ハロウィン
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「ロー船長、トリック・オア・トリート?」
シオンが声を弾ませてそう言うと、甲板でくつろいでいたローは怪訝な目で見上げてきた。
側にいたペンギンもまた、「いきなり何を言い出すんだ」という雰囲気を遠慮なく醸し出している。
「……なんだ、そのふざけた言霊は」
「……ハロウィン知らないんですか?」
「ハロウィン?あぁ、奇妙な格好してモノを強奪するあれか」
「違います!」
思いっきり否定してしまったシオンを手で制し、ペンギンさんが諭すように話し始めた。
「ハロウィンというのは家々を巡って、」
「そうそう」と、シオンはペンギンさんの横で相づちを打つ。
しかしー
「『何か出さないと酷い目にあうぞ』と脅してモノを手に入れ、奪ったもので盛大に宴をするという」
「違います!ペンギンさんまで何怖いこと言ってるんですか!」
続いて出てきた不穏な説明に思わず突っ込んでしまう。
これじゃあいつまで経っても先に進めない。
パンッと一つ柏手を打ち、一瞬だけ出来た「間」にシオンは言葉を滑り込ませた。
「ハロウィンっていうのは、簡単に言えば知らない人からもお菓子を貰える素敵行事のことです。
しかも、くれなかったらイタズラが許されるという特別日で」
「「ちょっと待て」」
「はい?」
揚々と話していたシオンに2人から同時にストップがかかった。
まだ説明中なんですけどと訴える視線は流され、ローが帽子に手を置きながら口を開いた。
「お前、ハロウィンを何か勘違いしていないか?」
「何のことですか?」
「いや、だからだな」
「とにかく、そういうわけなんで」
一呼吸おいて、シオンは2人の目の前に勢いよく手を差し出した。
「トリック・オア・トリート?」
しばし固まった2人だったが、お互いに目を合わせるとどちらからともなくため息をついた。
「……仕方ねぇなぁ」
「……あぁ」
ローとペンギンが顔を見合わせ、同時に立ち上がった。
予期していたのとは違う動きをする2人を、シオンは黙って見ていた。
けれど、そのまま立ち去りそうな雰囲気を感じて慌てて止めに入る。
「ちょっ、ロー船長もペンギンさんもどこに行こうとしてるんですか!」
「どこって……なぁペンギン」
「うむ」
2人して肩をすくめてこっちを見てきた。
雰囲気から察するに、「何でこいつはわかっていないんだ」と言いたいようだ。
口を開きかけたシオンだったが、
「しばらくここにいろ」
との船長命令により、何の主張をすることもできないまま甲板に1人取り残されてしまった。
「えっと、これはどういう?」
一時間後。
いきなり変貌した甲板の様子に、シオンは驚きを通り越して呆気にとられていた。
「菓子が欲しかったんだろう?」
「いや、えっと」
「料理長に言ったら快く引き受けてくれてな」
そう言うペンギンさんの持つお皿には、シュークリームが山のようにうず高く盛られていた。
「それは非常にありがたいんですけど」
差し出された山から一つシュークリームを受け取りながらも、シオンの顔色は晴れない。
「じゃあいいじゃねぇか」
「……いいんでしょうか?」
すでにハロウィンも何もなくなっている気がするのが少々気になる。
し、お菓子の食べ放題は非常に素敵なことだと思うのだが、 どちらかというとイタズラをしたかった。
日頃はイタズラを受ける側にとってはイタズラをしかける貴重なチャンスだというのに。
「僕はいいと思う!」
割り込む様に主張したのはベポちゃんで、 口周りにお菓子のくずやらクリームやらを盛大につけている。
そう、甲板には船上の生活とは思えないほどのお菓子たちで溢れていたのだ。
この先の航海は大丈夫かと心配してしまうほど。
というより、どこにこんな量を作れるお菓子の材料があったのだろうか。
「トリック・オア・トリート!」
その掛声は、すでに乾杯の合図になっているようだった。
「あぁ、せっかくいろいろなイタズラを考えてあったのに」
と、お菓子を口いっぱいに頬張りながら愚痴ってみる。
「はひはひった(何か言った)?」
「何も」
ベポちゃんの胃袋には、もうかなりの量のお菓子が飲み込まれている。
口元がべたつくのも全く気にせずに食べ続ける姿は、言葉にならないほど可愛らしい。
可愛らしいのだけれどー
「うぅ、やっぱりイタズラしたい」
そして、仕掛ける相手はもちろんロー船長だ。
今日こそはイタズラを仕掛ける側に回りたいという想いに駆られ、そっとシオンは甲板を後にした。
09.10.30 tarot