失態
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「……いねぇ」
シオンを探すために街を歩き始めたローだったが、
何の収穫もないままに元の場所にたどり着いていた。
「ベポ、いたか?」
共にシオンを探しに出ていたベポに尋ねてみても、収穫はなし。
「キャプテン……」
「ん?」
「シオン、大丈夫かなぁ?」
とつとつと、ベポがそう口にした。
その声には心配が滲み出ていて、聞いている方までベポの感情に引きずられそうになる。
シオンが真っ先に立ち寄りそうな甘味系の店を中心に見て回ったが、その姿はどこにもなかった。
さほど広くないこの街でこれだけ歩き回って、影すら見つけられない。
シオンもこっちのことを探していると仮定すれば、それはあまりにも不自然な事態だ。
こっちにはベポというかなり目立つ目印がいる。
だというのにベポを見れば必ず飛びつく習性を持つシオンが、一向に釣れないのは
異様なこととしか思えない。
「……どこをほっつき歩いてんだ、あいつは」
帽子を深くかぶり直し、ローは険しくなった目元を隠した。
ある時を境にして、腕の拘束は緩んできていた。
そして今はもう、ぐっと左右に引けば拘束から抜けられる。たぶん。
見張りを続ける男たちを見据え、シオンはついに行動を起こす時が来たことを悟った。
「ロー船長は本当に来ないと思いますよ?
ついこの間、『自分の身を自分で守れない奴は必要ない』ってはっきり言われたばかりですし」
大きく息を吐き、ひとり言のように呟きを洩らして見せた。
「もうお前の言い分は十二分に聞いた。口が利けないようになりたくはないだろう?」
それ以上何かを言うようなら、それ相応の対応を取るーということだろうな、これは。
けれど相手からの警告があろうが無かろうが、そんなものはもうどうでもいい。
何せもうシオンは何も話す気はないのだから。
「では、口ではなく身体を動かさせていただくということで」
言うが早いが、シオンはスルリと立ち上がった。
ほどいた縄を男によく見えるように掲げてみせると、男に苦い表情が浮かぶ。
「……さっきと随分態度が違うと思ったが、そういうことか」
「縄が緩かったので案外楽に抜けれましたよ?
あなた方がしゃべっている間に頑張ったかいがありました」
「大人しくしとけ。手荒なことをされたくなけりゃ、な」
「そんなこと言われて大人しくなるなら、こんな真似はしませんよ」
軽く微笑んでみせれば、相手は頭を振って刀を構えた。
さて、これで舞台の準備は整った。
後はもう、なりふり構わず脱出あるのみ。
徐々に頭数が増えるのを、シオンは他人事のように静かに見つめた。
地に沈むのはいったいどちらであろうかー
これで、5人目。
刀ってなんで長いんだろう。使いにくいことこの上ない。
倒した相手から拝借した刀を構え直し、シオンはそんなことをぼやいた。
この状況下では、自分の武器を取り返すことは難しそうだ。
あの二本気に入ってたのになぁと嘆いても、我が身を危険に曝すだけ。
「てめぇら、絶対に逃がすんじゃねぇぞ!」
そう怒号をあげる男を崩し、男の身体を踏み台にして周りの輩を凪払う。
今は、目の前の危機を乗り越えることが何より重要事項だ。
「大人しく逃がしてくれるっていうなら、多少の犠牲で済みますよ?」
返り血を浴びた姿でのこのセリフは、なかなかに壮観だろう。
けれど生きる世界が似た者にとっては、残念ながらさほどの脅しにもならないようだ。
「よくそんな大口が叩けるな。自分の状況わかってんのか?」
ほら、こんなに冷静。
けれど、今はこちらの頭も妙に冴えている。
「多勢に無勢と、まぁそんな感じでしょうね」
客観的に状況の判断をすれば、自分の不利が浮き彫りになって突きつけられる。
まぁ初めからわかっていたから、それで動揺するなんてことはないけれど。
「だったら」
「でも、残念ながら私は大人しくしているわけにはいかないんですよ。
ハートの海賊団の一員でいたいんで、ね」
「……痛い目を見なきゃ、自分の置かれた立場ってもんが理解できないらしいな」
「……お手柔らかに、お願いします」
微かな希望を引っさげ、シオンは床を蹴る。
さぁ、勝つのはどちらだ?
10.7.24 tarot