失態
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「……てめぇ」
「ロー船長が来なくて良かったですね。来てたらもっと悲惨なことになってましたよ?」
最後の1人の喉笛に刀を突きつけ、シオンは笑った。
今にも倒れ込んでしまいたいくらい、身体は満身創痍の状態にある。
それでも、倒れるわけにはいかないのだ。
ハートの海賊団の一員であるために。
「……厄介なもんを捕まえちまったようだな」
「巻き込まれた身としては、災難以外の何ものでもないんですけど」
「人の組織を壊滅寸前まで追い込んどいて、よく言うぜ」
「自業自得ですよ。こちらとしては、ただの正当防衛に他なりませんから」
「海賊に正当防衛も何もねぇだろうが」
「先に仕掛けてきたのはそっちです。私に非はありません。
それに、人攫いなんてものを職業にしている人たちに使う気遣いなんて、持ち合わせていませんので」
突きつけていた刀を床に無造作に放り投げ、そう言い捨てる。
最大限の皮肉をこめて。
「……はっ、違いねぇな」
シオンの言葉に、男は自嘲するような笑みを零した。
戦意を喪失したと思われる男を一瞥し、シオンは踵を返した。
余裕の体を装うのにも限界があった。
それに早くここから出て、血を吸い込んで重くなった服を着替えなければならない。
服の色が黒なのが幸いして、見た目には分かりづらい。
が、さすがに臭いまでは誤魔化せないだろう。
ことの次第をロー船長に感づかれないためにも、早急に血の臭いをどうにかしなくてはならない。
「……服の調達をしなきゃいけないか」
とにかく、この鼻をつく血の臭いから解放されたい。
その想いに突き動かされ、シオンは重い身体を引きずって歩き出した。
街へ出たシオンは、店員の人に怪しまれながらも何とか着替えを済ませていた。
目立った怪我を負わなかったことが、不幸中の幸いといったところだろう。
全身をすっぽりと黒の服で覆えば、見た目はいつも通りの装いに戻った。
動く度に身体に痛みが走らないこともないが、我慢できないほどでもない。
少しでも血の臭いを薄めるために申し訳程度に身体を拭いて、
血の臭いが染みついた服はゴミ箱に丸めて捨てておいた。
後は平静の体を装ってロー船長たちと合流するだけ。
「するだけ、なんだけどな」
果たして何事もなかったかのように無事に合流できるかどうかはーはっきり言って微妙なところだ。
けれど、合流しなければそろそろ怪しまれてしまう可能性がある。
ここは、腹を括って行くしかない。
選択できるコマンドは、それしかないのだから。
街の中をニ周回りきるかというところで、ようやくローの耳に探し人の名前が届いた。
「あれシオンじゃない?」
声を発したベポの方に目をやれば、指である方向を示していた。
指差された先には、確かにシオンの姿があった。
ちょうど向こうもこちらに気づいたところらしく、軽く駆けてくる様子が見て取れた。
「シオン~こっちこっち~」
ベポが大きく手を振る横で、ローは密かに眉をしかめた。
「……今日着てた服と違う、な」
色合いは変わりなく、一見変わっていないように見える。が、デザインが微妙に違う。
さらに注意深くみれば、走る姿にも違和感があることに気づく。
走るスピードがいつもと比べるとかなり遅い部類に入る。
ー何かあったのか
探してもなかなか見つからず、姿が見えたと思ったら着替えられている服に鈍くなっている動き。
自分の目元が厳しくなっているのを感じながらも、ローは平静を装ってシオンの到着を待った。
10.8.13 tarot