私はいつものように、教授の私室を訪ねていた。

そう、いつも通りに……。



「……どうしたのかね？やけに、不安そうだが」



ならなかった。

私は今、教授が言う通り不安でいっぱいだ。

明日は公的なことで大事な日。

準備は精一杯出来る限りのことはしたのだが、それでも拭えない不安が残る。



「明日のことか？」

「はい……」



声を出して頷いたのだが、声は囁くほど小さかった。

教授はそれに見かねたのか盛大なため息を吐き、ポンポンと自分の隣を叩く。

隣に来いと言うことなのだろうか？

少し疑問を抱きつつも、私は教授の隣へ座った。

その瞬間に、スッと教授に抱き寄せられる。

驚きで声を上げそうになったが、何とか耐えた。



「……大丈夫だ」



耳元で囁くように言われる言葉に、何故か少しだけ不安が薄れた。

教授は私の腰に左手を回し、さらに引き寄せながら、右手で私の頭を撫でていた。

私に暗示させるように、何度も「大丈夫だ……」と言い続ける。

私は教授の優しさに泣きそうになるのを耐えるため、教授に少しだけすがり付く。



「お前なら、大丈夫だ…………なんくるないさぁ」




* * * * *




「―という夢を見たんです」

「その夢に我輩が存在している時点で、おかしいと思うのだが？」


「第一、我輩はそんな言葉など知らん」と言いながら、教授はレポートの採点を続ける。


「だから、驚いたんですよ。日本語の、しかも方言でシリアス場面って……」


ニヤける顔を放って置いたら、使っていない羽ペンが飛んできた。


「危ないじゃないですか、教授」

「ニヤけているな。……それで、その言葉の意味はなんなのだ」

「えーっと、確か……“何とかなるさ”です。それが訛って、“なんくるないさぁ”になるんです」





何処の国でも訛りは外国語




(貴様の場合、どちらにしろ何ともならないだろう)
(何ですか？！それ！)
(思い込みが激しすぎて、その場のみしか有効でないことだ)