満ち欠け
名前設定
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「今日やたら月が綺麗じゃんっ、なんか近いし」
「あれ街灯でさァ」
「あはは、月じゃないか〜」
人の介抱なんてするわけがない男代表と言っても過言じゃない男、沖田総悟。
そんな沖田が、酔った名前に肩を貸し夜道を歩いていた。
事の発端は少し前、非番の隊員達が集まり飲み会をしていた時。
「名前さん」
「ン〜〜」
名前の目の前にある机の上に残る、空になったいくつものグラス。
部屋の一番奥の端っこで膝を抱えて小さくなっていた名前、そんな彼女の元にやってきた沖田は目の前で屈むとつむじをツンツン押しながら声をかけた。
が、夢と現実との境目を彷徨っている名前は未だ顔を伏せている。
「⋯⋯ちっ、おい起きろチビ」
「いま誰か私の事チビって言った?」
「おー怖」
本当に今までうつらうつらしていた人物とは思えない反応速度で顔を上げる名前と、女性の不快指数を高めるとどうなるかを改めて実感している沖田。
起こすことには成功したものの、赤くなった顔にトロンと垂れた目尻、あまり空調の行き届いていない部屋のせいで少し汗ばんだ前髪。
名前の顔を数秒見つめた沖田はつむじを押し再び顔を伏せさせると、そのまま腕を引き名前を立たせ部屋を出た。
そして今に至っていた。
外の寒さで少しは酔いも眠気も冷めた名前は沖田にお礼をし、自分の足でバランスを取りながら歩き始めた。
沖田は名前の半歩後ろを歩きながら、ついさっきまでその温もりに触れていた手のひらを見つめた。
ぐっ、と握ってみてもそこにはもう何も残っていない。
「やっぱ今日さ〜月すごい綺麗じゃない?」
「まだ酔ってんですかィ」
「いやいやナメてもらっちゃ困るよ総悟くん、私の目はそう言ってる」
「悪い事ァ言わねえ眼科お勧めし⋯」
さほど力の籠っていない衝撃を頭にパシッと食らい前髪を揺らす沖田はなびく髪の隙間から少しむくれた名前を見つめた。
「やべー馬鹿が移っちまう」
「ばーか」
姉と弟に近い距離感を心地よく思っている名前と、その距離感を建前に踏みとどまっている沖田。
靴の先で蹴り続ける小石は小さな舌打ちと共にあらぬ方向へ転がっていく。
沖田自身も気付かぬうちに、名前へ対し抱いていた感情が同僚以上のものだと自覚したのはもう何ヶ月も前のこと。
しかも最悪なことに、弁当を届けに来た名前の彼氏と名前が屯所の入口で楽しそうに話していたのを目撃した瞬間だった。
嫉妬を覚え盛大な溜息を吐いたのを沖田は今でも苛立つほど覚えている。
それでも沖田にとって今日みたいに都合よく距離感をほんの少し縮められる瞬間は、心地が良かった。
「こーゆー時にさ」
指で輪を作りながら月を見上げる名前の声が溶け込んでいく。
「ポッて頭に浮かんでくる人は、私にとってどういう人なんだろう」
澄んだ声が、静かな道へ、仄暗い夜へ、消えていく。
沖田からほんの半歩先を歩く名前が振り返った。
月明かりに照らされたほんのり火照る顔がとても綺麗で、今日の月は綺麗なんだ、と、沖田総悟でさえ納得させられる。
「そいつも今頃、きっとあんたを思い浮かべてますぜィ」
また一つ、沖田は靴の先で小石を飛ばした。
「え〜〜?相思相愛ってこと?」
「相手に失礼でさァ」
「そこまで言う!?」
都合のいい距離感でいられるならそれだけでいい。
名前を見つめる沖田の顔がいつにも増して柔らかかったのは、きっと綺麗な月に絆されたから。
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