予想外
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シオンとローが到着した時には、すでに酒場は宴会場と化していた。
人が入り乱れる中でも、白い大きな姿は目立つ。
「ベポちゃん!」
とぅっと跳躍し、私はベポちゃんに張り付いた。
いつものようにむぎゅっとしようとすると、「あれ?」というベポちゃんの声が届いた。
首を傾げてベポちゃんを見上げれば、ふわりと体が抱き上げられる。
「シオン、その服僕と色が一緒だね!」
私を目線の位置まで抱え上げ、ベポちゃんが嬉しそうに言った。
「ロー船長がくれたんだ。つなぎの代わりにって」
「そっかぁ、よかったね!僕とお揃いだ!」
「うん!」
後でちゃんとお礼を言っておこう。
くるくるとベポちゃんと回りながら、シオンはそんなことを思った。
オレンジ色のコートを見下ろし、何だか今更ながらも仲間入りをした気分になった。
ローは静かに酒を呑むことを好む。
船での酒盛りでも、1人仲間たちと少し離れた場所で酒を煽る姿を見ることが多い。
の、はずなのだがー
「ひゃうっ」
「悲鳴の上げ方がマシになったな」
「なっ!」
何が起きたかを確認すれば、ローに体を持ち上げられていた。
「降ろして下さい」
じたばたともがいて抗議を試みるが、ローはさっぱりと気にしていないようだ。
「ちょっ、いったい何なんですか?」
「誰と呑もうがおれの勝手だ」
「ロー船長いつも1人で楽しんでるじゃないですか! しかもなんで私!?」
「新入りだろ?」
ぐっと言葉に詰まってしまう。
新入りとの交流という名目なら理屈的にはおかしくない。
いやでも、ローと2人で酒盛りとか無理だから!
「気づいたら体がバラバラでした~」なんて笑えないことになりかねない。
「ベポちゃん!」
助けを乞うようにベポちゃんを呼ぶが、ベポちゃんは力なく首を振ったに止まった。
「ごめん、シオン。キャプテンには逆らえない」
向けられた目が切なすぎて、私は言葉を飲み込んだ。
そして、悟る。
誰に助けを求めようと、どれだけ喚いて逃れようともがいても無意味だと。
でもせめて
「お姫様抱っこは勘弁して下さい!」
憧れがないわけではなかったが、実際やられると恥ずかしくて仕方ない。
好奇の目で見られてるのも合わさって、いたたまれない気持ちにさせられる。
「降ろ~して~」
無駄だと分かっていても、手足をばたばたさせずにはいられない。
たとえローが顔をしかめていたとしても、それは変わらなかった。
けれど、ローはそれがお気に召さなかったらしい。
「……もう黙っとけ」
ため息とともにそんな言葉が降ってきたと思えば、いきなり唇に何かが押し当てられた。
「んん!」
ぐいと押し付けられるそれに驚いて口を開けば、さらに中へと侵入してきた。
「旨いだろ?」
ニヤリと笑うローを横目に、私は「むぅ」と唸った。
爽やかな酸味が口の中に広がり、後から甘味がひょっこりと顔を出す。
「おいひい」
もごもごと口を動かし、シオンは口の中のモノを飲み下した。
「この島の名物らしいぞ」
器用に片手で私の体を支えながら、ローは先ほど人の口に押し込んだ果実を自らの口に放り込んだ。
「いきなり突っ込まなくてもいいのに」
何かも判らぬままに入れられたおかげで、びっくりしたし息まで詰まった。
「騒ぐからだ」
「騒ぎたくもなりますよ」
「フフ……もう一つ食うか?」
「いただきます」
差し出された果実を見て即答してしまうとは、全く情けない。
ローにお姫様抱っこをされていることも忘れ、私は果実を受け取って口に入れた。
「扱いやすい奴だなァ」
声を殺して笑うローに気づいたシオンが、仕返しとばかりに果実をローの口に突っ込んでやったのは――ほんのイタズラ心。
まさかそれで
「……シオン、今日は覚悟しとけよ?」
なんてことを言われるとは思ってもみなかった。
「えぇ!!」
という私の叫び声は見事に黙殺され、ローの酒盛りに結局延々と付き合わされたのは言うまでもない。
09.7.10 tarot