ひだりのとなり
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左利きちゃんのお話
例えば、書類に何かを書く時。
例えば、扉を開ける時。
例えば、お茶を持ってきてくれる時。
名前は全部が逆だった。
いや、逆っつーのもおかしな話で、あいつが左利きなだけ。
けど俺は妙に気になった。
「また、見てたでしょ」
「なにがだよ」
「私の手。
⋯もう今日だけで何回目?」
ソファに腰かけながら書類を整理してる名前が左手で髪をすくい耳にかけながら俺を見た。
もう何ヵ月も見てるのに俺とは違う仕草についつい目がいく。
きっと名前が言うほどなんだから相当なんだろうなと思った。
「んな事言ったってよ、珍しいだろ左利き」
「そっちが多すぎるだけじゃん」
「グローバルなんだよ」
「普通で満足しちゃってる?つまんない男〜」
「言ってろ言ってろ」
名前が来てからは毎日がこんな感じで、前より賑やかになった。
「はいこれ、銀さんがサインするやつ」
何枚かの書類と自分が普段使ってるペンをまとめて机に置いた名前。
今まで一ミリも気にせず過ごしてたからこそ、こうしてまとめられるとたった数枚の書類が酷く面倒に思えてきた。
「なんか、お前が来てから仕事が増えた気がするわ」
「普段仕事してないんだし感謝してよね」
ああ言えばこう言う名前とのやりとりを、悔しいことに日々心地よく感じる。
俺が名前を書いてる間にどこかに行ったと思ってた名前が、俺の左側に茶の入ったグラスを置いた。
「⋯⋯」
そのまま目の前に立ち続ける名前。
なんかそれとなくじっと、俺の手元を見下ろされてる視線を感じる。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
そんなにこの書類が急ぎなのか?そんなわけない。
そもそも期日やらを誰より気にしてる名前がそんな
「⋯それ」
「んぁ?」
そんなギリギリに書かせるなんて、と思ってると口を開いた名前。
「それ」
「どれ?」
「私のペン、それって私の?」
「お前は何を言ってんの?」
とうとうおかしくなったんか?そう思った。
お前が渡してきたペンだろーが、って。
「いや、私のペンなのはそうなんだけどさ
なんか銀さんが持ってると、すごく小さく感じて」
「⋯⋯?そうか?」
「うん」
丁度名前を書き終えた俺の手元からペンを抜き取ると、自分の左手でそれを握り確かめている名前。
「ほら、私だとこれだけ手から溢れちゃうから」
左手でペンを握りながら右手でコの字を作って長さを確認してる。
「普通に考えて手のデカさだろ」
「銀さんの手ってそんなに大きいの?」
「いやお前が小せぇんだろ」
「⋯なんか嫌なんだけど、銀さんにそう言われるの」
名前はペンを置いて自分の左手の甲や平を眺め始めた。
そう言われたらなんとなく自分の手が気になって、椅子にもたれかかりながら普段気にしたことすらない自分の右手を見た。
最後にまじまじと自分の手を見たのがいつだったかすら覚えてないが何の特徴も無い手、至って普通の手。
普通⋯普通と言えるほど綺麗な手じゃないことは確かか。
影を落とす手の甲を見てると、細く小さい白い手が伸びてきた。
「やっぱ銀さんの手大きいよ」
手の平に感じたちょっと冷たい人肌。
俺の右手の平に自分の左手の平を合わせて、そんな当たり前にわかりきった規格差を確認してるやつがいた。
手が触れる場所から冷たさを感じたのは一瞬。
名前の体温を直に感じる手の平は次第にどんどん熱さを増していく。
嫌でも意識しちまう名前の手。
俺の手の平にすっぽり収まる小ささと女らしい柔らかさ。
バクバクと脈が早くなって、手の平から伝わるんじゃねえか?と思えば思うほど脈が速くなってく気がして。
「絶対銀さんとは指相撲しない」
答えが見つからない胸の騒めきを一蹴するように普段と何一つ変わらない名前。
用が済んだのかペンと書類を手に取ると、なにもなかったみたいにソファに戻ってそれまで通りに過ごしてやがる。
なんだか無性に、腹が立った。
なんで腹が立ったのかも全部わかっちまったからこそ余計に腹が立つ。
きっと気付けば視界の中に名前を探しちまうのは、利き手が逆、だけじゃなく俺とは真逆のモノを持ってるからかもしれない。
品のある所作だったり、人当たりが良かったり、老若男女に好かれたり。
実体のないつっかえを飲み込むために、置かれたグラスへ左手を伸ばした。
25.6.9
例えば、書類に何かを書く時。
例えば、扉を開ける時。
例えば、お茶を持ってきてくれる時。
名前は全部が逆だった。
いや、逆っつーのもおかしな話で、あいつが左利きなだけ。
けど俺は妙に気になった。
「また、見てたでしょ」
「なにがだよ」
「私の手。
⋯もう今日だけで何回目?」
ソファに腰かけながら書類を整理してる名前が左手で髪をすくい耳にかけながら俺を見た。
もう何ヵ月も見てるのに俺とは違う仕草についつい目がいく。
きっと名前が言うほどなんだから相当なんだろうなと思った。
「んな事言ったってよ、珍しいだろ左利き」
「そっちが多すぎるだけじゃん」
「グローバルなんだよ」
「普通で満足しちゃってる?つまんない男〜」
「言ってろ言ってろ」
名前が来てからは毎日がこんな感じで、前より賑やかになった。
「はいこれ、銀さんがサインするやつ」
何枚かの書類と自分が普段使ってるペンをまとめて机に置いた名前。
今まで一ミリも気にせず過ごしてたからこそ、こうしてまとめられるとたった数枚の書類が酷く面倒に思えてきた。
「なんか、お前が来てから仕事が増えた気がするわ」
「普段仕事してないんだし感謝してよね」
ああ言えばこう言う名前とのやりとりを、悔しいことに日々心地よく感じる。
俺が名前を書いてる間にどこかに行ったと思ってた名前が、俺の左側に茶の入ったグラスを置いた。
「⋯⋯」
そのまま目の前に立ち続ける名前。
なんかそれとなくじっと、俺の手元を見下ろされてる視線を感じる。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
そんなにこの書類が急ぎなのか?そんなわけない。
そもそも期日やらを誰より気にしてる名前がそんな
「⋯それ」
「んぁ?」
そんなギリギリに書かせるなんて、と思ってると口を開いた名前。
「それ」
「どれ?」
「私のペン、それって私の?」
「お前は何を言ってんの?」
とうとうおかしくなったんか?そう思った。
お前が渡してきたペンだろーが、って。
「いや、私のペンなのはそうなんだけどさ
なんか銀さんが持ってると、すごく小さく感じて」
「⋯⋯?そうか?」
「うん」
丁度名前を書き終えた俺の手元からペンを抜き取ると、自分の左手でそれを握り確かめている名前。
「ほら、私だとこれだけ手から溢れちゃうから」
左手でペンを握りながら右手でコの字を作って長さを確認してる。
「普通に考えて手のデカさだろ」
「銀さんの手ってそんなに大きいの?」
「いやお前が小せぇんだろ」
「⋯なんか嫌なんだけど、銀さんにそう言われるの」
名前はペンを置いて自分の左手の甲や平を眺め始めた。
そう言われたらなんとなく自分の手が気になって、椅子にもたれかかりながら普段気にしたことすらない自分の右手を見た。
最後にまじまじと自分の手を見たのがいつだったかすら覚えてないが何の特徴も無い手、至って普通の手。
普通⋯普通と言えるほど綺麗な手じゃないことは確かか。
影を落とす手の甲を見てると、細く小さい白い手が伸びてきた。
「やっぱ銀さんの手大きいよ」
手の平に感じたちょっと冷たい人肌。
俺の右手の平に自分の左手の平を合わせて、そんな当たり前にわかりきった規格差を確認してるやつがいた。
手が触れる場所から冷たさを感じたのは一瞬。
名前の体温を直に感じる手の平は次第にどんどん熱さを増していく。
嫌でも意識しちまう名前の手。
俺の手の平にすっぽり収まる小ささと女らしい柔らかさ。
バクバクと脈が早くなって、手の平から伝わるんじゃねえか?と思えば思うほど脈が速くなってく気がして。
「絶対銀さんとは指相撲しない」
答えが見つからない胸の騒めきを一蹴するように普段と何一つ変わらない名前。
用が済んだのかペンと書類を手に取ると、なにもなかったみたいにソファに戻ってそれまで通りに過ごしてやがる。
なんだか無性に、腹が立った。
なんで腹が立ったのかも全部わかっちまったからこそ余計に腹が立つ。
きっと気付けば視界の中に名前を探しちまうのは、利き手が逆、だけじゃなく俺とは真逆のモノを持ってるからかもしれない。
品のある所作だったり、人当たりが良かったり、老若男女に好かれたり。
実体のないつっかえを飲み込むために、置かれたグラスへ左手を伸ばした。
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