爆豪
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「あー…、暇。ゲームしてー」
誰もいない部屋でソファに埋もれた俺は独り言ちた。
自分の部屋とは違ってここは物も必要最低限。
本や食器なんかもピチッと決められた場所に収まって掃除も行き届いた清潔な部屋。
意外にも白とか黒とか落ち着いた配色の家具が陣取るその部屋はモダンな雰囲気だった。
モデルルームみてぇだなって思って、初めてきた時は何か落ち着かなかった。
爆豪の家に居候するようになって2週間。
仕事もせず、家事もそこそこ。退屈だから家主がいない間掃除とか買って出るがすぐに終わっちまう。
TVは見ねぇ方がいいだろって言われて立派なTVがあるのにも関わらず電源すらつかねぇ。まぁ普段から世間のことなんてあんま興味ねぇし、別にいいけど…いいんだけど。あまりにも暇だ。スマホは爆豪に取り上げられた。これは流石に異議を唱えたが、表向きには俺は怪我でヒーロー活動を休止している身のため、勝手に外部と連絡を取ってそこから情報が漏洩するのを防ぐためとか何とか言ってた。
それも最初は落ち着かなかったが…。まぁ、さすが俺というか、適当に引っ掛けた女の子たちからのひっきりなしの連絡を気にしなくていいのは実に穏やかな気分だった。
今度からは真面目なお付き合いだけにしようと心に誓ったものだ。
さてさて、事の発端は2週間前。
個性を持った奴が何人か集まって出来た窃盗集団を追っていた。
1人確保したところでうっかりそいつの個性に当てられてしまった。
性転換の個性。
俺は今、つまり女になってしまったのだ。
個人差はあるが1ヶ月で元に戻ると言われたが、長すぎる…。
その間報道陣に面白おかしく騒がれねぇようにと、こうして爆豪の家で匿ってもらっているわけだ。自分の家で引き篭もっていると言ったら買い物とか困るだろうと言われて、まぁそうなのかな?って爆豪に結局甘えている。
「暇だなー」
俺はもう一度呟いてソファに寝転がる。
そのまま窓の外が暗くなっていくのをいつまでもボーッと見ていた。
「…帰った」
「あ!おかえりー。お疲れさん」
いつの間にか家主のご帰還だ。
「暇だしよー。米だけ炊いといた」
「っは!上等だな」
それ以外は爆豪がいつでも食べれるようにって、いつの間にか作り置いてくれた料理がある。だから俺がすることはないというわけで、決して怠けているわけではない。
俺がもちろん作ってもいいんだけど…まぁ俺が作るより才能マン様が作る方が美味いし早いし、な?
2人でテーブルを挟んで座って飯を食べる。
超うめぇー。
このヒモみたいな生活から抜け出せなくなりそうでヤバい。いや金はあるのよ?でもこの頑固なお兄さんは受け取ろうともしてくれねぇ。
「俺元に戻ったら仕事がんばるな!ボスに楽させてやんなきゃなー!」
俺のボスは何といってもこの爆豪勝己様だ。
卒業してすぐ爆豪は自分でヒーロー事務所を立ち上げた。卒業が近づいて皆んながどんどん所属する事務所決めたく中、爆豪は何故か俺に自分のサイドキックにならねぇかって誘ってくれた。
俺はゆるーくヒーローやるつもりだったから断った。でも“お前とヒーローやるって決めてんだわ”って誘われて3回目でコロリと落ちてしまった。ちょろい。でもあの大爆殺神にそんな風に言われたらさー…浮かれちまうだろ?
「そうだな…お前にはお前の仕事をきっちりしてもらうわ。今はしっかり休んどけ」
「俺の上司かっけぇー!でもなんか悪いな」
まぁでもここはお言葉に甘えよう。
こんなに長く休めることなんてねぇもんな。
今はこの麗しきヒモ生活を堪能し尽くしてやる。そのあとはきっちり正義のヒーローやってやるさ。
「けどちょっと暇すぎんだよな。俺自分の家からゲーム機取ってきていい?」
「あぁ。それなら今日とってきてやった。玄関置いといたわ」
「まじか!さっすが!」
これでしばらくは楽しく過ごせそうだ。
早速ゲームをしようと皿洗いを(食洗機が)済ませて、風呂に入って…いざゲームを!
と、思ったんだけど。
「ダメだ。…ねみぃ」
大して疲れるようなこともしていないというのに、この体になってからというもの眠気が酷い。時刻は21時。子供かよ。
女性の体というのは大変なんだな。
「ごめ、爆豪…。俺もう寝ていいか?」
「おう。俺も風呂入って寝るわ」
俺のやることなんてもうないしな。
さっさと寝て電気代の節約だ。
俺は爆豪がわざわざ用意してくれた部屋にふらつく足取りで向かい、ベッドに倒れ込んだと同時に泥のように眠った。
そして重たい頭のまま朝を迎える。
あんなに早く寝てるのにこのスッキリしない感じは何なのだろう?女の体は不思議で大変だ。
今後はもっと女性に優しく出来そうだ。
ふわふわの羽毛布団を剥がしてベッドから抜け出る。
「はよー」
「おう。…顔色悪りぃな」
「何か寝てんのに頭ぼーっとすんだよね」
貧血かなぁ??
そう言ってダイニングテーブルにつけば爆豪が湯気の立つココアを出してくれる。
うーん。うまぁ。
そのままサラダとベーグルサンドが出てきた。
「無理して食うな」
「いやいや食べれちゃうでしょうよ。いっただきまーす!」
娯楽の少ない今の生活には3度の飯がマジで楽しみすぎる。しかもほんと美味ぇ。
俺はたまにはこんなハプニングも悪くないなんて思った。
それを後々、なんて愚かな考えだったのだろうと、打ちのめされる日が来るなんて思ってもみなかった。
個性事故に巻き込まれてから1ヶ月が経った。
「いつになんのかなー」
「そういうのは個人差あるからな。焦んじゃねぇ」
さらにそれから2週間経った。
「なぁ。なんかおかしいんじゃね?俺大丈夫だよな?」
「大丈夫に決まってんだろ。狼狽えてんじゃねぇ」
さらに、2週間…。
「爆豪どうしよう。俺、何で元に戻らねぇんだ?何か病気とか?」
「落ち着け。とにかく寝ろ。本当にビョーキになんぞ」
そうして女の体になってから3ヶ月…俺はいまだに元の体に戻れていなかった。
いつも能天気でマイペースな俺もすっかり憔悴していた。爆豪が心配してくれて俺を宥めてくれるが最近は食欲もない。それどころかストレスのせいか気分が悪くて吐いちまうことが増えた。あれだけ眠たかった夜も眠れなくなった。
俺、どうなっちまうんだ?
かかったのは性転換だけの個性じゃなかったのか?それとも本当に何かの病気か?
また気分が悪くなってトイレに走る。
爆豪は今いねぇから遠慮なくトイレとお友達だ。
胃液以外何も出てこない。
苦しくて泣けてくる。
何で、何で俺がこんな目に。
ふらつく足取りでリビングに戻る。
いつの間にか任務から帰ってきた爆豪がソファに座っていて驚いた。
爆豪も驚いた顔で俺を振り返った。
「また吐いとったんか」
「あ、うん。何か…ずっと気持ち悪いんだよな」
フラフラの俺を見兼ねてか、爆豪が立ち上がって俺の肩を支えてくれた。
そのままゆっくりとソファに座らせてくれた。
「俺、このままじゃヒーローどころか、苗字名前にも戻れねぇ」
「…お前はお前だろ」
「でも…」
「俺はお前がどうなろうと、こうしてずっと一緒にいてやる」
爆豪の言葉が嬉しい。
こんな俺でも変わらず俺を名前だと認めてくれる。それだけで俺も地面に足がついたようにちょっとホッとしてしまうのだ。
思えば爆豪は俺が女になってからも変わらず接してくれた。
感謝しかない。
「…お前に一つ言ってなかったことがあんだ」
「え?」
コイツが一緒にいてくれてよかった。そんな風に考えていた時に、唐突にそんなことを言われて、俺は爆豪の顔を見た。
ゾッとした。
何の感情も読めない。そんな顔だった。
こんなに無表情の爆豪を見たことがなかった。
これから言われる言葉が俺に取って都合の悪いものだと思うには十分だった。
「元の男の体に戻るために、絶対にしちゃいけねぇことがあんだ」
「…ぇ、」
ーーー何だって?
「な、何でそんな大事なこと黙ってたんだよ?!」
俺は叫んでいた。
両目からはまた吐いたときみたいに苦しくて涙が出てきた。
嘘だ。嘘だ。
絶対にしちゃいけねぇこと?
それって、俺、この状況って…。
それを知らぬ間にしちまったから、元に戻れなくなったってことかよ!?
「何で今まで…!」
「“妊娠”だ」
「…っは?」
俺はこの場に全く関連しないワードを聞いて思考が停止する。
そんな俺にかまわず爆豪はそのまま話し続ける。
「妊娠しちまうと男の体には戻れねぇんだそうだ」
「…」
爆豪は無表情のまま俺に告げる。
肝心な俺はと言えば、混乱の最中、はっと息を吐き出す。
「な、なんだよ。…じゃ、じゃあ俺はやっぱりたまたま敵の個性がかかりすぎただけってことだよな…?」
妊娠なんぞするわけがない。そういう行為を一切していない。だから、大丈夫、だよな?
俺は縋るような目で爆豪を見つめた。
そしたら爆豪がふと笑ったから、俺もつられて笑った。
冷や汗が背中を伝った。
ったく脅かせんなよ。そう言って肩ぐらい叩いてやろうと思ったら爆豪の掌が俺の腹に当てられた。
そのまま優しく撫ぜられる。
まるでそこにいる何かに語りかけるように…。
「ちょ、何して…」
「あんだけ出したんだ。孕んでねぇ方がおかしいよな?」
俺はもう声が出なかった。
目の前にいるこの男は何を言っているんだ?
それより、この男は誰だ?
口角を釣り上げて、井戸の底のような瞳で笑うこの男は誰なんだ?
俺はついに震え出した。
やっとこれまでの生活がとんでもないものだったと気づいてしまったから。
次々と今までの些細な違和感が大きな警報音になって頭の中で鳴り続ける。
テレビやスマホを見せてくれないのはなんでだ?
毎回眠くなっちまってたのに…いつからか眠れなくなった。なんでだ?飯…食べなくなったから…?
倒れるように毎回寝てたのに朝には布団が綺麗にかけられてたのは?
この吐き気って、これって病気とかじゃなくて、つまり…、!
“また吐いてたんか?”ってさっき爆豪はそう言った。またって?俺、吐いてるとこなんて見られたくねぇから、お前がいる時は必死に我慢してたのに…。
ゲーム機をすげーいいタイミングで持って来てくれたのは?
何でだ?
何でだ?
何で…!!
何でだよ!!
爆豪は泣き喚く俺を力尽くで抱きしめる。
その力強さに俺は大声を上げることしかできない。
そんな俺に爆豪は永遠の愛を誓う恋人のように、死刑宣告を言い渡す死神のように囁いた。
「安心しろ。さっきも言ったろ?どうなろうと、ずっと一緒にいてやるからな」
誰もいない部屋でソファに埋もれた俺は独り言ちた。
自分の部屋とは違ってここは物も必要最低限。
本や食器なんかもピチッと決められた場所に収まって掃除も行き届いた清潔な部屋。
意外にも白とか黒とか落ち着いた配色の家具が陣取るその部屋はモダンな雰囲気だった。
モデルルームみてぇだなって思って、初めてきた時は何か落ち着かなかった。
爆豪の家に居候するようになって2週間。
仕事もせず、家事もそこそこ。退屈だから家主がいない間掃除とか買って出るがすぐに終わっちまう。
TVは見ねぇ方がいいだろって言われて立派なTVがあるのにも関わらず電源すらつかねぇ。まぁ普段から世間のことなんてあんま興味ねぇし、別にいいけど…いいんだけど。あまりにも暇だ。スマホは爆豪に取り上げられた。これは流石に異議を唱えたが、表向きには俺は怪我でヒーロー活動を休止している身のため、勝手に外部と連絡を取ってそこから情報が漏洩するのを防ぐためとか何とか言ってた。
それも最初は落ち着かなかったが…。まぁ、さすが俺というか、適当に引っ掛けた女の子たちからのひっきりなしの連絡を気にしなくていいのは実に穏やかな気分だった。
今度からは真面目なお付き合いだけにしようと心に誓ったものだ。
さてさて、事の発端は2週間前。
個性を持った奴が何人か集まって出来た窃盗集団を追っていた。
1人確保したところでうっかりそいつの個性に当てられてしまった。
性転換の個性。
俺は今、つまり女になってしまったのだ。
個人差はあるが1ヶ月で元に戻ると言われたが、長すぎる…。
その間報道陣に面白おかしく騒がれねぇようにと、こうして爆豪の家で匿ってもらっているわけだ。自分の家で引き篭もっていると言ったら買い物とか困るだろうと言われて、まぁそうなのかな?って爆豪に結局甘えている。
「暇だなー」
俺はもう一度呟いてソファに寝転がる。
そのまま窓の外が暗くなっていくのをいつまでもボーッと見ていた。
「…帰った」
「あ!おかえりー。お疲れさん」
いつの間にか家主のご帰還だ。
「暇だしよー。米だけ炊いといた」
「っは!上等だな」
それ以外は爆豪がいつでも食べれるようにって、いつの間にか作り置いてくれた料理がある。だから俺がすることはないというわけで、決して怠けているわけではない。
俺がもちろん作ってもいいんだけど…まぁ俺が作るより才能マン様が作る方が美味いし早いし、な?
2人でテーブルを挟んで座って飯を食べる。
超うめぇー。
このヒモみたいな生活から抜け出せなくなりそうでヤバい。いや金はあるのよ?でもこの頑固なお兄さんは受け取ろうともしてくれねぇ。
「俺元に戻ったら仕事がんばるな!ボスに楽させてやんなきゃなー!」
俺のボスは何といってもこの爆豪勝己様だ。
卒業してすぐ爆豪は自分でヒーロー事務所を立ち上げた。卒業が近づいて皆んながどんどん所属する事務所決めたく中、爆豪は何故か俺に自分のサイドキックにならねぇかって誘ってくれた。
俺はゆるーくヒーローやるつもりだったから断った。でも“お前とヒーローやるって決めてんだわ”って誘われて3回目でコロリと落ちてしまった。ちょろい。でもあの大爆殺神にそんな風に言われたらさー…浮かれちまうだろ?
「そうだな…お前にはお前の仕事をきっちりしてもらうわ。今はしっかり休んどけ」
「俺の上司かっけぇー!でもなんか悪いな」
まぁでもここはお言葉に甘えよう。
こんなに長く休めることなんてねぇもんな。
今はこの麗しきヒモ生活を堪能し尽くしてやる。そのあとはきっちり正義のヒーローやってやるさ。
「けどちょっと暇すぎんだよな。俺自分の家からゲーム機取ってきていい?」
「あぁ。それなら今日とってきてやった。玄関置いといたわ」
「まじか!さっすが!」
これでしばらくは楽しく過ごせそうだ。
早速ゲームをしようと皿洗いを(食洗機が)済ませて、風呂に入って…いざゲームを!
と、思ったんだけど。
「ダメだ。…ねみぃ」
大して疲れるようなこともしていないというのに、この体になってからというもの眠気が酷い。時刻は21時。子供かよ。
女性の体というのは大変なんだな。
「ごめ、爆豪…。俺もう寝ていいか?」
「おう。俺も風呂入って寝るわ」
俺のやることなんてもうないしな。
さっさと寝て電気代の節約だ。
俺は爆豪がわざわざ用意してくれた部屋にふらつく足取りで向かい、ベッドに倒れ込んだと同時に泥のように眠った。
そして重たい頭のまま朝を迎える。
あんなに早く寝てるのにこのスッキリしない感じは何なのだろう?女の体は不思議で大変だ。
今後はもっと女性に優しく出来そうだ。
ふわふわの羽毛布団を剥がしてベッドから抜け出る。
「はよー」
「おう。…顔色悪りぃな」
「何か寝てんのに頭ぼーっとすんだよね」
貧血かなぁ??
そう言ってダイニングテーブルにつけば爆豪が湯気の立つココアを出してくれる。
うーん。うまぁ。
そのままサラダとベーグルサンドが出てきた。
「無理して食うな」
「いやいや食べれちゃうでしょうよ。いっただきまーす!」
娯楽の少ない今の生活には3度の飯がマジで楽しみすぎる。しかもほんと美味ぇ。
俺はたまにはこんなハプニングも悪くないなんて思った。
それを後々、なんて愚かな考えだったのだろうと、打ちのめされる日が来るなんて思ってもみなかった。
個性事故に巻き込まれてから1ヶ月が経った。
「いつになんのかなー」
「そういうのは個人差あるからな。焦んじゃねぇ」
さらにそれから2週間経った。
「なぁ。なんかおかしいんじゃね?俺大丈夫だよな?」
「大丈夫に決まってんだろ。狼狽えてんじゃねぇ」
さらに、2週間…。
「爆豪どうしよう。俺、何で元に戻らねぇんだ?何か病気とか?」
「落ち着け。とにかく寝ろ。本当にビョーキになんぞ」
そうして女の体になってから3ヶ月…俺はいまだに元の体に戻れていなかった。
いつも能天気でマイペースな俺もすっかり憔悴していた。爆豪が心配してくれて俺を宥めてくれるが最近は食欲もない。それどころかストレスのせいか気分が悪くて吐いちまうことが増えた。あれだけ眠たかった夜も眠れなくなった。
俺、どうなっちまうんだ?
かかったのは性転換だけの個性じゃなかったのか?それとも本当に何かの病気か?
また気分が悪くなってトイレに走る。
爆豪は今いねぇから遠慮なくトイレとお友達だ。
胃液以外何も出てこない。
苦しくて泣けてくる。
何で、何で俺がこんな目に。
ふらつく足取りでリビングに戻る。
いつの間にか任務から帰ってきた爆豪がソファに座っていて驚いた。
爆豪も驚いた顔で俺を振り返った。
「また吐いとったんか」
「あ、うん。何か…ずっと気持ち悪いんだよな」
フラフラの俺を見兼ねてか、爆豪が立ち上がって俺の肩を支えてくれた。
そのままゆっくりとソファに座らせてくれた。
「俺、このままじゃヒーローどころか、苗字名前にも戻れねぇ」
「…お前はお前だろ」
「でも…」
「俺はお前がどうなろうと、こうしてずっと一緒にいてやる」
爆豪の言葉が嬉しい。
こんな俺でも変わらず俺を名前だと認めてくれる。それだけで俺も地面に足がついたようにちょっとホッとしてしまうのだ。
思えば爆豪は俺が女になってからも変わらず接してくれた。
感謝しかない。
「…お前に一つ言ってなかったことがあんだ」
「え?」
コイツが一緒にいてくれてよかった。そんな風に考えていた時に、唐突にそんなことを言われて、俺は爆豪の顔を見た。
ゾッとした。
何の感情も読めない。そんな顔だった。
こんなに無表情の爆豪を見たことがなかった。
これから言われる言葉が俺に取って都合の悪いものだと思うには十分だった。
「元の男の体に戻るために、絶対にしちゃいけねぇことがあんだ」
「…ぇ、」
ーーー何だって?
「な、何でそんな大事なこと黙ってたんだよ?!」
俺は叫んでいた。
両目からはまた吐いたときみたいに苦しくて涙が出てきた。
嘘だ。嘘だ。
絶対にしちゃいけねぇこと?
それって、俺、この状況って…。
それを知らぬ間にしちまったから、元に戻れなくなったってことかよ!?
「何で今まで…!」
「“妊娠”だ」
「…っは?」
俺はこの場に全く関連しないワードを聞いて思考が停止する。
そんな俺にかまわず爆豪はそのまま話し続ける。
「妊娠しちまうと男の体には戻れねぇんだそうだ」
「…」
爆豪は無表情のまま俺に告げる。
肝心な俺はと言えば、混乱の最中、はっと息を吐き出す。
「な、なんだよ。…じゃ、じゃあ俺はやっぱりたまたま敵の個性がかかりすぎただけってことだよな…?」
妊娠なんぞするわけがない。そういう行為を一切していない。だから、大丈夫、だよな?
俺は縋るような目で爆豪を見つめた。
そしたら爆豪がふと笑ったから、俺もつられて笑った。
冷や汗が背中を伝った。
ったく脅かせんなよ。そう言って肩ぐらい叩いてやろうと思ったら爆豪の掌が俺の腹に当てられた。
そのまま優しく撫ぜられる。
まるでそこにいる何かに語りかけるように…。
「ちょ、何して…」
「あんだけ出したんだ。孕んでねぇ方がおかしいよな?」
俺はもう声が出なかった。
目の前にいるこの男は何を言っているんだ?
それより、この男は誰だ?
口角を釣り上げて、井戸の底のような瞳で笑うこの男は誰なんだ?
俺はついに震え出した。
やっとこれまでの生活がとんでもないものだったと気づいてしまったから。
次々と今までの些細な違和感が大きな警報音になって頭の中で鳴り続ける。
テレビやスマホを見せてくれないのはなんでだ?
毎回眠くなっちまってたのに…いつからか眠れなくなった。なんでだ?飯…食べなくなったから…?
倒れるように毎回寝てたのに朝には布団が綺麗にかけられてたのは?
この吐き気って、これって病気とかじゃなくて、つまり…、!
“また吐いてたんか?”ってさっき爆豪はそう言った。またって?俺、吐いてるとこなんて見られたくねぇから、お前がいる時は必死に我慢してたのに…。
ゲーム機をすげーいいタイミングで持って来てくれたのは?
何でだ?
何でだ?
何で…!!
何でだよ!!
爆豪は泣き喚く俺を力尽くで抱きしめる。
その力強さに俺は大声を上げることしかできない。
そんな俺に爆豪は永遠の愛を誓う恋人のように、死刑宣告を言い渡す死神のように囁いた。
「安心しろ。さっきも言ったろ?どうなろうと、ずっと一緒にいてやるからな」