夢現
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砂浜にて
「ねぇ、君1人?」
にこやかな笑顔とともに、知らない人から声をかけたらどうすればいいんだろう……。
右、左、前、後ろ、上、下―――― 周りを見渡しても、私しかいないみたいだ。
自分を指差して首を傾げると、声をかけてきたと思われる人物が笑顔のまま頷いた。
「よかったら一緒に遊ばないかい?」
一見すれば、誠実そうなお兄さんに声をかけられ、シオンは傾げていた首をさらに傾げた。
これは俗にいうナンパ……か?
人生今まで1度としてそんな経験のないシオンは、状況を理解するのに少々の時間を要した。
久々に1週間という長期の滞在が決まった島。
ローやベポを含むほとんどの船員達は街へ出払っている。
一方のシオンはというと、船番として残った数名の中にいた。
けれど、一緒に船番をしていたペンギンさんの計らいで、1時間程の休憩をもらえたのだ。
曰わく、「たまには1人でのんびりする時間も必要だ」ということらしい。
ペンギンさんがくれた休憩時間。
せっかく久々に上陸したのだからと、シオンはとりあえず船を降りた。
でも、船からあまりにも離れるのは心苦しい。 一応船番の人員ということに変わりはないのだから。
もしも何かあったらすぐに船には戻らなければ、なんのために残ったのか分からない。
と、いうわけなので砂浜をふらふらと散歩することにしたのだけれどー
「名前はなんていうの?」
「……シオン、です」
相手をちらちらと窺いながら、普段では絶対出さないような高めの声で応える。
うわーどうしよう……。
今まで記憶してきた手配書の中には、どうやらいないようだ。
武器も多分持っていない。ただの島の住人に見える。
「シオンちゃんね」
お兄さんが言葉を発した瞬間、シオンはぞわわっと鳥肌を立てた。
シオン――ちゃん?
うわっないないないない!
ちゃん付けで呼ばれるなんざ、いったいどのくらい振りだかも分からない。
そんなシオンの内心など気付かず、お兄さんは言葉を重ねる。
「俺ここの島に住んでるんだ。よかったら色々案内させてよ」
「いや、あんまり遠くには行けないので」
「別に少しくらい大丈夫でしょ。
心配ならすぐ戻ってこればいいし、 ちょっとお茶に付き合ってくれるだけでもいいからさ」
……どうしよう。
これはタダ食いのチャンスかも? とシオンの心が揺れる。
しかも お茶=甘いモノ という図式が出てきて、さらに気持ちが揺らいだ。
最近スイーツ系を食べてないからケーキとかクッキーとか、あとパフェなんかも食べたいな。
それらに囲まれた絵を想像すると、顔がにやける。
甘いモノの誘惑には敵わない。
ペンギンさん達ごめん!ちゃんと1時間以内には戻ってくるから!
と、心の中で船番をしている船員達に詫びておく。
「返事を聞かせてもらってもいいかな?」
「じゃあせっかくなので」
というセリフは半分も言えないうちに途絶えた。
なぜならぐわしっと首に手が回され、「ぐえっ」という潰れたような声が自分の口から上がったからだ。
「うちの船員に何の用だ?」
目線の先にあるのは、見慣れた刺青の入ったしなやかな大きな手。
「……ロー船長?」
見上げても顔を確認することは出来なかったが、肯定するように首が一回絞められた。
09.9.8 tarot