優しい手
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「おはよう、ベポちゃん」
「シオン、おはよー」
「今日もいい毛並みだねぇ♪」
「シオンが最近手入れしてくれてるからだよ」
「いやいや、元が違うんだって!」
「またやってるよ」
「毎朝よく飽きないよなぁ」
食堂で繰り広げられているシオンとベポのやりとりをみながら、ペンギンとキャスケットは苦笑いを漏らす。
シオンはハートの海賊団に入ってまだ日が浅い。
けれど、ベポの背中に突進していく様子は、もう船員は見慣れてしまっている。
毎回毎回ベポを見る度に飛びついているように見えるので無理もない。
ベポの背中に幸せそうに張りついているシオンを横目に見ていると、ガチャリと食堂の扉が開いた。
「おはよーキャプテン」
ベポが現れた人物にそう言うと、シオンは慌ててベポの背中から滑り降りる。
これも毎回のことだ。
「ロー船長おはようございます」
「……あぁ」
あくびをかみ殺しながら、ローはテーブルについた。
低血圧なのか何なのか知らないが、ローの寝起きは最高潮に悪い。
シオンでさえも、それはよく身に染みてわかっていた。
ペンギンさんに頼まれ、一度ローを起こす役目を 押し付け 仰せつかったことがあるからだ。
結果、ローに声を掛けた瞬間に右手がとれるは、首があり得ない方向にくっつけられるはというひどい目にあった。
おそらくそれを見越してすぐに現れたであろうペンギンさんによって、その時は事なきを得た。
一度は踏んでおいた方がいい鉄だと笑って言われたが、できることならご遠慮させて頂きたいと思った。
というわけで、寝起きのローに関わるのは、地雷地帯を歩くようなものだという認識がシオンの中にはある。
つまり、関わらないに限る。
シオンはローを出来るだけ刺激しないようにベポの後ろに隠れ、タイミングを見計らって食堂を抜け出した。
「シオンはキャプテンが苦手みたいだね」
逃げるように去っていったシオンを見て、ベポがぽつりと呟いた。
「そりゃあ、あれだけ能力で遊ばれてればな」
ベポの呟きに、ペンギンは同情をこめた同意を示した。
ほぼ毎日と言っても過言ではないほど、シオンはローの能力の被害に遭っている。
それで苦手にならない方がおかしいだろう。
「シオン女の子なのに」
「そうだよなぁ」
船長が気まぐれで誰かを仲間に引き込むということは、まれにある。
が、ここまでヒドい? 扱いをしているのも珍しいように思う。
「ペンギン、何か言ったか?」
気づけば、ローがペンギンを鋭い目で見上げていた。
「…別に何も」
ペンギンは内心冷や汗をかきながら、否定した。
「…そうか」
未だ覚醒しきってはいないのか、それ以上話を振ってくることはなかった。
が、
心臓に悪いな
テーブルに肘をついて朝食をつついているローを見て、ペンギンは溜め息をついた。
ローの能力を見ることはあれど、自分の身に徒に使われたことはほとんどない。
ローを起こしに行くときは仕方ないとしても、それ以外でと考えれば、数えるほどだ。
身に受けたことがあるから分かるのだが、あの技はそうそう受けたいと思うものではない。
あの何とも奇妙な感覚は 、精神的に響く。
それが不意打ちならば尚更だ。
それをシオンは毎日受けているんだよな
他の船員とはだいたい打ち解けられたように見える。
だというのに、ローとだけはまだぎこちないというか、距離をおいているように思えるのは気のせいではないだろう。
「全く、船長にも困ったものだな」
「アイアイ」
ペンギンの言葉に、ベポが全くだというように相づちを打った。
09.06.16 tarot