夢現
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首が締められたせいで、再びシオンの口から小さく声が漏れる。
「今ならまだ見逃してやらないこともない。失せろ」
なにも聞かずに、ローは言葉を一方的に突きつけた。
端から見ればローが悪役風味なのは言うまでもない。
なぜなら人の首を締め上げている最中であり、(何せムカつくことに、ローと私とでは結構な身長差がある)
それに加え、お兄さんと比べればローの方が明らかに顔も雰囲気も凶悪なのだから。
シオンは首に食い込む腕に手をかけて、渾身の力で引きはがそうと試みる。
なのに一向に外れる気配はない。
うぅ、見た目は細いのにこんなに力が強いなんて詐欺だ!詐欺! と、心の中で喚いておく。
「私の意見は?」
相変わらず拘束されたままの状態はこの際どうでもいいとして、シオンは抗議の声を上げた。
全く相手にする気が感じられないローの腕の中で、さらにもがいてみるけれどー
「黙ってろ」
その一言で反射的に体の動きが止まった。
習慣というのは恐ろしい。ローには逆らわない方がいいと、体が覚えているようだ。
「離してあげたらどうだい?嫌がってるじゃないか」
お兄さんが非常に正当かつ良心的な発言をしてくださった。
おぉ、お兄さんなかなかいい人じゃないか!!
と私が感動する間もなく
「失せろ」
ローがばっさりと一言で切り捨てた。 何ともヒドい人だ。知ってたけど。
鋭い殺気がローから放たれているせいか、うなじがチリチリと痛む。
お兄さんが一歩後退ったのも、これが原因だろう。
ローの殺気は下手をすれば凶器と同等の威力を持つのだから。
嫌な緊張感が漂い始めたその真ん中に挟まれているシオンは、これでもかというほどの居心地の悪さを感じていた。
いい加減にしていただかないと、身が持たない。そう感じる程。
「あの、お誘いはまた今度ってことで。早く逃げないと危ないんで、逃げてください」
いよいよ耐えきれなくなって、シオンは嫌な沈黙を破った。
ローの殺気に当てられて固まっていたお兄さんに、声は届いてくれたようだった。
「あ……あぁ。またね、シオンちゃん」
若干顔色がよろしくなくなったお兄さんはそれだけの言葉を何とか絞り出すと、踵を返した。
2歩目は駆け足、3歩目を踏み出したときには全力疾走になっていた。不憫な。
砂埃を残して姿が見えなくなるまで、そうたいした時間はかからなかった。
お兄さんがいなくなってもなお、シオンは身動きがとれずにいた。
未だにローが解放してくれないのがその原因である。
「あのーそろそろ離して欲しいんですけど」
恐る恐る主張すると、
「お前、あいつについていこうとしてただろ」
不機嫌な声の問いが返ってきた。
離してくれる気は毛頭ないご様子。
「あーそんなことは」
「……正直に言えよ?」
「うっ……ついていくつもりでした」
「何でだ?」
「何でって、そりゃあスイーツの食べ放題な魅力につられて」
だって久々の島でスイーツ三昧だよ? そんな最強の誘惑に抗えるはずがないじゃないか。
「……ここがどこだかわかってんのか?」
「島」
即答すると、ローは無言で腕に力を入れてきた。ただでさえ息苦しさを感じていたというのに、だ。
さらにそのまま上に持ち上げようとするものだから、私はかなり焦った。
「ちょっ、ロー船長!マジで死にますって!」
「大丈夫だー多分」
「多分って何ですか!? そんな不確定要素満載な行為しないでください!」
「心配するな。逝くときは案外あっさり逝ける」
あっさりそんな恐ろしいことをのたまいやがった。
「ロー船長……もしかしてかなり怒ってらっしゃいますか?」
「そんなことないさ」
(口調が変!!)
「あのー」
「話は船でじっくりと聞いてやる。戻るぞ」
シオンに拒否権なんぞは初めからない。
拘束が解かれた次の瞬間には、ローの肩に荷物のように担ぎ上げられていた。
「ロー船長、運ぶにしてももう少し方法が」
「この場でバラバラになるか?」
「すみませんでした!」
私いったい何をやらかしたんだろうか……。
答えはでないまま、シオンは荷物よろしく運ばれていった。
09.10.4 tarot