取説、一つ
名前設定
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好きな女の子はゲーム好き
肩に手の甲を当て指の先から背中へ向け大きな袋をぶら下げながら万事屋へ向かっていた銀時は、渋い顔をしていた。
今日の依頼はおばあさんからのもので屋根裏に住み着いたネズミの駆除だった。
報酬はうんと弾むから頼むよ銀さん、という言葉に二つ返事で了承した銀時は報酬目当てにネズミ駆除へ向かい、早々に無事仕事を終えることができた。
が、おばあさんから報酬として貰ったのはお金でも高価な物でもなく、立派な大根だった。
しかも七本ほど入っている大きな袋を渡され、またお願いするわね、だなんて言葉も添えられた銀時の口角は歪に震えていた。
そうして今、その立派な大根七本が入った袋を持ちながら万事屋の玄関を跨いで靴を脱いだ銀時。
土汚れの酷い袋を玄関に置くと凝りの酷い肩をぐりぐり回しながら廊下を進んでいた銀時は、自身の耳に届いた声でその歩みを止めた。
「新八くん、ちょっ、それだめ⋯」
「まだまだですよ、名前さんの弱いとこ僕もっと知ってますから」
まるで石像にでもなったかのように動きをとめた銀時は、今しがた聞こえてきた声を処理するため全神経を使い頭をフル回転させた。
声の主はわかる、新八と名前。新八と、彼女。
確かに今日名前が来ると聞いていた銀時だったが、明らかに様子がおかしい。
まるで、まるで、考えたくもない光景が居間へ続く扉の向こうで繰り広げられているような。
この間も聞こえてくる二人の声。
時折短く声を漏らしてはくぐもった声をあげている名前と、その反応を楽しむように言葉で追いうちをかける新八の声。
「お前ら何してんだぁあああああ!!!!!」
本日何度目かの口角を歪ませながら次第に青ざめていく銀時は想像しうる最悪な現状を考え、気付くと勢いよく音を立て扉を開けていた。
「銀さんかえりなさ⋯どうしたんですか?」
「銀時おかえ⋯⋯え?」
肩で息をしながら普段あまり見ることのない形相で扉を開けた銀時だったが、そこに広がる光景は、銀時が想像していたどの結果とも違っていた。
⋮
「わたしが新八くんと浮気なんてあるわけな⋯⋯ぷっ⋯ごめんごめん⋯ふふっ⋯⋯」
銀時のあまりの慌てぶりに事情を聴いた二人。
まさかすぎる内容に腹部に腕を回し目尻に涙を浮かべながら笑い続けている名前。
新八は自分たちが繰り広げていた会話を思い返し、聞き方によってはそう聞こえなくもないという事に気付くなり顔を逸らし初心な反応をしていた。
「しかも銀時のあの顔⋯まじで⋯っぷ」
「⋯っせーよ!!!お前ら紛らわしい事してんじゃねえよ!!!」
「勝手に変なコト想像したのそっちだし」
は~笑った笑った、と涙を指でふきながら片目を閉じる名前は笑いをこらえようと必死だったが、唇がふるふると震えており、それが逆に面白くなりまた笑い出してしまうという悪循環に陥っていた。
銀時が扉を開けるとそこでは二人仲良く並びながらテレビゲームをやっていたのだ。
多数のキャラクターの中から一体を選択し、一定のラウンド先取で勝敗が決まる一対一の対戦ゲーム。
名前はそういう、所謂男くさいゲームが大好きだった。
今日も銀時とゲームをしようと万事屋を訪れたが生憎当人は不在、そのゲームの経験者でもある新八が留守番をしていたため銀時が帰ってくるまでやろうという名前の誘いで白熱した試合を繰り返していた。
その時帰ってきた銀時が耳にしたのが、ゲームをしている二人の会話だったのだ。
「仕方ないじゃん、新八くんの使ってるキャラわたしのと相性最悪なんだもん」
「⋯そ、そりゃあこの手のゲームは相手の弱いとこ突いてこそですから⋯⋯」
二人に言わせればただゲームをしていただけ、それを銀時があらぬ方向で想像してしまったために招いた事故のようなもの。
「あーあー俺が悪かったよ、んなもんずっとやってりゃいーだろ」
どかっと音を鳴らしながらソファーに腰かけた銀時は無造作に置かれたジャンプを手に取ると適当なページを開き、顔を覆うようにして載せ後頭部に腕を置きながら不貞腐れてしまった。
ねえ銀時、と名前が呼びかけてもぴくりともしない銀時。
そんな二人を眺めて気まずくなってしまった新八は、夕飯の買い物行ってきますね、と名前や銀時の返事を待たずそそくさと万事屋から去ってしまった。
ゲームの軽快なロビー音だけが聞こえる部屋。
「ねえ銀時、機嫌直してよ」
名前が銀時の腕をつついても一向に動くことのない銀時、さすがに笑いすぎたかなと反省しつつ逆の立場なら自分だって十二分に焦るだろうと思った名前は再び銀時の腕をつついた。
「わたし銀時が一番なんだからさ、浮気なんてしないって」
「銀時とゲームがあれば⋯⋯いやっあと焼き鳥もかな、その三つがあればいいもん」
「そもそも新八くんタイプじゃないし」
わたしのタイプなんて一番わかってんじゃん、そう言いながらつんつんと腕をつつき続ける名前はぴくりと腕が動いたのを見逃さなかった。
名前はそっとジャンプに手を伸ばし、ゆっくり持ち上げると案の定機嫌の悪そうな顔がジャンプの下から現れる。
「ね~、機嫌直してって」
ぶにっと銀時の両頬をつまんだ名前は痛くない程度に左右に引っ張った。
つられて名前の方へ顔を向けた銀時は未だに不服そうな表情をしている。
「そんな顔っ、してるとっ、多少のイケメンもっ、台無しだぞっ」
「⋯ったく、なにが多少のイケメンだよ」
銀時の頬でぶにっぶにっと規則正しく引いては戻してを繰り返す名前に観念したのか、そんな言葉と共に身体を起こした銀時は手を軽く握ると名前の眉間を目掛けてその拳を軽く突き出し、こつん、と小突いた。
「いでっ」
多少の憎らしさが籠っていたのか強めに小突かれた名前は予想外の衝撃に少し驚きつつも、銀時が「ん」という声と共に差し伸べてきた手を見つめると、嬉しそうにゲームのコントローラーを手渡していた。
実は名前と付き合いだしてからこっそりとゲームをプレイし続けていた銀時。
けして勝敗に執着しているようなプライドの高さからなどではなく、ただ単純に、自分の好きな相手が好きだというものを少しでも一緒に楽しめたらという、銀時なりの気持ちからだった。
彼女の好きなゲームをして、負けた方が焼き鳥を奢る、そんな決まりがいつしか二人の間には出来ていた。
「へっ、銀時の癖なんてわかってるんだから」
何百と見せられた名前の技を軽々と避けては会心の一撃を食らわす銀時と、焼き鳥のかかった勝負を是が非でも勝ちたい名前。
「っああ!それだめ!なし!今のだめ!」
「いーや大アリだわ、ハイ俺の勝ちィ~~」
彼女の取説でもあれば攻略なんて簡単だろうに、と幾度か考えたこともある銀時だが、その日その日で変わった表情を見せる彼女を眺めては少しずつ攻略していく楽しさを日々感じてた。
2024.10.7
肩に手の甲を当て指の先から背中へ向け大きな袋をぶら下げながら万事屋へ向かっていた銀時は、渋い顔をしていた。
今日の依頼はおばあさんからのもので屋根裏に住み着いたネズミの駆除だった。
報酬はうんと弾むから頼むよ銀さん、という言葉に二つ返事で了承した銀時は報酬目当てにネズミ駆除へ向かい、早々に無事仕事を終えることができた。
が、おばあさんから報酬として貰ったのはお金でも高価な物でもなく、立派な大根だった。
しかも七本ほど入っている大きな袋を渡され、またお願いするわね、だなんて言葉も添えられた銀時の口角は歪に震えていた。
そうして今、その立派な大根七本が入った袋を持ちながら万事屋の玄関を跨いで靴を脱いだ銀時。
土汚れの酷い袋を玄関に置くと凝りの酷い肩をぐりぐり回しながら廊下を進んでいた銀時は、自身の耳に届いた声でその歩みを止めた。
「新八くん、ちょっ、それだめ⋯」
「まだまだですよ、名前さんの弱いとこ僕もっと知ってますから」
まるで石像にでもなったかのように動きをとめた銀時は、今しがた聞こえてきた声を処理するため全神経を使い頭をフル回転させた。
声の主はわかる、新八と名前。新八と、彼女。
確かに今日名前が来ると聞いていた銀時だったが、明らかに様子がおかしい。
まるで、まるで、考えたくもない光景が居間へ続く扉の向こうで繰り広げられているような。
この間も聞こえてくる二人の声。
時折短く声を漏らしてはくぐもった声をあげている名前と、その反応を楽しむように言葉で追いうちをかける新八の声。
「お前ら何してんだぁあああああ!!!!!」
本日何度目かの口角を歪ませながら次第に青ざめていく銀時は想像しうる最悪な現状を考え、気付くと勢いよく音を立て扉を開けていた。
「銀さんかえりなさ⋯どうしたんですか?」
「銀時おかえ⋯⋯え?」
肩で息をしながら普段あまり見ることのない形相で扉を開けた銀時だったが、そこに広がる光景は、銀時が想像していたどの結果とも違っていた。
⋮
「わたしが新八くんと浮気なんてあるわけな⋯⋯ぷっ⋯ごめんごめん⋯ふふっ⋯⋯」
銀時のあまりの慌てぶりに事情を聴いた二人。
まさかすぎる内容に腹部に腕を回し目尻に涙を浮かべながら笑い続けている名前。
新八は自分たちが繰り広げていた会話を思い返し、聞き方によってはそう聞こえなくもないという事に気付くなり顔を逸らし初心な反応をしていた。
「しかも銀時のあの顔⋯まじで⋯っぷ」
「⋯っせーよ!!!お前ら紛らわしい事してんじゃねえよ!!!」
「勝手に変なコト想像したのそっちだし」
は~笑った笑った、と涙を指でふきながら片目を閉じる名前は笑いをこらえようと必死だったが、唇がふるふると震えており、それが逆に面白くなりまた笑い出してしまうという悪循環に陥っていた。
銀時が扉を開けるとそこでは二人仲良く並びながらテレビゲームをやっていたのだ。
多数のキャラクターの中から一体を選択し、一定のラウンド先取で勝敗が決まる一対一の対戦ゲーム。
名前はそういう、所謂男くさいゲームが大好きだった。
今日も銀時とゲームをしようと万事屋を訪れたが生憎当人は不在、そのゲームの経験者でもある新八が留守番をしていたため銀時が帰ってくるまでやろうという名前の誘いで白熱した試合を繰り返していた。
その時帰ってきた銀時が耳にしたのが、ゲームをしている二人の会話だったのだ。
「仕方ないじゃん、新八くんの使ってるキャラわたしのと相性最悪なんだもん」
「⋯そ、そりゃあこの手のゲームは相手の弱いとこ突いてこそですから⋯⋯」
二人に言わせればただゲームをしていただけ、それを銀時があらぬ方向で想像してしまったために招いた事故のようなもの。
「あーあー俺が悪かったよ、んなもんずっとやってりゃいーだろ」
どかっと音を鳴らしながらソファーに腰かけた銀時は無造作に置かれたジャンプを手に取ると適当なページを開き、顔を覆うようにして載せ後頭部に腕を置きながら不貞腐れてしまった。
ねえ銀時、と名前が呼びかけてもぴくりともしない銀時。
そんな二人を眺めて気まずくなってしまった新八は、夕飯の買い物行ってきますね、と名前や銀時の返事を待たずそそくさと万事屋から去ってしまった。
ゲームの軽快なロビー音だけが聞こえる部屋。
「ねえ銀時、機嫌直してよ」
名前が銀時の腕をつついても一向に動くことのない銀時、さすがに笑いすぎたかなと反省しつつ逆の立場なら自分だって十二分に焦るだろうと思った名前は再び銀時の腕をつついた。
「わたし銀時が一番なんだからさ、浮気なんてしないって」
「銀時とゲームがあれば⋯⋯いやっあと焼き鳥もかな、その三つがあればいいもん」
「そもそも新八くんタイプじゃないし」
わたしのタイプなんて一番わかってんじゃん、そう言いながらつんつんと腕をつつき続ける名前はぴくりと腕が動いたのを見逃さなかった。
名前はそっとジャンプに手を伸ばし、ゆっくり持ち上げると案の定機嫌の悪そうな顔がジャンプの下から現れる。
「ね~、機嫌直してって」
ぶにっと銀時の両頬をつまんだ名前は痛くない程度に左右に引っ張った。
つられて名前の方へ顔を向けた銀時は未だに不服そうな表情をしている。
「そんな顔っ、してるとっ、多少のイケメンもっ、台無しだぞっ」
「⋯ったく、なにが多少のイケメンだよ」
銀時の頬でぶにっぶにっと規則正しく引いては戻してを繰り返す名前に観念したのか、そんな言葉と共に身体を起こした銀時は手を軽く握ると名前の眉間を目掛けてその拳を軽く突き出し、こつん、と小突いた。
「いでっ」
多少の憎らしさが籠っていたのか強めに小突かれた名前は予想外の衝撃に少し驚きつつも、銀時が「ん」という声と共に差し伸べてきた手を見つめると、嬉しそうにゲームのコントローラーを手渡していた。
実は名前と付き合いだしてからこっそりとゲームをプレイし続けていた銀時。
けして勝敗に執着しているようなプライドの高さからなどではなく、ただ単純に、自分の好きな相手が好きだというものを少しでも一緒に楽しめたらという、銀時なりの気持ちからだった。
彼女の好きなゲームをして、負けた方が焼き鳥を奢る、そんな決まりがいつしか二人の間には出来ていた。
「へっ、銀時の癖なんてわかってるんだから」
何百と見せられた名前の技を軽々と避けては会心の一撃を食らわす銀時と、焼き鳥のかかった勝負を是が非でも勝ちたい名前。
「っああ!それだめ!なし!今のだめ!」
「いーや大アリだわ、ハイ俺の勝ちィ~~」
彼女の取説でもあれば攻略なんて簡単だろうに、と幾度か考えたこともある銀時だが、その日その日で変わった表情を見せる彼女を眺めては少しずつ攻略していく楽しさを日々感じてた。
2024.10.7
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