夢現
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壁が揺れ、振動が直に伝わってくる。
ローが壁を殴ったことを理解するのに数秒、
顔の両側に腕をつかれ、逃げ場を封じられたことに気づくのにさらに数秒かかった。
「あんな高い声出しといて、媚びてねェなんざよく言えたな」
「……聞いてたんですか?」
それってかなり序盤の出来事だったはずだ。
ってことはあれか、一部始終見られてたわけか。
「……ロー船長って暇人?」
突発的疑問を口にすると、ぴたりとローは動きを止めて目を見開いた。
「……何で、今それを言う」
「今思ったから、です」
毒気を抜かれたのか、ローはげんなりしたように腕を壁から剥がした。
シオンはその隙を見逃すことなく、壁とローの間から抜け出して自由を得る。
いつでも逃げ出せるように入り口の扉の前へ移動し、改めてローに向き合った。
「シオン」
「……何でしょうか?」
「来い」
「はぃ?」
反応しきれずにいるシオンの首に、ローの腕が迫る。
これはまさかと危機を感じた時には、すでに「ぐぇっ」と自分の口から潰れたような声が漏れていた。
ずるずると引きずられ、そのまま部屋の外へ強制連行されていく。
「ロー船長、苦し」
「何も聞こえねェな」
(鬼だこの人!)
何度か転びそうになったというのに、ロー船長は本当に全くもって気にしていないようだ。
あまりにもぞんざい過ぎる扱い+あまりにも自分勝手過ぎる暴挙にシオンは非常に憤っていた。
限界点突破を果たした暁には、思い切り噛みついてやろうと心に決める。
結局引きずられたまま噛みつく隙も与えられることなく、シオンは甲板に辿り着いていた。
いったい何をしようとしているのか、ローの考えは全く分からない。
「ペンギン」
ローがその名を呼ぶと、甲板に腕組みをして立っていた長身の後ろ姿が振り向いた。
「何だ、話は終わったのか?」
「こいつ借りてくぞ」
「……あぁ。好きにしろ」
腕組みをしたまま、淡々とペンギンさんが応える。
って、今何て言った!?
「ちょっ、ペンギンさん!」
「シオン、世の中諦めが肝心だ」
帽子の下に隠れていて表情は読めないが、
明らかに「巻き込むな」オーラが出ているのは気のせいだろうか。
「ペンギンさ」
「行くぞ、シオン」
「後のことは気にするな」
「えぇぇぇぇ!」
何、何で2人して私の抵抗を見ないことにしてるわけ!
「せめて言い分くらい聞いてくれてもいいのに、それすらスルーってどういうことですか!?」
と叫んだけれど、ペンギンさんもローも申し合わせたかのように無言を貫いている。
「うぅ、ペンギンさんなら助けてくれるかと思ったのに」
期待は見事に打ち砕かれ、シオンはローに連れられて船を降りる運命を覆すことが出来なかった。
09.11.15 tarot