失態
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暗闇に目が慣れてきたのか、さっきよりも大分周りの様子が分かるようになってきた。
だからー
「……あなた方は賞金稼ぎですか?それとも同業者ですか?」
シオンは行動を起こすことにしたのだ。
反応してくれるか不安だったが、思いの外あっさりと相手から反応は返ってきた。
質問の応えではなく、ただ一言「あぁ?」と睨みを効かせてきただけではあったが。
見張りの男の反応を軽く流し、シオンはさっさと話を切り出すことにする。
ロー船長の側にいるせいで、睨みにはかなり免疫がついている。
殺気の欠片も籠もっていない睨みなど、怖くも何ともないと感じるようになっているのが今は救いだ。
「差し出がましいようですが、ロー船長は来ないと思いますよ?」
「……どういうことだ?」
別にそんなことをしなくてもいいのに、ご丁寧にも顔を近づけて聞き返される。
けれど、そんなことで大人しく引っ込む時は過ぎた。
「たかが一船員ですし。しかも助けにきてくれるのだとしたら、私はベポちゃんに助けてもらいたいんですけど」
表情を変えることなく言葉を紡ぐと、相手の片眉がピクリと動いた。
「……ベポってのは?」
「ふわふわモコモコな白熊です」
頬が緩むのを悟られないように気をつけつつ応えると、「は?」という間抜けな反応が返ってきた。
相手としては恐らく戦略云々のための情報が欲しかったんだろうが、
あいにくそんなことを教えるほど私は優しくない。
ただ自分から見た主観的であり、偏ったことしか口にはしない。
その実、実はベポちゃんが機敏でかなりの戦力になる素敵な白熊さんだなんてー
あまりにも勿体なすぎて教えたくもない。
「可愛いんですよ、首にしがみついて撫でるのがまた気持ちくて。
ここで今度こそブラッシング用のブラシを買おうと思ってたのに……」
「運が悪かったと思って諦めるんだな」
こちらの心情などお構いなしにあっさりと言い切られると、非常に不愉快だ。
「あなた方が解放してくれればいい話なんですけど?」
「それは無理な相談だな。お前には囮になってもらわねぇと困るんだ」
下卑た笑みを浮かべて言う男に込み上げてくるどす黒い感情を、まだ駄目だと心中に押し込める。
まだ、その時ではない。
小さく深呼吸をして、頭を冷やす。
感情に支配されるなと自分に言い聞かせ、話を戻した。
「……ロー船長が来たとしたら、あなた方にとってよろしくない結果になると思いますよ?」
「2億の賞金首なんだ、多少の覚悟はある。それに、こっちには切り札があるからな」
「だから、その切り札が私のことだとしたら、切り札になり得ないから諦めた方が無難かと」
「自分の女を見捨てる奴はそうそういねぇよ」
「あーそういう間柄ではないんで」
なるほど、だから私が連れてこられたのかと1人納得する。
不本意であることは変わりないが、シオンにとっては多少救いがある話だ。
そういう認識をしているということは、徒に手出しをしてくることはないだろう。
し、シオンは巻き込まれたという形になる。
たとえローがこの場に居合わせてしまっても、そこまで強く非難される謂われはない。多分。
「誤魔化したってな、トラファルガーの船に乗ってる女がお前1人だってことは確認済みなんだよ」
「まぁそれは確かですけど、別にただの気まぐれで置いてもらってる身なだけなんで」
「気まぐれ、ねぇ?ま、来なかった場合は売り飛ばすだけだけどな」
「……それ、本人の目の前で言いますか?」
「海賊に使ってやる気遣いなんざ持ち合わせてないんでな」
「まぁ、人攫いにそんなことを望んでも無駄というものってことですよね」
ほんの少しでも差し込んだように見えた光は、早々に姿を消した。
最初から期待はしていなかった分ダメージは無いけれど、焦りの方は格段に跳ね上がる。
急がないとマズいかな。
まだ相手方がローと接触していないうちに。
警戒が薄くなっている今しか、チャンスはないだろう。
また少し手の拘束が緩んだのを感じ取り、シオンは口元に笑みを浮かべた。
来たるべき時は着々と近づいてきていたー
10.6.6 tarot