく体がベッドに着地するのを待った。
案の定ボフンという音と共に痛みもなく体がベッドに沈んだ。
「な、何考えてんだ!笑えないぞ!」
ベッドから顔だけ上げれば、その可愛い顔を真っ赤にわなわなしている名前が見えた。
これは意外やったわ。完全に油断してたとはいえこっちの名前はやっぱ強いみたいやな。これは一筋縄じゃいかへんな。
そやけど怪我せんようにわざわざベッドに投げるなんて…俺愛されとるなぁ。
「照れてしもて。可愛いらしぃのお、名前隊長さんは」
ごろんと横向きに寝転がる。
未だに顔を赤くしている名前はそのまま声にならない声を発したと思ったら、
「もう寝る!!」
と言ってまたソファの方へズンズンと大股で歩いていってしまった。
あらら。
一緒に寝たろ思たのに。
まぁええわ。今日は揶揄うのはこの辺にしといたろか。
俺は再び名前の匂いに包まれるべく上等なシーツの肌触りを堪能しながら眠りに落ちた。