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短編

フォガートは宴が大好きだ。
今は邪竜との戦いの真っ最中で、フォガート自身前線に立つことも少なくない。そんな状況なので、残念ながら盛大な宴が開けるわけではない。 
それでもフォガートは自らの知恵を絞り、時には仲間たちに意見をもらいながら小規模ではあるが宴の開催を続けてきた。
そんな大好きな宴に、大好きな人たちに参加してもらえたら、もっと素晴らしいものになる。フォガートはそう考えていた。
「やぁ、スタルーク王子!今日の夜は空いてたりする?俺と一緒に宴にいかない?」
だから今日もフォガートはスタルークに声をかける。ただ残念ながら、スタルークが首を縦に振ったことは一度もない。
スタルークの性格上、フォガートが無理にでも頼みこめば宴に参加はしてくれるだろう。しかしそれでは意味がない。目的は宴に参加してもらうことではなく、宴を楽しんでもらうことなのだから。
(スタルーク王子、いっつも『行きたくはない……けれど断るのも申し訳ない……!』って顔してるもんなぁ)
そんな顔をされるので、いつも適当な理由をつけて会話を切り上げ、フォガートが「また今度誘うね!」と告げて別れるのがお決まりになっていた。
「あの……誘っていただきありがとうございます……その、是非、参加させてください……」
──だから、スタルークからそんな返事が来るのは、完全に予想外だったわけだ。 
「………………………………え!?本当に!?」
「あっそうですよね、僕なんかが行きたいだなんておこがましかったですね……」
「いやいや違うよ!俺から来ないって誘ってるんだし!びっくりしただけ!」
スタルークがいつもの通り後ろ向きな誤解をし始めたので、フォガートは慌てて訂正する。
「嬉しいなぁ、ありがとう!でもどうして来てくれる気になったの?」
フォガートは満面の笑みを浮かべながらガッツポーズをした。
スタルークは、本当に宴に参加したいと思ってくれているようだった。だから気になるのは、どうして急に心変わりしたのかだ。
フォガートの問いを受けて、スタルークが照れくさそうに口を開く。
「その…………つい先日、パンドロに誘われて宴に行ったんです。それがすごい楽しかったので…………」
その答えは、フォガートにとって予想外すぎるものだった。
「……………………そう、だったんだ」
何故か言葉につまりながら、なんとかフォガートは返事をする。そんなフォガートの様子はスタルークには悟られなかったようで、「そうなんです!」と顔を綻ばせた。
「人前で踊ったりしたの、初めてでした……。最初は僕の踊りなんか、と思っていたんですけど、パンドロの踊りを見ていたら気にならなくなって……」
「………………」
「僕、宴というものを勘違いしていました……本当に、とても楽しかったです……。だから、あの、フォガート王子にまた誘っていただけて、嬉しかったです。今まで断り続けていたのに、ありがとうございます……」
「あはは、それは良かった!今日の宴も楽しんでくれたら嬉しいな!」
「は、はい!」
夜になったら迎えに行く約束を交して、フォガートはスタルークと一旦別れた。
そうしてスタルークが見えなくなるまで歩き続け、周りに人気がなくなったところで足を止めた。
(……………………なんで、こんな、モヤモヤした気持ちになってるんだろう)
フォガートは自問する。
スタルークが宴は楽しいものだと知り、今日もフォガートが開く宴に来てくれるという。
良いことだ。嬉しいことしかなかったはずなのに……。
(今までも、無理にでも誘ってみたら良かったのかなぁ)
そうすれば、スタルークはもっと早く宴の楽しさを知れたかもしれない。そう、パンドロが開いた宴ではなく、フォガートの開いた宴で──。
「……あれ」
そこまで考えたところで、フォガートの口から声が漏れる。
つまりそれは。フォガートは自分ではなくパンドロが開いた宴で、スタルークがあんなに喜んでいたことに。
「……………………………嫉妬、した?」
言葉にすることでより自覚してしまい、フォガートは頭を抱えて唸る。
(だってそんなの、つまり俺はスタルーク王子のこと………………)
フォガートはさらに頭を抱える。何がって、自覚もないくせに一丁前に嫉妬なんかしていたことが一番恥ずかしい。
何度断られてもスタルークを宴に誘い続けたのだって、きっとそういうことなのだろう。
「うん、まぁ、そっか……!よし!」
覚悟を決めて、頬を軽く叩く。
今までのことを悔やんでも仕方がない。
とりあえず自覚できたのなら、これからすることは一つだ。
「とりあえず今日の宴頑張ろうっと……!スタルーク王子に楽しんでもらえるようにね!」
フォガートは覚悟しててね、とここにはいないスタルークに宣言した。
伊達に遊び人、なんて噂されてるわけじゃない。
あの自己評価が低すぎていつも後ろ向きな、優しくて可愛らしい王子様を絶対に振り向かせてみせようじゃないか。
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