～新生活の始まり～





グレッセンヘラーカレッジから少し離れた、落ち着いた雰囲気のオシャレな喫茶店へと男性に手を引かれるがまま入る。


「お帰りなさい！マスター」


店内でまばらにいる客の対応をしていた女性が、私の手を引く男性に笑顔で言った。


「ああ。ただいま、ノエル。店を頼んでしまって、すまないね」

「いえ、どうってこともないですよ！……で、その子、どうしたんですか？」


ノエル、と呼ばれた女性は、私を一瞥してから男性に疑問を投げかける。

当然の事だろう。
突然見知らぬ人間と手を繋いで、しかも制服姿の少女をこんな真っ昼間に喫茶店に連れ込んだのだから。


「ちょっと色々あってね。すまないけど、もう少し店番をよろしく頼むよ。上に居るから、何かあったら呼んでくれ」

「……分かりました」


ノエルさんが不思議そうに首を傾げながら、あまり納得していなさそうな顔で了承の言葉を言うと、男性は満足そうに笑みを浮かべて私の手を引き、カウンターの奥の通路へと入っていく。

リビングキッチンを横目に見ながら薄暗い廊下を進むと、二階へと続く階段が見えた。
その階段を昇って、私は男性に右の方にある部屋に連れられた。

入ってすぐに、この部屋がこの男性の部屋であることがわかった。


「そこに座って」


机とセットで買ったようなアンティークな椅子に座るよう促され、大人しく腰を下ろす。


「いったい、今まで何処に行ってたんだい？僕らがどれだけ心配したのか分かってるか？」


そう切り出してきた男性は、どうやら私に対して怒っているらしい。
とは言っても、私ではない、“レイラ”と呼んでいたそっくりさんの方だろう。

身に覚えのないことで怒られるのは趣味でもないので、私は自分が人違いであることをようやく口にする。
とは言え、日本語のままで大丈夫なのだろうか……。
いや、聞こえてくる言葉が日本語の時点で大丈夫だろう、たぶん←


「あの……すみませんが、人違いだと……」

「そう言って、誤魔化そうとしたって無駄だよ。学生のフリまでしてさ……。その制服、どこから借りてきたんだい？」


日本語での受け答えは問題ないようなのだが、男性はいまだに私が知り合い本人であると疑いもしない。
むしろ、怒られるのを避ける為に別人だと嘘を吐いていると思われている始末だ。