暇つぶし
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何もないところで転ぶなんて、自分はどれだけ器用なんだ。
間抜けに声を上げた直後に、シオンは近づいてくる床を見つめながらそんなことを思った。
けれど、シオンの体はある一定のところでぴたりと止まった。
正確に言えば、止められたというところか。
床とシオンの間に、ロー船長が滑り込んできてくれたのだから。
「あー」
「なんで何もないところで転べるんだ、おまえは」
「自分でも不思議に思います」
「とにかく、さっさとどけ。重い」
「……すみません」
重いと評されたことに対して一言文句を言いたかったが、何せ助けていただいた直後の話。
文句を言えるはずもない。
「微妙な顔する前に、俺に言うべき言葉があるんじゃねぇか?」
「助けていただき、ありがとうございました。あと、重くてすみません」
そう言ってぺこりと頭を下げれば、ロー船長は納得してくれたようだった。
「それでいい。全く、気が散って集中するどころじゃねぇな」
「じゃあ一緒に暇つぶし」
「断る。そもそもの元凶は誰のせいだ?」
「……私ですか?」
「他に誰がいるんだ」
「ですよね」
部屋には当然ながら、自分とロー船長の2人しかいないのだから、
自分以外の誰かが該当することは有り得ない。
し、第三者がいたら怖い。
「わかったなら他の本でも探して静かに読んでろ。それが嫌なら出てけ」
さっさと先ほどまでいた位置まで戻ったロー船長は、
そう言って何事もなかったかのように再び本を読み始めた。
酷い! 冷たい!
と思えど、そんなことを言ったが最後、部屋から追い出されるのが目に見えている。
ので、シオンは渋々叫びたい衝動を抑え、本棚へ向かった。
ただし、ここは船長室であるからして当たり前だけれど、ロー船長の自室である。
そして、腐ってもロー船長は「死の外科医」と呼ばれる医師なのだ。
ゆえに、本棚には小難しい類の本ばかりが並んでいるために
シオンが興味を引かれるようなタイトルはない。
先ほどすでにアルバムを発掘してしまっているため、
これ以上探しても何も出てこない可能性が非常に高い。
「……うぅ、つまんない」
がさごそと本棚を漁るが、思った通りアルバム以上に面白そうなものはなかった。
アルバム以上に面白そうなものは。
「……お邪魔しました」
背中に哀愁を漂わせながらそう告げ、シオンは船長室を出ようとした。
先ほど見つけた素敵な発掘品を手に、にんまりとした笑みを浮かべながら。
しかし、ロー船長はやっぱり甘くなかった。
「待て、シオン」
ドアを半分ほど開けたところで、そんな風に呼び止められたのだから。
2週間に1話更新企画第6弾。
12.8.25 tarot