悩みの種はそのままで
名前設定
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ほのぼの
「ねえ見て小太郎」
「なんだ?」
珍しく桂たちが拠点として構えている場へ足を運んだ名前は、その腕に抱えた小さな膨らみを桂へ見せた。
「どう?可愛いよね」
桂が名前の腕へ目を向けると、そこにはまだふかふかと柔らかな毛並みで覆われている小さな子犬がいた。
「お隣さんが旅行でいないからって預かったの」
腕に抱えた小さく黒い子犬の顔をうりうりと撫でた名前に答えるよう、クンと小さく鳴きながら目を伏せた子犬。
居心地がいいのか体を丸め暴れることなくすっぽりと名前の腕に抱えられながら、時折名前が鼻筋を触るとぷるぷると顔全体を震わせていた。
「預かったという事は数日世話をするのか?」
「そうなんだけど、でもうち動物ダメだから、その間ここに居てもいい?一週間くらいなんだけど」
「なに、一週間と言わ」
「ありがとう小太郎、お世話になるね」
桂の言葉を遮り満面の笑みで感謝を述べた名前を見て、言おうとしていた言葉を飲み込みながら桂もまた眉尻を僅かに下げゆるりと微笑んだ。
短い期間ではあるが名前が近くに居てくれるという事実が、桂の心を明るくさせた。
が、実際は桂が思い描いていたような甘い日々が訪れることはなかった。
例えば、ご飯時はあたたかな食事を一緒に食べれるのでは、と期待していた桂。
だが実際は
「先に食べてて、わたしこの子にごはんあげないと」
と言い、あたたかな食事ではなく乳白色のミルクが入った容器を片手に持ちながら腕に抱えた子犬を連れ桂から距離をとった名前。
そのまま部屋の隅にある椅子へ向かって距離がどんどん離れてしまったり。
例えば、たまには同じ布団で体を近づけながら夜を共にできるのでは、と思っていた桂。
だが実際は
「この子寝たらお風呂借りるね、だから先に寝てて」
小さな子犬用のベッドで丸くなる子犬の背を撫でながら桂を見ることなく淡々とそう告げた名前は、子犬が寝たのを確認すると着替えを持ち桂を特段気にすることもなくお風呂場へと向かっていった。
先に寝てて、と言われて先に寝る男がいるだろうか。
いや、ここは言われた通り寝た方がいいのかもしれないが、仮に寝れないとしても形だけは布団に入り寝た感じをそれとなく繕うことも必要なのではないか。
「う~~~~~~ん」
布団の上で胡坐をかき目を伏せながら考えを巡らせては頭を振り、これといった得策を見つけられずにいた桂。
「⋯小太郎?」
そうこうして部屋へやってきた名前は小さな声を上げながら俯いている桂を見つけ、その不思議な光景を心配に思い声をかけた。
「あぁ、すまない、考え事をしていてな」
「どんな事?」
「先に寝てろと言われたが潔く寝るべきなのか、それともやはり男としてここは名前の帰りを待⋯⋯って名前ではないか!!!」
「えぇ今!?っていうかわたし以外誰がここに来るの!?普段誰と寝てるの!?」
名前だと気付くなり口を大きく開け驚きながら声を上げた桂と、まさかの言葉に驚きを隠せずにいた名前の声が部屋に響いた。
隣同士に敷かれたもう一組の布団の上に座りながら、乾き切っていない毛先へタオルを当て水気を取っている名前。
その隣では今もぶつぶつと何やら一人で考え込んでいる桂。
もう既に遅い時間。
二組の布団の頭上側、丁度間にあたる場所へ置かれた小さな灯りだけが互いの顔をほんのりと暖かな光で照らしていた。
「小太郎」
ある程度水気を取り手に持っていたタオルを綺麗にたたんで枕元へ置いた名前は桂に声をかけた。
「どうした?」
「ありがとね、一週間くらいだけどここにいるの許してくれて」
「あぁその事か。なに、大した事じゃない。
それに今更何を言っている、名前であればいつでも構わぬぞ」
「そういうとこ優しいよね」
そんな会話をしながら気付けば互いに布団の中に入っていた二人。
「おやすみ」
名前はそう言うと枕元にある灯りを消した。
「あぁ」
桂も短く返事をすると自然と瞼を閉じ、やはり理想と現実は違うものだなと少し寂しく感じていた。
けれど、名前のおやすみという言葉からそう時間も経っていない頃。
桂の耳に届いたのはガサガサと布団が擦れる音、と一緒に布団から伝わるモゾモゾとした動きが腕にも届いた。
「もう寝た?」
耳を凝らさなければ桂に届かないほど小さな声を出した名前は自分の布団で横になっていたものの、ガサガサとモゾモゾと身体を動かし徐々に桂との距離を縮め、最終的には桂の腕にピッタリくっつくとその細く見えて実は筋肉質な桂の腕に自身の腕を絡めていた。
「あぁ」
寝た人が返事などするはずがない。
だが肯定的な返事を返した桂へ小さく笑みをこぼした名前、再度「おやすみ」と独り言のように呟くと次第に規則的な呼吸を繰り返すようになっていた。
腕に感じる温もりや規則的な息遣いを感じながら、この数日間自分なりに抱いていた悩みは結局のところ大した事ではないと再確認した桂。
「こたろ⋯」
どんな夢を見ているのか、小さく溢した自分の名前に幸福感を感じながら名前にかかる布団をかけ直した桂は、今度こそ瞼を閉じた。
2024.9.3
「ねえ見て小太郎」
「なんだ?」
珍しく桂たちが拠点として構えている場へ足を運んだ名前は、その腕に抱えた小さな膨らみを桂へ見せた。
「どう?可愛いよね」
桂が名前の腕へ目を向けると、そこにはまだふかふかと柔らかな毛並みで覆われている小さな子犬がいた。
「お隣さんが旅行でいないからって預かったの」
腕に抱えた小さく黒い子犬の顔をうりうりと撫でた名前に答えるよう、クンと小さく鳴きながら目を伏せた子犬。
居心地がいいのか体を丸め暴れることなくすっぽりと名前の腕に抱えられながら、時折名前が鼻筋を触るとぷるぷると顔全体を震わせていた。
「預かったという事は数日世話をするのか?」
「そうなんだけど、でもうち動物ダメだから、その間ここに居てもいい?一週間くらいなんだけど」
「なに、一週間と言わ」
「ありがとう小太郎、お世話になるね」
桂の言葉を遮り満面の笑みで感謝を述べた名前を見て、言おうとしていた言葉を飲み込みながら桂もまた眉尻を僅かに下げゆるりと微笑んだ。
短い期間ではあるが名前が近くに居てくれるという事実が、桂の心を明るくさせた。
が、実際は桂が思い描いていたような甘い日々が訪れることはなかった。
例えば、ご飯時はあたたかな食事を一緒に食べれるのでは、と期待していた桂。
だが実際は
「先に食べてて、わたしこの子にごはんあげないと」
と言い、あたたかな食事ではなく乳白色のミルクが入った容器を片手に持ちながら腕に抱えた子犬を連れ桂から距離をとった名前。
そのまま部屋の隅にある椅子へ向かって距離がどんどん離れてしまったり。
例えば、たまには同じ布団で体を近づけながら夜を共にできるのでは、と思っていた桂。
だが実際は
「この子寝たらお風呂借りるね、だから先に寝てて」
小さな子犬用のベッドで丸くなる子犬の背を撫でながら桂を見ることなく淡々とそう告げた名前は、子犬が寝たのを確認すると着替えを持ち桂を特段気にすることもなくお風呂場へと向かっていった。
先に寝てて、と言われて先に寝る男がいるだろうか。
いや、ここは言われた通り寝た方がいいのかもしれないが、仮に寝れないとしても形だけは布団に入り寝た感じをそれとなく繕うことも必要なのではないか。
「う~~~~~~ん」
布団の上で胡坐をかき目を伏せながら考えを巡らせては頭を振り、これといった得策を見つけられずにいた桂。
「⋯小太郎?」
そうこうして部屋へやってきた名前は小さな声を上げながら俯いている桂を見つけ、その不思議な光景を心配に思い声をかけた。
「あぁ、すまない、考え事をしていてな」
「どんな事?」
「先に寝てろと言われたが潔く寝るべきなのか、それともやはり男としてここは名前の帰りを待⋯⋯って名前ではないか!!!」
「えぇ今!?っていうかわたし以外誰がここに来るの!?普段誰と寝てるの!?」
名前だと気付くなり口を大きく開け驚きながら声を上げた桂と、まさかの言葉に驚きを隠せずにいた名前の声が部屋に響いた。
隣同士に敷かれたもう一組の布団の上に座りながら、乾き切っていない毛先へタオルを当て水気を取っている名前。
その隣では今もぶつぶつと何やら一人で考え込んでいる桂。
もう既に遅い時間。
二組の布団の頭上側、丁度間にあたる場所へ置かれた小さな灯りだけが互いの顔をほんのりと暖かな光で照らしていた。
「小太郎」
ある程度水気を取り手に持っていたタオルを綺麗にたたんで枕元へ置いた名前は桂に声をかけた。
「どうした?」
「ありがとね、一週間くらいだけどここにいるの許してくれて」
「あぁその事か。なに、大した事じゃない。
それに今更何を言っている、名前であればいつでも構わぬぞ」
「そういうとこ優しいよね」
そんな会話をしながら気付けば互いに布団の中に入っていた二人。
「おやすみ」
名前はそう言うと枕元にある灯りを消した。
「あぁ」
桂も短く返事をすると自然と瞼を閉じ、やはり理想と現実は違うものだなと少し寂しく感じていた。
けれど、名前のおやすみという言葉からそう時間も経っていない頃。
桂の耳に届いたのはガサガサと布団が擦れる音、と一緒に布団から伝わるモゾモゾとした動きが腕にも届いた。
「もう寝た?」
耳を凝らさなければ桂に届かないほど小さな声を出した名前は自分の布団で横になっていたものの、ガサガサとモゾモゾと身体を動かし徐々に桂との距離を縮め、最終的には桂の腕にピッタリくっつくとその細く見えて実は筋肉質な桂の腕に自身の腕を絡めていた。
「あぁ」
寝た人が返事などするはずがない。
だが肯定的な返事を返した桂へ小さく笑みをこぼした名前、再度「おやすみ」と独り言のように呟くと次第に規則的な呼吸を繰り返すようになっていた。
腕に感じる温もりや規則的な息遣いを感じながら、この数日間自分なりに抱いていた悩みは結局のところ大した事ではないと再確認した桂。
「こたろ⋯」
どんな夢を見ているのか、小さく溢した自分の名前に幸福感を感じながら名前にかかる布団をかけ直した桂は、今度こそ瞼を閉じた。
2024.9.3
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