真夜中の攻防
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救世主は、意外な形でやってきた。
いまだに襲い来る痛みに一人耐えている最中。
ぐみょっと、シオンは誰かに踏まれたのだ。
「……ここで何やってんだ」
謝罪もなしに浴びせられた疑問はともかく、
誰かが来たという事実がシオンを痛みの淵から引っ張りあげる。
気力を振り絞って顔をあげれば、そこには眉をひそめたローの姿。
暗いからって堂々と人のこと踏むな!
と普段なら騒ぎ立てるところだが、今はそんなことを言う余裕もない。
し、そんなことは頭に浮かんでこない。
いつまで経っても何も言い返さないのを不審に思ったのか、
ローは足をどけてシオンの顔を覗き込んできた。
自分の状況を伝えなければと喉を振り絞るが、虚しく徒労に終わる。
シオンの視界にローの顔が映ったとき、なぜかロー船長の目が見開かれた。
「……何があった」
先ほどまでの剣呑な空気を消してそう尋ねながら、ローはシオンの目元を拭った。
目元を拭われたことで、そう言えば泣いていたという事実を今更ながらに思い出す。
なるほど、それでさっきロー船長は目を見開いていたのか。
と、一人納得。
「シオン」
名前を呼ばれ、シオンは脳内思考から現実に思考を引き戻された。
声を出して説明するほどの気力も残っていなかったシオンは、握りしめていた薬をロー船長に差し出す。
いつまでもここに倒れていても、痛みは消えない。
ここは何としてもロー船長に何かしらの協力をしていただかないと、事態が好転しない。
せめて水だけでもいいから持ってきてほしいー
痛みに蝕まれるシオンにとって、薬を差し出して見せることしか伝達手段はない。
祈るような思いで、シオンはローが行動を起こすのを待った。
「……ここで何やってんだ」
廊下でシオンが寝転がっているのを見つけたローは、ただただ疑問符を浮かべていた。
真夜中にこんなところにいる理由も分からなかったが、
もっと分からないのはどうしてシオンが廊下で寝転がっているのかだ。
足蹴にして問いを投げても何も応えない。
いつもなら面白いくらいの反応を返してくるシオンだけに、何も反応がないというのはあまりにも物足りない。
屈むようにしてシオンの顔を覗き込んだローは、一瞬思考が止まった。
指を伸ばしてそっと触れれば、冷たい水滴の感触。
「……何があった」
そう尋ねずにはいられなかった。
真夜中に廊下で涙を流しながら倒れていれば、当然の疑問だ。
二度目の問いかけだというのに、一向にシオンは応えようとはしない。
焦燥感がじわじわと湧きあがり、もう一度声をかける。
すると、今度は反応があった。
シオンが少しだけ手を持ち上げ、差し出してきたのだ。
手の平に載せられていたのは小さな白い錠剤。
何の薬なのか判断はつかなかったが、とりあえずそれを必要としているということだけは分かった。
途中で倒れるほど具合が悪いのにここまで来たということは、
普通に考えてそれ以上状態が悪化しないように薬を呑みに来たということだ。
それはつまり、薬で抑えなければ悪化する危険があるということ。
とりあえず水がいるか。
状況的にそう判断を下すが、まさかこのままシオンを廊下に放置しておくわけにもいかない。
軽く舌打ちをして、ローはシオンの身体を抱えあげた。
「もう少しだけ我慢しとけ」
辛そうに顔をしかめるシオンにそう言い、ローは出来るだけ振動を与えないようにそっと暗い廊下を歩き出した。
10.2.21 tarot