-Ⅴ-
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~その言葉の理由 ~
初めて彼女を見た時、目を疑った。
“生きて戻ってきた”のかと思ってしまったほどだ。
その事を私が思っていた以上に酷く衝撃的だったのだと気付いたのは、研究室に戻って暫くしてから手帳をロイの店に忘れてきたと気付いた時だった。
夜も遅かったため、手帳は明日の朝に取りに行こう――そう思った翌朝のことだった。
「すまない。待たせてしまったかな」
「いえ……大丈夫です」
ローザから知らされた突然の来客に、慌ててテーブルの上にまで山積みにしてしまっていた本や資料を、一先ず部屋の隅へと積み直す。
ずれた帽子を正してドアを開けた先にいたのは、ローザと眼鏡を掛けた黒髪のアジア系の女性――ロイの店で出会った少女だった。
突然の訪問を不思議に思いながらも彼女を中へ入れ、お茶の用意をする。
彼女の手荷物は、“手荷物”の割には些か大きいように見えて、また一つナゾが増えた。
緊張した面持ちの彼女に淹れたお茶を渡し、まだだった自己紹介をする。
「自己紹介がまだだったね。私はエルシャール・レイトン。ここグレッセンヘラーカレッジで考古学の教授をしている考古学者だよ」
それを聞いた彼女の顔は特に何も思っていないと感じるようなものだったが、左手は無意識なのか服の裾を掴んでいた。
「私は、シオン・キサラギです」
そう言った彼女は、それからすぐに枯れ葉が落ちるのを目で追っているかのように、視線を揺らしながら床へと落とした。
どこか後ろめたいと言いたげな雰囲気に、ロイから送られてきた手紙の内容を思い出す。
「……ロイからある程度の話は聞いているよ。君が、迷子というには少しおかしいということをね」
緊張のあまりか今にも泣きだしそうな目をしている彼女を宥める様に、努めて笑みを浮かべてみるも、視線を上げた彼女はただ申し訳なさそうに再び目を落とした。
「……カルヴァートさんからは、どこまで……」
「手紙を貰ってね。ロイから直接、詳しい話は聞けてないんだ」
そう聞いてきた彼女に、私は立ち上がって机の上からロイからの手紙を取って渡した。
中身に目を通す彼女を見ながら、私はその手紙を見て最初に思ったことを口にする。
「無一文なのは、別に不思議なことじゃないだろう。財布を忘れたかもしれないからね。家がないのも、家出をしているのならばそう嘘を吐いたと考えられる。だが、身元不明、というのは問題なんだ」
手紙から私へと顔を上げた彼女は無表情だったが、どこか不安げな色を浮かべている。
「この短い間に、ロイが他人の個人情報を調べられるはずがない。それこそ、警察関係者でなければ身元不明かどうかも分からないはずだ。だが、その手紙には身元不明と書かれていた。いったいどういうことなんだい?」
私は思わず、眼鏡を掛けていることと目の色以外“ロイの妹 ”そっくりな彼女――シオンに投げかけた。
普通であれば、絶対に出るはずのない“身元不明”という言葉を出したであろう本人に。
シオンは私の目から逃げる様に、顔を俯けた。
ちょっとした現実逃避をしていた訳なのだが、三日前の事を思い出したところで答えが出てくるはずもない。
そもそも、“身元不明”以上に的確な言葉など、私は思い出せないし知らないのだ。
初めて彼女を見た時、目を疑った。
“生きて戻ってきた”のかと思ってしまったほどだ。
その事を私が思っていた以上に酷く衝撃的だったのだと気付いたのは、研究室に戻って暫くしてから手帳をロイの店に忘れてきたと気付いた時だった。
夜も遅かったため、手帳は明日の朝に取りに行こう――そう思った翌朝のことだった。
「すまない。待たせてしまったかな」
「いえ……大丈夫です」
ローザから知らされた突然の来客に、慌ててテーブルの上にまで山積みにしてしまっていた本や資料を、一先ず部屋の隅へと積み直す。
ずれた帽子を正してドアを開けた先にいたのは、ローザと眼鏡を掛けた黒髪のアジア系の女性――ロイの店で出会った少女だった。
突然の訪問を不思議に思いながらも彼女を中へ入れ、お茶の用意をする。
彼女の手荷物は、“手荷物”の割には些か大きいように見えて、また一つナゾが増えた。
緊張した面持ちの彼女に淹れたお茶を渡し、まだだった自己紹介をする。
「自己紹介がまだだったね。私はエルシャール・レイトン。ここグレッセンヘラーカレッジで考古学の教授をしている考古学者だよ」
それを聞いた彼女の顔は特に何も思っていないと感じるようなものだったが、左手は無意識なのか服の裾を掴んでいた。
「私は、シオン・キサラギです」
そう言った彼女は、それからすぐに枯れ葉が落ちるのを目で追っているかのように、視線を揺らしながら床へと落とした。
どこか後ろめたいと言いたげな雰囲気に、ロイから送られてきた手紙の内容を思い出す。
「……ロイからある程度の話は聞いているよ。君が、迷子というには少しおかしいということをね」
緊張のあまりか今にも泣きだしそうな目をしている彼女を宥める様に、努めて笑みを浮かべてみるも、視線を上げた彼女はただ申し訳なさそうに再び目を落とした。
「……カルヴァートさんからは、どこまで……」
「手紙を貰ってね。ロイから直接、詳しい話は聞けてないんだ」
そう聞いてきた彼女に、私は立ち上がって机の上からロイからの手紙を取って渡した。
中身に目を通す彼女を見ながら、私はその手紙を見て最初に思ったことを口にする。
「無一文なのは、別に不思議なことじゃないだろう。財布を忘れたかもしれないからね。家がないのも、家出をしているのならばそう嘘を吐いたと考えられる。だが、身元不明、というのは問題なんだ」
手紙から私へと顔を上げた彼女は無表情だったが、どこか不安げな色を浮かべている。
「この短い間に、ロイが他人の個人情報を調べられるはずがない。それこそ、警察関係者でなければ身元不明かどうかも分からないはずだ。だが、その手紙には身元不明と書かれていた。いったいどういうことなんだい?」
私は思わず、眼鏡を掛けていることと目の色以外“
普通であれば、絶対に出るはずのない“身元不明”という言葉を出したであろう本人に。
シオンは私の目から逃げる様に、顔を俯けた。
ちょっとした現実逃避をしていた訳なのだが、三日前の事を思い出したところで答えが出てくるはずもない。
そもそも、“身元不明”以上に的確な言葉など、私は思い出せないし知らないのだ。
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