第一歩
名前設定
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その日、友達に誘われて初めての合コンに参加することになった名前はだいぶ緊張していた。
典型的な人見知りで初対面の人と話すのが得意ではない。
心の中で何度も大丈夫、大丈夫、と自分を励ましながら会場に足を踏み入れた。
あまり早く着いてしまって知らない人達と気まずい時間を過ごしたくない、と思った名前。
指定された時間よりも五分程早く着くように家を出たが、さらに数分早めに着いてしまった。
しかし会場に到着すると名前以外の全員が集まっており、すでに幾つかのグループができていて笑い声や話し声が飛び交っていた。
「やっちゃった⋯⋯」
ギリギリに着こうと思ったのが裏目に出てしまったのだ。
気付かれないように帰ろうとさえ思い始めていた名前だったが、そんな名前に気付いた友人が「こっち!」と名前に手を振っていて逃げるという選択肢は早々に無くなってしまう。
友人に呼ばれるままテーブルへ向かい一番端の席に着いたが、やはり出来上がっている空気感の中で周りの話にうまく入れない。
そうした中で名前は自然と空いた皿やグラスをテーブルの横に片付けたりと、周囲の雑務をこなすことでその場に溶け込もうとした。
彼女の動きは静かで控えめで、その一つ一つの動作には彼女なりの思いやりや気遣い、人の好さが現れている。
「ねね、この前一緒にみた映画ってなんだっけ?」
「えっと確か⋯」
男と女が同じ人数同士でテーブルを囲む中、名前は聞かれた言葉にだけ返答をしたり、耳に入るような会話には相槌をしたりと当たり障りのない行動で目立つことなく最低限その場に溶け込もうとしていた。
映画の話だったり、仕事の話だったり。
楽しそうに会話を楽しむ友人達と、同じように会話を楽しんでいる男性陣。
耳に入る話や振られる会話へは参加するものの、積極的に自分からなにかを言う事はせず控えめに時間を過ごしていた名前。
そんな名前の様子を静かに見つめている男が一人いた。
「それ寄こしてくれ」
その男、土方は名前に声をかけると手を差し出し皿を求めた。
「あっ、はい、ありがとうございます⋯!」
名前は知らない相手から突然声を掛けられ、緊張からか少し声を張り上げるとまとめていた小皿を両手で持ち土方へ渡した。
土方は最初から、自然と名前が気になっていた。
ここにいる活発な女性達とは違い、時間に遅れているわけでもないのに最後に来たからと申し訳なさそうに席へついた低姿勢さ。
けして会話の中心になることはなく静かに食器類を脇に寄せたり、テーブルに届いた大皿の料理を小分けにしていたり。
「普段もこういう集まりに参加してんのか?」
「い、いえ!私は全然⋯こういう場は苦手で⋯」
「俺もあんま⋯⋯悪ぃ、こういう話はあれか」
「そんな、気にしないでください」
お互い僅かにぎこちない会話から始まったものの、気付くと名前を伝え合い会話も弾むように。
仕事や趣味、最近の出来事、他愛のない会話をする二人は自然と警戒心が解け、いつしか二人にとって周りの喧騒は背景音となり、表情も豊かになっていった。
けして不快にならない距離感を保ちつつ会話を続けてくれ、一つ会話をすると一つ質問を投げかけ話し手と聞き手がお互いに入れ替わるようにと細かな気遣いをしてくれる。
土方から感じる穏やかで親切な話し方に少しずつ心を開き始めた名前。
「実はこういうの初めてで⋯土方さんがいなかったら今頃どうしてたか⋯」
「正直俺も流されて来ちまったが後悔してたとこだ、⋯あんたがいて助かった」
名前は最初合コンと聞いた時はどうしようかと思っていたが、その緊張や不安が嘘のように無くなり心は軽くなっていた。
集いが終わり解散する頃には、互いに連絡先を交換するほど距離を縮めていた二人。
名前にとって、初対面の相手と連絡先を交換したのは勿論ここまで会話が弾むのも初めての経験だった。
内心これが新しい友人作りのきっかけになるかもしれないと、彼女の中で期待が膨らんでいた。
一方土方はというと、名前の印象がどんどん良いものへと上書きされつつあった。
仕事の話をした際には土方が触れる以上の事について踏み込んでくることはけしてなく、さらりと話した細かな言葉でさえしっかりと拾い上げ言葉を返してくる様子、どんな会話に対しても表情豊かに反応してくれる素直で純粋な雰囲気。
どれも土方の心をふわりと掠めていくような好印象ばかり、連絡先を交換したのも土方からすれば僅かな期待を込めてのものだった。
そんな二人が次に会う約束を交わした日はすぐに訪れた。
名前の中で次第に土方への想いが別のものに変わっていると気付くのは、きっとそう遠くない。
25.5.
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