優しい手
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「もういいかな?」
ローの機嫌が悪いと、能力の餌食になる可能性が高くなる。
だから早々に逃げたのだけれど、食堂から抜け出してもう一時間。
さすがにもう覚醒しているだろう。
「やっぱり、最初の印象が悪すぎたのかなぁ」
どうもローに"嫌われている"、と思われる節があるように思えてならない。
シオンは船の欄干にもたれ、空を仰いだ。
今更ながら、もうちょっとまともな出会い方と仲間入りをするべきだったと思う。
見た感じ、シオン以外の船員には能力を無駄に使ってはいないようなのに。
私に恨みでもあるのだろうか?
恨まれるようなことはー
「ありすぎ……かも」
ちょっと考えただけでも、思いついてしまうのが悲しい。
一、勝手に船長室に入り込んで爆睡する
二、勝手にベポちゃんの手入れをする
三、特に何も仕事はしていない
「うわぁ…考えなきゃよかった」
思わず手で顔を覆ってしまう。
毎回何かしら仕掛けられても文句は言えない気がしてきた。
「でも、そろそろあの技を受けるのも慣れてきたし」
と下降する気持ちを無理矢理に上昇させてみることにする。
逃げるタイミングさえ掴めれば、能力の被害に遭う回数も必然的に減るだろう。
「って、考え方軽すぎかなぁ」
「やっぱりお前、面白ェなァ」
「うぎゃあ!」
「もうちょっと可愛らしい悲鳴の一つでも上げたらどうだ?」
「ぎゃあ?」
「なんで疑問形なんだ。しかも 『ぎゃあ』 は可愛くねェだろ?」
「ついノリで」
いきなり隣に出現したら、誰だって驚く。 そんな時に悲鳴の上げ方なんか気にしてられないわ!
と心の中のみで思う。
心臓に悪いったらない。
全く、毎回毎回気配を消して近づかないで欲しい。
そう思うのは、シオンだけでは無いはずだ。
「いつからいたんですか?」
「考えなきゃよかったってところからだな」
「ロー船長も人が悪いですね。性格はもっと悪いですけど」
「……聞こえてるぞ」
「何がですか?」
「お前、いい度胸してるよなァ」
くくっと笑うローを見ていたら、
「私に何か恨みでもあるんですか?」
考えていたことがそのまま出てしまった。
完璧にミスった!
そう思っても、もう遅い。
「あァ?」
「いや、そのー」
今更濁しても意味はないと思いつつも、言いよどんでしまう。
「誰が、誰を恨んでるって?」
うわぁ、なんか黒いオーラが立ち上ってるように見えるのは気のせいじゃない。
やばい、呪われる。
あれできっと人殺せるよ。
ローの鋭い視線とどす黒いオーラに当てられ、シオンは無意識の内に後退っていた。
けれど、元々欄干にもたれていたために欄干の上によじ登る程度のことしかできなかった。
その時、タイミングを計ったかのように船が大きく揺れた。
あまりにも突然な揺れ。
シオンがバランスを崩すのに、そう時間はかからなかった。
「え?」
気づけば、体が欄干を乗り越えていた。
事態を把握するよりも早く、ぐんと体が下に引っ張られて落ちてゆく。
落ちるっ!
シオンはぎゅっと目をつぶり、襲いくるであろう海面に叩きつけられる衝撃を覚悟した。
09.6.19 tarot