真夜中の攻防
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ロー船長に抱えられて、薬を呑んだところまでは覚えている。
けれど。
「どうして私は今ロー船長のベッドにいるんだろう……」
今の自分の状況が全く理解できず、シオンは頭を抱え込んだ。
下腹部に感じていた痛みが落ち着いているところをみると、
おぼろげに残る記憶どおりに薬を呑んだのは間違いなさそうだ。
問題はその後。
何がどうしてどうなって、こういう状況になっているのかさっぱり分からない。
「薬呑んだ後どうしたんだっけ……」
そのまま寝てしまったという説が状況的にかなり有力な気がする。
まぁ痛みのせいでほとんど寝られなかったせいもあって、
身体は睡眠を求めていたのであろうことは理解できる。
できるけれどもー
何でよりのよってロー船長の寝床を占領してしまったのだろうか。
行き着く先はつまりそこだ。
廊下で行き倒れていたところを助けてもらっただけでは飽き足らず、寝床まで借りてしまったなんて。
なんて喜ばしくない事態なんだろうか。
自分のしでかしてしまった失態に、シオンは激しく自己嫌悪に陥った。
だから、全く気づけなかったのだ。
誰かが部屋に入ってきた気配に。
「で、いつまで俺はここに突っ立ていればいいんだ?」
「!!」
完全なる不意打ち状態で声をかけられ、シオンは布団を跳ね上げて身を起こした。
声をした方に視線を向ければ、部屋の入り口の扉にローが寄りかかって立っている姿が目に入る。
「ロー船長、いつからそこに?」
「さぁな」
不敵に笑うロー船長の後ろに黒い何かが見えるのはきっと私の気のせいだろう。
そう自分に言い聞かせはしたが、それを無視して背中に冷たい汗が伝っていく。
「あの」
とにかく謝らなければ。
「すみません」でも「ごめんなさい」でも、この際言葉は何でもいい。
ゆっくりとローは寄りかかっていたところから身をはがし、シオンへと向かってくる。
その様子に頭がパニックを起こし、出てきかけていた言葉が迷子になって出てこない。
ローはもう目の前まで迫ってきている。
私の人生終わった
間に合わないと悟った瞬間、シオンは反射的に目をつむって身体を縮こませた。
予期していた衝撃は、一向に襲って来なかった。
代わりに聞こえてきたのはギシッというベッドが軋む音と、ほんの少し身体が沈んだ感覚。
そしてー
「調子はどうだ?」
優しげに紡がれる、ロー船長の声。
「悪くない、です」
予想とは違う展開に戸惑いながらもそう応えれば、ローの表情が若干和らいだものになる。
ローの様子に、シオンもほっと一息をついた。
「何で昨日廊下で倒れてた?」
そう問いかけながら、ローは熱い紅茶の入ったマグカップを手渡してくれた。
「それが、その、生理痛で」
熱い紅茶の入ったマグカップを両手で抱え、シオンはあははと乾いた笑いを零した。
「……生理痛?」
怪訝そうに眉をひそめ、ローは確かめるようにシオンの言ったことを繰り返した。
「たまに起き上がれないぐらいに痛くなる時があって、それが昨日だったんですよ」
本当に痛かったんですからと付け加えると、ようやくローは納得したようだった。
ただ、大仰に溜め息をつかれはしたが。
「全く紛らわしい奴だな」
「はい?」
「こっちの話だ。で、今はもう大丈夫なんだな?」
「今のところは」
「そうか」
「お騒がせして申し訳ありませんでした。あと、ありがとうございました」
深々と頭を下げると、ロー船長から「全くだ」と返ってきた。
まぁ今回は思いっきり迷惑をかけてしまった身であるからして、その言葉に反論はできない。
するつもりもないけれど。
でもー
「……痛いんですけど」
意味もなく頬をつねられるとなると話は別だ。
「何か言ったか?」
「痛いって言ったんですけど。
頬は引っ張ってもそんなに伸びるものでもないので、今すぐこの手を離していただけますか?」
非難がましくそう進言すると、ロー船長は口元に笑みを浮かべながらシオンの頬から手を離した。
「やっぱり、反応があった方が面白くていいな」
なんてよく分からないことを飄々と言い切られ、シオンはつねられた頬をさすりながらローを睨み上げたのだった。
10.3.31 tarot