初戦闘
名前の登録はこちらから↓
本棚全体の夢小説設定※名前を登録してから閲覧したい小説を選んで下さい。
未登録の場合は「坂上 シオン」と表示されます。
今のところ、苗字はほとんど使われておりませんが……。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うぅ」
「何か言いたいことは?」
「お手数をおかけして、申し訳ありませんでした」
ローに1人引き止められたシオンは、肩身の狭い思いで正座をしていた。
反省会という名の処刑だ!と思わないこともない。
「なんであそこで動きを止めた?」
ローの口調は明らかに詰問のそれだ。
鋭い双眸も相まって、シオンにはかなりのプレッシャーがかかっている。ように感じる。
どう伝えたらいいのか、シオンは判断に迷っていた。
少なくとも、一瞬でも「怖っ」とか思って身をすくめてしまったなんてー
口が裂けても言えない。
それが本当なところではある。
しかしそれを言ったら最後、何も言われずに斬られる自信がある。
「その耳は飾りか。なら無くなっても問題ないな」
「ひいぃぃぃ」
そのセリフはローが言っていいものではない。なにせシャレにならないのだから。
ちょっ刀、それ抜かないで!
心の叫びが届いたのか、鞘から少し刀身が現れた辺りでローは動きを止めた。
「何とか言ったらどうだ?」
「何とか」
「……そうか、そんなにおれに斬られたいか」
今度こそ刀が抜ききられ、刀身が露わになる。
ついいつものノリで返してしまったシオンはザァッと顔色を青ざめた。
「ちょっと油断、そう油断したんです!」
慌てて事実っぽい嘘を口にする。いや、でもこれは無難な答えなはずだ。
「……油断だァ?」
ゆらりと剣を帯びるローの双眸。
「はれ?」
あっれーおかしいな。
予想ではここで「はっ、油断ねェ」的な感じでちょっと笑い飛ばされて終わりかと思ったのに。
何やら雲行きが怪しい気がする。
「戦闘中に油断とはいい度胸だな」
底から響いてきているんじゃないかと思うくらい、ローの声が低くなる。
まさかとは思うが、地雷を踏んでしまったのだろうか?
だとしたらマズい。非常にマズい。
「最後にもう一度だけ聞いてやる。なんで、あそこで動きを止めた?」
刀身が煌めき、首もとに突きつけられた。
冷たい感触が伝わってきて、無意識のうちに喉がごくりと鳴る。
「答えによっては……このまま凪ぐぞ」
よりいっそう鋭くなった双眸に耐えきれず、
「実はー」
シオンが事実を全て吐き出したのは、致し方ないこと……だと思う。
事実をありのまま吐き出したシオンだったが、ローの反応は依然としてよろしくない。
「あれだけ豪快に突っ走ってたくせに、身がすくんだなんて言い訳が通ると思うか?
つくならもっとまともな嘘をつけ」
「いや、あの、本当のことなんですけど」
「シオン……斬られる覚悟はあるな?」
「ないです! だからさっきのが本当のことなんです。 何回言ったら信じてくれるんですか?」
という感じで、さっきからこんなやり取りが続いていた。
必死の訴えが伝わらないって悲しすぎる。
首もとは冷たいままで、いつ刃が首に食い込んでくるかという恐怖にシオンはひたすら耐えることしかできない。
今下手に動けば確実に血を見ることになる。
うぅと泣くのをこらえて俯き、誰か救いの手を!!と切実に願う。
――――どのくらい経ったのだろうか。
ローのものと思われる溜息が一つ落とされ、同時に首に当てられていた刀がすっと遠ざけられた。
びくつきながら顔を上げたシオンの視界に、未だ険しい表情を見せるローが映る。
「初めての戦闘としては上出来だったが、次は敵を前に立ち竦むな。
一瞬の隙が死に繋がる。自分の身を自分で守れない奴はこの船に必要ない」
「……はい」
抑揚なく淡々と語るローの言葉が、じわじわと染みてくる。
海賊である以上、いつも死は隣り合わせにある。改めてその事実を認識する。
今までその自覚が薄かったのだろう。
「死」なんて、今までの生活では少なくとも身近に感じるようなものではなかった。
今の私は、海賊の一員。
どういう経緯で入ったかなんて関係ない。
いつ殺されても文句は言えないのだ。なぜなら、海賊は「法」で守られていないのだから。
ローが怒るのも当然だ。倒れ伏すのは、敵方だけではない。
自分も、ローの助けが入らなければ、その可能性が大いにあったのだ。
グッと、シオンは手を白くなる程握り締めた。
その手に、自分より一回り大きな手が重なる。
「お前の首にはまだ懸賞金がかかってない。引き返すのなら今のうちだ」
シオンの目が見開く。それはつまり――
「この船を……降りろってことですか?」
「……」
ローは答えてくれない。
「ロー船長」
「お前次第だ」
重ねられた手は温かい。
けれど、発せられた言葉は突き刺さるように冷たかった。
「私、は」
何か言わなければと思った。
けれど、何も言葉が出てこない。
この船を、降りる?
ベポちゃんを追って、この船に忍び込んだのが全ての始まり。
ローの気まぐれで、この船に置いてもらえることになった。
ただ、それだけ。
だけど
ハートの海賊団として。
シオンはわずかの間でも過ごしてきた。
仲間として。
みんなと過ごすことが今はとても楽しかった。
だから――
「いや、です」
たとえこの先の航海において、「死」が隣合わせにあったとしても。
私は
ここに、居たい。
「……後悔は?」
「しません」
ローの目を見据え、シオンははっきりと言い切った。
後悔はしない、絶対に。
「そうか」
それ以上、ローは何も言ってこなかった。
ただふわりと、温かさがカラダに伝わってくる。
抱きしめられているということに気づいたのは、温もりが離れてから。
「死んだら殺してやるから、そのつもりでいろ」
目の前にいるのは、いつもの不敵な笑みを浮かべたロー。
「反省会は終わりだ。さっさと他の奴らの手伝いに行け」
重ねられた手に引き上げられ、シオンは立ち上がった。
そのままポンと背を押され、忙しなく人が行き交いしている甲板へ足を向ける。
「シオン」
上から降ってきた声の方を振り向けば、ローが欄干にもたれてこちらを見ていた。
「これから先、引き返せると思うなよ」
「引き返すつもりはありませんから」
そう、引き返したりはない。
ローのような不敵な笑みを浮かべてそう言うと、シオンは忙しなく動く人の中に入って行った。
「まぁ、手放す気もないがな」
遠ざかっていくシオンの後姿を見つめ、ローはそう、小さく零した。
09.8.29 tarot