気になるあの子
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似た者同士
適当にそれらしい理由をつけ事務業務から逃げ出してきた沖田は、丁度昼時ということもあり普段より僅かに賑わいのある街中を歩いていた。
机に積まれた書類全てに目を通さなければ、と認識しながらも仕事が溜まる頃には部下へと押し付けて早々に姿を消す沖田。
そんな彼を注意する者など、最早、副長である土方十四郎くらいだった。
けれど、いざどれだけキツく言ったところで当人に聞く耳は備わっていないため、意味を成すことは勿論なく、沖田はサボりの常習犯として堂々と街中を歩み進めていた。
目的もなく、という訳ではなく屯所をでた時点で既に目的地を決めていた沖田は目的の場所につくと暖簾をくぐり店の扉を開けた。
「いらっしゃい!」
カウンター越しに声をかけてきた店主へ軽く頭をさげ、いつも決まって腰を下ろす席へと目線を向けた沖田だったが、その席には既に別の客が座っていた。
ボサボサと無造作にあちらこちらへ毛先を向けている派手な後頭部。
その見覚えのありまくる後姿に確信を得た沖田はそのまま席へむかうと隣の空いた椅子へ腰を下ろした。
「こんな真昼間から酒ですかい?」
「あ?オメ―こそ何してんの」
「昼飯でさぁ」
自分の特等席へ座り既にほんのりと酔い始めていた先客、坂田銀時へ声をかけた沖田。
「こんなのんきに昼飯たァいいご身分ですねぇ~」
「俺らが立ち寄るだけでも犯罪が未然に防げるってもんでさぁ。
旦那こそいつも通り随分暇そうなこって」
「余計なお世話だっつーの」
銀時の手元にある数本の焼き鳥と裸になった数本の串が並ぶ皿、透き通ったお酒。
まだ真昼間だというのに酒をのんでる銀時の姿から、競馬かパチンコか、少なくともどちらかでプラスになったんだろう、と容易に想像した沖田。
そんな沖田が銀時から目線を外したタイミングで「ご注文はお決まりですか?」という声が聞こえ、その綺麗な声と共に視界の端からあたたかなお茶の入る湯呑みが沖田の目の前へ置かれていた。
「いつもの」
店員の顔をちらりと確認し、相手が予想通りの人物だとわかるとメニューも見ずに淡々と短くそう答えた沖田。
「いつもの、ですね」
その綺麗な声の店員は、常連のみが口にすることを許されているであろう言葉を聞くと足早にその場から離れていった。
「あの子カワイーよな」
一連の流れをじっと見ていた銀時は、酒が入っている事もあり、酒の場では当たり前に見かけるような絡み方で沖田へ問いかけた。
「名前ちゃんだっけ?なんつーの、ああいうちょっと大人しそうな子ほど男にはデレデレってタイプだろ」
「何の話ですかい」
「今の子だよ、おめーに茶ァ持ってきた」
つん、と指先を向ける銀時の視線の先には確かに先程、沖田へ注文を聞きに来た店員の姿があった。
昼夜問わずお酒を提供している定食屋。
沖田が初めて名前を見かけたのは真選組で新年会か忘年会か、そういう飲みの場としてこの店を訪れた時だった。
けして少なくないグラスを涼しい顔して運んでは空になったグラスを持っていき、食欲のそそる沢山の料理を運んでは空になった皿を重ねると戻っていく。
その度に酒を飲んでいる隊員から可愛いや綺麗といった言葉と共に多少の絡みを向けられ、場慣れしているのかその絡みに笑顔で応えると頃合いをみてその場を去っていく。
その笑みを見て表情が緩む隊員とは違い、沖田はその瞬間から彼女へのイメージが少し変わっていた。
ただの定食屋の女、そう思っていた沖田だったがその瞬間から、愛想笑いの上手い女、になっていた。
普段から自他ともに生粋のサディストと言われていた沖田だからこそ気付いただろう表情の僅かな違和感。
あんなに楽しくなさそうに笑う女も、そんな女の笑み一つでデレデレと調子付く隊員も、沖田からすれば随分と滑稽に見えていた。
「旦那はああいうのが好みなんですかい」
だからこそ沖田は、綺麗な顔つきで物静か、いつこの店を尋ねても涼しげな表情で客と厨房とを行き来する彼女、名前をちらりと目で追いながら言葉を返した。
「俺ぁもうちょいデカ⋯⋯って何言わせてんだよ」
「勝手に言ってるのはそっちですぜ」
とんだ言いがかりを投げられながらも沖田は銀時の言う名前を眺めながら銀時の言葉に耳を傾けていた。
「お待たせしました」
それから暫くすれば〝いつもの〟と伝えていた定食を沖田の目の前へ運んできた名前。
〝いつもの〟と頼めるほど通っている沖田の前へ定食を置くと、隣にいる銀時へ「程々にですよ」と笑みを浮かべた名前は一緒に持ってきていた氷と水の入ったグラスを銀時の前へ差し出した。
こういう気の利いた行動も、沖田からすれば興味の対象でしかなかった。
愛想笑いの上手いやつが気の利いた行動を善意でするはずがない、自分の中でほぼ確信に近い答えを導き出しながら炊き立てのご飯を口に運んだ沖田。
⋮
隣でくつろいでいる知り合いはそのままで、食べ終わるとすぐに席を立った沖田はレジへ向かった。
「また来てくださいね」
そう言いながらお釣りを手に沖田へ渡そうとしている名前。
「ホントのところ、どう思ってんですかい」
それを受け取りながら、いつもは言わずにいた言葉をぶつけてみた沖田。
名前は最初、言葉の意味が理解できないといった表情で沖田を見つめていたものの、沖田から続けて発せられた「毎日作り笑いしてんのも疲れるってもんですぜ」という言葉にぴくりと指先を震わせた。
「作り笑いだなんて」
にこり。
お得意の微笑みを向ける名前に対し、こちらも同じく表面上のみの笑顔を浮かべた沖田はそのまま振り返ると店を出ようとした。
「ありがとうございました」
背中へ届いた言葉に隠された本意を考え自然と口元を緩ませた沖田。
いつかその完璧な笑みに隠れている綻びを見つけてやる、そう思いながら今日もまた仕事をサボる沖田の携帯には幾つもの不在着信が届き続けていた。
2024.9.3
適当にそれらしい理由をつけ事務業務から逃げ出してきた沖田は、丁度昼時ということもあり普段より僅かに賑わいのある街中を歩いていた。
机に積まれた書類全てに目を通さなければ、と認識しながらも仕事が溜まる頃には部下へと押し付けて早々に姿を消す沖田。
そんな彼を注意する者など、最早、副長である土方十四郎くらいだった。
けれど、いざどれだけキツく言ったところで当人に聞く耳は備わっていないため、意味を成すことは勿論なく、沖田はサボりの常習犯として堂々と街中を歩み進めていた。
目的もなく、という訳ではなく屯所をでた時点で既に目的地を決めていた沖田は目的の場所につくと暖簾をくぐり店の扉を開けた。
「いらっしゃい!」
カウンター越しに声をかけてきた店主へ軽く頭をさげ、いつも決まって腰を下ろす席へと目線を向けた沖田だったが、その席には既に別の客が座っていた。
ボサボサと無造作にあちらこちらへ毛先を向けている派手な後頭部。
その見覚えのありまくる後姿に確信を得た沖田はそのまま席へむかうと隣の空いた椅子へ腰を下ろした。
「こんな真昼間から酒ですかい?」
「あ?オメ―こそ何してんの」
「昼飯でさぁ」
自分の特等席へ座り既にほんのりと酔い始めていた先客、坂田銀時へ声をかけた沖田。
「こんなのんきに昼飯たァいいご身分ですねぇ~」
「俺らが立ち寄るだけでも犯罪が未然に防げるってもんでさぁ。
旦那こそいつも通り随分暇そうなこって」
「余計なお世話だっつーの」
銀時の手元にある数本の焼き鳥と裸になった数本の串が並ぶ皿、透き通ったお酒。
まだ真昼間だというのに酒をのんでる銀時の姿から、競馬かパチンコか、少なくともどちらかでプラスになったんだろう、と容易に想像した沖田。
そんな沖田が銀時から目線を外したタイミングで「ご注文はお決まりですか?」という声が聞こえ、その綺麗な声と共に視界の端からあたたかなお茶の入る湯呑みが沖田の目の前へ置かれていた。
「いつもの」
店員の顔をちらりと確認し、相手が予想通りの人物だとわかるとメニューも見ずに淡々と短くそう答えた沖田。
「いつもの、ですね」
その綺麗な声の店員は、常連のみが口にすることを許されているであろう言葉を聞くと足早にその場から離れていった。
「あの子カワイーよな」
一連の流れをじっと見ていた銀時は、酒が入っている事もあり、酒の場では当たり前に見かけるような絡み方で沖田へ問いかけた。
「名前ちゃんだっけ?なんつーの、ああいうちょっと大人しそうな子ほど男にはデレデレってタイプだろ」
「何の話ですかい」
「今の子だよ、おめーに茶ァ持ってきた」
つん、と指先を向ける銀時の視線の先には確かに先程、沖田へ注文を聞きに来た店員の姿があった。
昼夜問わずお酒を提供している定食屋。
沖田が初めて名前を見かけたのは真選組で新年会か忘年会か、そういう飲みの場としてこの店を訪れた時だった。
けして少なくないグラスを涼しい顔して運んでは空になったグラスを持っていき、食欲のそそる沢山の料理を運んでは空になった皿を重ねると戻っていく。
その度に酒を飲んでいる隊員から可愛いや綺麗といった言葉と共に多少の絡みを向けられ、場慣れしているのかその絡みに笑顔で応えると頃合いをみてその場を去っていく。
その笑みを見て表情が緩む隊員とは違い、沖田はその瞬間から彼女へのイメージが少し変わっていた。
ただの定食屋の女、そう思っていた沖田だったがその瞬間から、愛想笑いの上手い女、になっていた。
普段から自他ともに生粋のサディストと言われていた沖田だからこそ気付いただろう表情の僅かな違和感。
あんなに楽しくなさそうに笑う女も、そんな女の笑み一つでデレデレと調子付く隊員も、沖田からすれば随分と滑稽に見えていた。
「旦那はああいうのが好みなんですかい」
だからこそ沖田は、綺麗な顔つきで物静か、いつこの店を尋ねても涼しげな表情で客と厨房とを行き来する彼女、名前をちらりと目で追いながら言葉を返した。
「俺ぁもうちょいデカ⋯⋯って何言わせてんだよ」
「勝手に言ってるのはそっちですぜ」
とんだ言いがかりを投げられながらも沖田は銀時の言う名前を眺めながら銀時の言葉に耳を傾けていた。
「お待たせしました」
それから暫くすれば〝いつもの〟と伝えていた定食を沖田の目の前へ運んできた名前。
〝いつもの〟と頼めるほど通っている沖田の前へ定食を置くと、隣にいる銀時へ「程々にですよ」と笑みを浮かべた名前は一緒に持ってきていた氷と水の入ったグラスを銀時の前へ差し出した。
こういう気の利いた行動も、沖田からすれば興味の対象でしかなかった。
愛想笑いの上手いやつが気の利いた行動を善意でするはずがない、自分の中でほぼ確信に近い答えを導き出しながら炊き立てのご飯を口に運んだ沖田。
⋮
隣でくつろいでいる知り合いはそのままで、食べ終わるとすぐに席を立った沖田はレジへ向かった。
「また来てくださいね」
そう言いながらお釣りを手に沖田へ渡そうとしている名前。
「ホントのところ、どう思ってんですかい」
それを受け取りながら、いつもは言わずにいた言葉をぶつけてみた沖田。
名前は最初、言葉の意味が理解できないといった表情で沖田を見つめていたものの、沖田から続けて発せられた「毎日作り笑いしてんのも疲れるってもんですぜ」という言葉にぴくりと指先を震わせた。
「作り笑いだなんて」
にこり。
お得意の微笑みを向ける名前に対し、こちらも同じく表面上のみの笑顔を浮かべた沖田はそのまま振り返ると店を出ようとした。
「ありがとうございました」
背中へ届いた言葉に隠された本意を考え自然と口元を緩ませた沖田。
いつかその完璧な笑みに隠れている綻びを見つけてやる、そう思いながら今日もまた仕事をサボる沖田の携帯には幾つもの不在着信が届き続けていた。
2024.9.3
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