夢現
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「……夢?」
「疑うようならその首跳ね飛ばしてやるが?」
「すみませんでした!」
「全くだ」
正直、シオンは非常に戸惑っていた。
それこそ本当に夢かと思ってしまうほどに。
なぜなら
目の前のテーブルにケーキやタルト、パフェやシュークリームをはじめとした、
様々な甘味が溢れんばかりに載せられているからである。
ローに引きずられて連れてこられたのは、街中にある小さなカフェ。
シオンがおろおろしてる間に、テーブルの上に次々と甘味が運ばれてきたというわけである。
いまいち事の展開についていけないシオンだったが、
「食いたかったんだろう?」というローのセリフに反射で「いただきます!」と応えていた。
そこから先は速かった。
目の前に並べられた甘味に次々と手を伸ばし、口へと迎え入れる。
さっきまでの戸惑いはどこに行ったんだ、と思うほどの変貌ぶりだ。
「ー美味しっ」
ローがなぜここに連れてきてくれたのか、今はもうどうでもよかった。
ただただ、久しぶりのスイーツたちを堪能することに力を注ぐ。
「……旨いか?」
「美味しいです!」
「そうか」
1人コーヒーを啜っていたローは、ふっと顔を綻ばせた。
「うぐっ」
ロー船長が笑った???
思わずシオンは食べていたモノを喉に詰まらせてしまった。
船に乗ってからもう大分経った気がする。なのにめったにというか、
ほとんどというか皆無に近いほど、ロー船長が笑ったところを見たことが無い。
ほんの少しの自然な笑みで、天変地異の前触れか?なんて思ってしまったほどだ。
「……何か言いたそうだな」
「!」
ゆらりと向けられた双眸に真正面から射られ、シオンは我に返った。
さっきまで忙しなく動いていた手が止まり、
いつの間にか食い入るようにロー船長を見ていたことに気づく。
さっきのあの表情はすでに消え、代わりに浮かんでいるのは、
いつもの何を考えているのかわからない不敵な笑み。
「あーえっと」
身に危険が迫っている気がして、シオンは視線を宙に泳がす。
「……ケーキ、食べます?」
出てきたのは、そんな苦し紛れなセリフ。
食べようと思って口近くまで持ってきていたフォークを、ローの方に向けて差し出す。
フォークに載っているのは、ローには不釣り合いに見える生クリームたっぷりの甘いケーキ。
「食べないだろうなぁ」と簡単に推測できるものを薦めているあたりで、
取り繕うための行動であったことが浮き彫りになってしまう。
「あー食べないですよね、すみません」
ギクシャクした動きでフォークを下げる。
手が、止まった。
「甘ェな」
そう言って顔をしかめ、ローはぺろりと舌をのぞかせた。
下げ際にローにつかまれた腕はまだ拘束されたまま。
「よくこんなもんを大量に食えるな」
呆れた口調で言われたが、こっちはそれを気にしている余裕がない。
つかまれた手が、熱い
離せとばかりに手をブンブン振っても、解けない。
目で訴えるようにローを見るが、向けた視線はローの目に捉えられ、視線を絡みとられてしまった。
時間が止まったかのような錯覚に陥る中、ローがゆっくりと静かに言葉を紡ぎだした。
「見知らぬ奴には、二度とついて行こうとするな」
反論をしようとも思えなかった。
なぜなら、そう言ったローの表情があまりにも真剣だったからだ。
わかったという意思表示に頷いてみせると、ローは手を放してくれた。
なぜかローの顔が見れなくて、窓に視線を逃がす。
直後、ガンっと窓に何かがぶつかる音がして、
窓にべちゃっとベポちゃんの顔が潰れて張り付いてきたのはー
正直ありがたかった。
飛び込みで甘味大会に参加してきたベポちゃんに感謝し、一緒にケーキ達にかぶりつく。
「おいし~い」
なにも気にすることなくケーキを食べ進めるベポちゃんと、
何事もなかったかのようにコーヒーを啜るロー。
その2人を見ていたら、さっきのことを気にするのが馬鹿馬鹿しくなっていた。
その後
「……2人して動けなくなるまで食うなよ」
勢いで食べ過ぎたベポちゃんとシオンがローに呆れられたのは、余談だったりする。
09.10.13 tarot