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これはこの島の本当にあった昔話
この島の女性は生まれた時から特別な能力をもっていた。
あるものは島全体を見渡せる者、あるものは人の心を動かせる歌声をもつ者、またあるものは人の心の中を覗く者…
生活の役に立たないものから私生活に支障の出るものと様々な能力を持っていた。
そしてこの島には現代で言う”サッカー”に似た儀式で揉め事などを解決していた。
でもこれは何十年も昔の話、既に地図から消えてしまったとても悲しい島の話だ。
◇◇◇
「この島ですね」
強い風が吹き綺麗に切り揃えた茶色の髪を耳にかけ、隣に立っている自分の上司にそう答える。
天気は悪く、今にも一雨降りそうな曇り空に林野不二子は不機嫌そうに空を睨みつけた、今日からこの島にフィフスセクターのシードを育成する特別施設”ゴッドエデン”の建設を行う為に、こうして教官数名と乗組員数名でわざわざ下見に東京から時間を掛けてやってきたのだ。
林野は早く調査を終えて帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「まぁまぁ、そう苛立たずともいいでしょう」
同じく長い髪を鬱陶しそうに払いながら船から降りてきた火北に咎められた。今回フィフスセクターから選抜された教官は施設長を除いて5人。
林野、火北と続いて3人の教官と各専門の研究員たちが一斉に島へ足を踏み込んだ。
船を停めている港付近は栄えていた時の名残なのか建物や遺跡の様なものがちらほら見えていた。
「ここが栄えていたのは数百年以上も昔の話です。今となっては住んでいる人間を探すのは難しいでしょう。」
「まぁいい、いちいち説明をして退去させる手間が省けるな。」
施設長の牙山道三はフンと鼻で笑った。研究員の熱の入った説明など聞き流し教官5人に指示を出すと足早に船の中へと戻ってしまった。
「はぁ、どうせトレーニングするなら散策チームに入ればいいのに」
「おい、聞こえるぞ」
「せっかくゴッドエデンの教育プログラムメンバーに抜擢されたんだぞもっと緊張感を持て。」
林野の愚痴に敏感に反応する。
「そうはいっても非公認でしょ、このプロジェクト牙山施設長独断の。」
そう、これはフィフスセクターの計画ではない。牙山発案のプロジェクトで創設者である千宮路大吾から『好きにすればいい』と言われているだけだ。
やれやれと他の教官たちはため息をついた。あの冷静な林野は熱狂的な千宮路大吾の信者である。フィフスセクターの組合員は大体の人が認知していた。彼女が牙山にいい印象がないことをこの4人は知っていた。
「ほんと、早く本部に帰りたいわ。」
「ま、その為に早く任務を終わらせましょうか」
そう雑談している一員を見ていた小さな影に誰も気づかなかった。
◇◇◇
「…アムリタ、今日はここまでにして家に戻ろうか」
数日分の食糧を確保する為浜辺に出ていた二人のうちの一人の少年がそう呟いた。日本では見ない民族衣装の様な珍しい服を着た小さな子供は髪飾りのついた髪を揺らしながら腰を起こした。
「まぁ、欲しい数は揃ったけど、なんで?シュウ」
同じく少年と同じ様な服を着た少女は同じく髪飾りの付いた黒髪を揺らしながら聞き返した。いつもはこれから広場で”球蹴り”をして遊ぶからだ
「なんか、いやな予感がするんだ。」
アムリタと出会って数年、平和に過ごしていた日常が変わってしまう様な”嫌な予感”を忘れてしまいたい昔のことをシュウは思い出してしまった。アムリタはこんな思いをさせたくない。最後に残ったこの子だけは味わってほしくなかった。
「とりあえず、アムリタはこれを持って家に戻ってて。あと今日から数日は中央の塔には近付かない事。僕は今からちょっと周りを見回ってくる。…大丈夫だよ。危険なことはしない、約束する。」
不安な顔をしているアムリタに言い聞かせる。そう、この子は何も知らない7歳の女の子なんだ。シュウはアムリタの両手をそっと握る。アムリタは少々不満げだがコクリと小さく頷いてその場を離れた。
「さてと、ただの観光客なら僕の勘違いで済むんだけど…」
さっきまで少女と同じ背格好だった少年はぐぐぐっと背伸びをした。その格好はどう見ても中学生くらいの姿だった。本当は一人で危ない事をするのだから大人の方が安心だが少年はそれ以上は大きくなれないし、どうせ今の姿を見える人はいない。そしてそれをアムリタには知られてはいけない。
「どうせあと何年かしか一緒には居れないからなぁ…」
この島には自分とアムリタしか生存していない。栄えていた数百年前はここも賑やかな市場だったけど数十年前にその歴史は廃れ、島民は自由を求め本州へと去っていった。それでも残った人々は天寿を全うしたり、病に臥せったりと徐々に減り、今ではたった一人となってしまったのだ。
「よし、この辺まで来れば見えるかな…」
少年はこの島の中央にある塔の上に立って一息ついた。この塔は昔、それも自分が生まれるより遥か昔に建てられた王の城だ、鳥の翼のように左右に大きく広がった場所からだと島全体が見渡すことができる。
「…気のせいだといいんだけど」
今のところ特に変わったところのないいつもの日常だ、この島に来客などここ数十年のうち一度もなかった。本州を目指して島を出た人々も誰一人戻ることすらもなかったのだ。
「余程ここより住み心地が良かったんだろうね」
島に残った人々や過ごした生活を忘れるくらいに
「最悪、悪意のない連中だったらアムリタを本州へ連れて行ってもらえるんだけど…」
そうこう言っている間にも雲行きが怪しくなってきた。これだと1時間もしない内に一雨降るだろう。それと同じくらいに船のようなものが見えた、かなり大きいが客船のように豪華なものではない。
「着た…」
まず人がこの地に踏み込むのなら最初にこの塔へ必ず向かうだろう。この高さだ、船の停めれるどの海岸からもこの塔の天辺は見える。観光客でも調査隊にしてもこの目立つ島へまっすぐ来る筈だ。そう確信した少年は塔から飛び降りた。
◇◇◇
「遅いなぁ…シュウどこまで行ったんだろ」
生活の拠点としている家の中で一人寂しく待っていた。ただ待つのも暇になってしまい明日やるはずだった漁に使う網の修復作業を行なっていた。
この島に自分以外の住民はシュウしかいない、島に最後まで残った大人も母親が亡くなった事で全員いなくなってしまったのだ。
「天気も悪そうだし、迦楼羅」
迦楼羅、それは自分が物心ついた時から側にいる"鳥のような女性"だ。人の姿に似てはいるが人とは違う存在であるがアムリタとは姉妹のように仲が良かった。
『もうじき一雨降るからな』
「シュウ早く戻ってくるならいいんだけど」
家の入り口から外に顔を出して空を見る。空気は嫌に重く、遠くの方はどんよりと重たい雲が見えている。勿論シュウは雨よけの笠も持って行っていない、もう寒い時期ではないにしても雨に濡れて仕舞えば肌寒いし風邪をひいてしまう。
網の修復作業をしていた手を止め、アムリタはいそいそと風呂を沸かす準備をした。水は午前中暇ができた時にやっておいたのであとは薪を割って温めるだけ。一度沸かして仕舞えばそう簡単にお湯は冷めないのでシュウが帰ってきてからでも体を冷やさずに温まることができるだろう。そうと決まればテキパキと風呂の準備に取り掛かった。
『相変わらず忙しい奴だな』
クツクツと喉を鳴らすように迦楼羅は笑うとアムリタの影に隠れるように姿を隠した。
「はー、酷い目にあった…」
上着を笠がわりにしてシュウは足早に帰ってきた。かなり雨に打たれたらしい。アムリタは待ってました!と言わんばかりにシュウから上着を受け取るとグイグイと風呂場へと押しやった。かなり熱めにお湯を沸かしていたのでシュウが帰ってきた頃にはちょうどいい温度になっていた。
「ありがとう、アムリタ」
「いいよ、それより何かわかった?」
体を拭くための布と着替えを用意して本題を切り出した。危険だからとわざわざ自分一人で偵察しに行ったのだ、きっと良からぬことが起ころうとしているのだろう。
「それなんだけど」
と口を開いたシュウは先ほど確認してきた事を詳しく教えてくれた。
本州からやってきたフィフスセクターと言う団体はこの島の中央に位置する塔にその団体の施設を作るのだと言う。予定では1年以内には塔の改良を行い稼働させるのだと言う。
「多分開けた海岸から中央の塔付近以外には立ち入らないとは思う。この島は地形に詳しくない人からすれば秘境の密林だからね、調査をしていたら彼らの計画は大幅にずれ込んでしまうから下手に僕達が住んでるところまでは立ち入らないだろう。」
「それじゃあ、ぼくたちが気を付ければいいだけの問題だね」
「そうだね…」
扉越しに会話しているとシュウはどことなく歯切れの悪い返事をした。
それから次の日から大きな船が毎日往復し1年と言わず半年ほどで工事は完了して沢山の自分と同じ年頃の子供たちがやって来たのだ。
この島の女性は生まれた時から特別な能力をもっていた。
あるものは島全体を見渡せる者、あるものは人の心を動かせる歌声をもつ者、またあるものは人の心の中を覗く者…
生活の役に立たないものから私生活に支障の出るものと様々な能力を持っていた。
そしてこの島には現代で言う”サッカー”に似た儀式で揉め事などを解決していた。
でもこれは何十年も昔の話、既に地図から消えてしまったとても悲しい島の話だ。
◇◇◇
「この島ですね」
強い風が吹き綺麗に切り揃えた茶色の髪を耳にかけ、隣に立っている自分の上司にそう答える。
天気は悪く、今にも一雨降りそうな曇り空に林野不二子は不機嫌そうに空を睨みつけた、今日からこの島にフィフスセクターのシードを育成する特別施設”ゴッドエデン”の建設を行う為に、こうして教官数名と乗組員数名でわざわざ下見に東京から時間を掛けてやってきたのだ。
林野は早く調査を終えて帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「まぁまぁ、そう苛立たずともいいでしょう」
同じく長い髪を鬱陶しそうに払いながら船から降りてきた火北に咎められた。今回フィフスセクターから選抜された教官は施設長を除いて5人。
林野、火北と続いて3人の教官と各専門の研究員たちが一斉に島へ足を踏み込んだ。
船を停めている港付近は栄えていた時の名残なのか建物や遺跡の様なものがちらほら見えていた。
「ここが栄えていたのは数百年以上も昔の話です。今となっては住んでいる人間を探すのは難しいでしょう。」
「まぁいい、いちいち説明をして退去させる手間が省けるな。」
施設長の牙山道三はフンと鼻で笑った。研究員の熱の入った説明など聞き流し教官5人に指示を出すと足早に船の中へと戻ってしまった。
「はぁ、どうせトレーニングするなら散策チームに入ればいいのに」
「おい、聞こえるぞ」
「せっかくゴッドエデンの教育プログラムメンバーに抜擢されたんだぞもっと緊張感を持て。」
林野の愚痴に敏感に反応する。
「そうはいっても非公認でしょ、このプロジェクト牙山施設長独断の。」
そう、これはフィフスセクターの計画ではない。牙山発案のプロジェクトで創設者である千宮路大吾から『好きにすればいい』と言われているだけだ。
やれやれと他の教官たちはため息をついた。あの冷静な林野は熱狂的な千宮路大吾の信者である。フィフスセクターの組合員は大体の人が認知していた。彼女が牙山にいい印象がないことをこの4人は知っていた。
「ほんと、早く本部に帰りたいわ。」
「ま、その為に早く任務を終わらせましょうか」
そう雑談している一員を見ていた小さな影に誰も気づかなかった。
◇◇◇
「…アムリタ、今日はここまでにして家に戻ろうか」
数日分の食糧を確保する為浜辺に出ていた二人のうちの一人の少年がそう呟いた。日本では見ない民族衣装の様な珍しい服を着た小さな子供は髪飾りのついた髪を揺らしながら腰を起こした。
「まぁ、欲しい数は揃ったけど、なんで?シュウ」
同じく少年と同じ様な服を着た少女は同じく髪飾りの付いた黒髪を揺らしながら聞き返した。いつもはこれから広場で”球蹴り”をして遊ぶからだ
「なんか、いやな予感がするんだ。」
アムリタと出会って数年、平和に過ごしていた日常が変わってしまう様な”嫌な予感”を忘れてしまいたい昔のことをシュウは思い出してしまった。アムリタはこんな思いをさせたくない。最後に残ったこの子だけは味わってほしくなかった。
「とりあえず、アムリタはこれを持って家に戻ってて。あと今日から数日は中央の塔には近付かない事。僕は今からちょっと周りを見回ってくる。…大丈夫だよ。危険なことはしない、約束する。」
不安な顔をしているアムリタに言い聞かせる。そう、この子は何も知らない7歳の女の子なんだ。シュウはアムリタの両手をそっと握る。アムリタは少々不満げだがコクリと小さく頷いてその場を離れた。
「さてと、ただの観光客なら僕の勘違いで済むんだけど…」
さっきまで少女と同じ背格好だった少年はぐぐぐっと背伸びをした。その格好はどう見ても中学生くらいの姿だった。本当は一人で危ない事をするのだから大人の方が安心だが少年はそれ以上は大きくなれないし、どうせ今の姿を見える人はいない。そしてそれをアムリタには知られてはいけない。
「どうせあと何年かしか一緒には居れないからなぁ…」
この島には自分とアムリタしか生存していない。栄えていた数百年前はここも賑やかな市場だったけど数十年前にその歴史は廃れ、島民は自由を求め本州へと去っていった。それでも残った人々は天寿を全うしたり、病に臥せったりと徐々に減り、今ではたった一人となってしまったのだ。
「よし、この辺まで来れば見えるかな…」
少年はこの島の中央にある塔の上に立って一息ついた。この塔は昔、それも自分が生まれるより遥か昔に建てられた王の城だ、鳥の翼のように左右に大きく広がった場所からだと島全体が見渡すことができる。
「…気のせいだといいんだけど」
今のところ特に変わったところのないいつもの日常だ、この島に来客などここ数十年のうち一度もなかった。本州を目指して島を出た人々も誰一人戻ることすらもなかったのだ。
「余程ここより住み心地が良かったんだろうね」
島に残った人々や過ごした生活を忘れるくらいに
「最悪、悪意のない連中だったらアムリタを本州へ連れて行ってもらえるんだけど…」
そうこう言っている間にも雲行きが怪しくなってきた。これだと1時間もしない内に一雨降るだろう。それと同じくらいに船のようなものが見えた、かなり大きいが客船のように豪華なものではない。
「着た…」
まず人がこの地に踏み込むのなら最初にこの塔へ必ず向かうだろう。この高さだ、船の停めれるどの海岸からもこの塔の天辺は見える。観光客でも調査隊にしてもこの目立つ島へまっすぐ来る筈だ。そう確信した少年は塔から飛び降りた。
◇◇◇
「遅いなぁ…シュウどこまで行ったんだろ」
生活の拠点としている家の中で一人寂しく待っていた。ただ待つのも暇になってしまい明日やるはずだった漁に使う網の修復作業を行なっていた。
この島に自分以外の住民はシュウしかいない、島に最後まで残った大人も母親が亡くなった事で全員いなくなってしまったのだ。
「天気も悪そうだし、迦楼羅」
迦楼羅、それは自分が物心ついた時から側にいる"鳥のような女性"だ。人の姿に似てはいるが人とは違う存在であるがアムリタとは姉妹のように仲が良かった。
『もうじき一雨降るからな』
「シュウ早く戻ってくるならいいんだけど」
家の入り口から外に顔を出して空を見る。空気は嫌に重く、遠くの方はどんよりと重たい雲が見えている。勿論シュウは雨よけの笠も持って行っていない、もう寒い時期ではないにしても雨に濡れて仕舞えば肌寒いし風邪をひいてしまう。
網の修復作業をしていた手を止め、アムリタはいそいそと風呂を沸かす準備をした。水は午前中暇ができた時にやっておいたのであとは薪を割って温めるだけ。一度沸かして仕舞えばそう簡単にお湯は冷めないのでシュウが帰ってきてからでも体を冷やさずに温まることができるだろう。そうと決まればテキパキと風呂の準備に取り掛かった。
『相変わらず忙しい奴だな』
クツクツと喉を鳴らすように迦楼羅は笑うとアムリタの影に隠れるように姿を隠した。
「はー、酷い目にあった…」
上着を笠がわりにしてシュウは足早に帰ってきた。かなり雨に打たれたらしい。アムリタは待ってました!と言わんばかりにシュウから上着を受け取るとグイグイと風呂場へと押しやった。かなり熱めにお湯を沸かしていたのでシュウが帰ってきた頃にはちょうどいい温度になっていた。
「ありがとう、アムリタ」
「いいよ、それより何かわかった?」
体を拭くための布と着替えを用意して本題を切り出した。危険だからとわざわざ自分一人で偵察しに行ったのだ、きっと良からぬことが起ころうとしているのだろう。
「それなんだけど」
と口を開いたシュウは先ほど確認してきた事を詳しく教えてくれた。
本州からやってきたフィフスセクターと言う団体はこの島の中央に位置する塔にその団体の施設を作るのだと言う。予定では1年以内には塔の改良を行い稼働させるのだと言う。
「多分開けた海岸から中央の塔付近以外には立ち入らないとは思う。この島は地形に詳しくない人からすれば秘境の密林だからね、調査をしていたら彼らの計画は大幅にずれ込んでしまうから下手に僕達が住んでるところまでは立ち入らないだろう。」
「それじゃあ、ぼくたちが気を付ければいいだけの問題だね」
「そうだね…」
扉越しに会話しているとシュウはどことなく歯切れの悪い返事をした。
それから次の日から大きな船が毎日往復し1年と言わず半年ほどで工事は完了して沢山の自分と同じ年頃の子供たちがやって来たのだ。
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