そんな日常
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シオンがハートの海賊団に入ってから数日がたった。
入ってまだ間もないのだが、すでに日課になっていることがある。
それは、ベポちゃんの毛の手入れをすること。
驚くべきことに、ベポちゃんは毛の手入れなるものをしたことがないらしかった。
自分用のブラシも持っていなかったので、
シオンは自分のブラシを一つベポちゃん専用として使っている。
ベポちゃんを追いかけと接するようになってから、私は驚愕の事実を知った。
ベポちゃんはクマよりも人間に非常に近かったのだ。
ていうかもう人間。外見を見なければ。
という事実を知ったので、ベポちゃんとロー船長に以前の失言を謝っておいた。
まさかここまで人間っぽいとは。しみじみ。
そうこうするうちに、ベポちゃんの毛の手入れが終わってしまった。
我ながら満足の出来上がり。
周りに落ちている抜けた毛を片付けながら、ベポちゃんの毛並みをほれぼれと眺める。
「ありがと、シオン」
「どういたしまして。やって欲しいときはいつでも言ってね~」
「1日1回で十分デス」
苦い顔をしたベポちゃんがこれまた可愛くて、
私は思わずブラシをかけたばかりの背中に飛びついてしまった。
「またやってるのかアイツは」
少し風にでも当たろうかと思って甲板にでてみれば、ベポの毛の手入れをしている新入りの姿があった。
背中を壁にもたれかけ、ローは2人の様子を眺める。
少し離れていても、2人のやりとりは聞こえてきた。
「別に毎日やらなくてもいいって言ってるのに」
「毎日やらないと輝きが薄れる」
やいのやいの言いながらも、ベポは毎回シオンのさせたいようにさせてやっている。
シオンが来てからベポの抜け毛は減った。
心なしか毛艶も良くなっているように見えるのは、こうして毎日シオンが手入れをしている成果だろう。
「やっぱり面白い奴だな」
今まで誰も、ベポ本人さえも気にしていなかったというのに、毎日せっせと手入れに勤しんでいる。
大抵は甲板でブラシがけをする事が多いようで、ブラシがけの後に甲板掃除までしている。
まめなのは、どうやらシオンの性格らしい。
そんな風にシオンの行動を観察をしていると、向こうがこっちに気づいたようだった。
「シオン、どうかした?」
「いえ」
もっとモフモフを堪能したいのに!
という想いを、私は必死で抑えた。
名残惜しくも自主的にベポちゃんの背中から離れ、床に足を着ける。
それだけで、ベポちゃんは誰が来たのか思い当たったようだ。
「キャプテン !」
ベポちゃんが嬉しそうに現れた人物の名を呼ぶ。
「楽しそうだなぁ、お前ら」
トラファルガー・ロー現る。
相も変わらずふわふわ帽子にパーカーというラフな出で立ちだ。
うぅ、せっかくの至福の時間が。
口には出さないが、ボヤかずにはいられない。
「何か言いたそうだな」
憮然としていると、そんなことを言われた。
即席で笑みを作り、それを否定する。
「ベポ」
「アイアイ、キャプテン ! シオン、また後でね」
何かしら心得のあるベポちゃんは、ローに名前を呼ばれただけで船室へ去っていってしまった。
甲板に残されたのは私とローの2人。
2メートル程の微妙な距離が2人の間にはある。
さっき私がベポちゃんから奇跡的に離れたのは、目の前にいる人物のせいである。
「今日はベポの背中にべったりじゃないんだな」
「私も学習能力なるものはありますので」
「フフッ、それもそうか。」
「笑って言うことでは無いですよね?」
思わず笑みが引きつってしまう。
なにせ私は先日、この人から痛烈な仕打ちを受けていたのだから。
「あれはお前が悪い」
「ベポちゃんと戯れていただけなんですが」
そう、戯れていただけなのだ。ベポちゃんの背中でモフモフを堪能しながら。
なのに。
「いきなり足を切り取らなくてもいいんじゃないですか?」
いきなり足を(しかも両方)切り取られ、降りるに降りれなくなった私の姿を見て、ローは楽しんでいたのだ。
「どのくらいあのままでいられるのかが気になったんでな」
「人で遊ぶのやめてもらえます?」
「おれの退屈しのぎのためにお前を乗せたんだ。何か文句でもあるのか?」
「ありまくりですが」
「そうか、それは悪かったな」
「……思ってませんよね?」
「ベポ、キャプテンしらないか?」
「シオンと甲板で話してたよ」
「じゃあ、戻ってくるまでは呼びにいかない方がいいな」
「だね」
ペンギンさんとベポちゃんがそんなことを話しているのも知らず、
「だーかーら、人で遊ばないでくださいってお願いしてるんですけど。
私はロー船長のおもちゃじゃありません」
「そう思ってるのはお前だけだ」
と相変わらず私はローと終わることのない言い合いをしていたのだった。
09.6.15 tarot