彼は誰時の菫空②
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「⋯すみません、あの聞きたいことって」
土方さんを連れ少し銀時と距離を置き改めて尋ねてみると、土方さんは一瞬銀時の方へ視線を向けつつもすぐに私を見て「あぁ」と短く口を開いた。
「あんまり人が通ってる感じはしねえが」
「そうですね⋯配達の皆さんがよく車を停めるのに使ってるくらいです。
表の道の方が広いですから」
裏口の扉を軽く開けながら外を眺めている土方さん。
ほぼ毎日届く配達や郵便、宅配をしてくれる方達が殆どで、雪の積もる季節だと歩くにも不便なこの裏路地を通る人はゼロに等しい。
「見た感じ防犯カメラも無さそうだな」
「そうですね、多分無いと思います」
「あの写真意外で他に気になる事はねえか、どんなことでも構わねえが」
変な奴を見かけたとか、変な電話がかかってくるだとか。
そう言いながら扉を締め鍵をかけた土方さんへ、これといって今は何も、と伝えると「そうか」とだけ言い、数秒何も言わず私を見つめたかと思うと今度は目を伏せガツガツと頭を搔いた。
「お前、万事屋と何かあったのか」
ゆっくりと動いた口元は一番触れられたくなかった質問を発し、私の顔は少しづつ熱を集め始めた。
別に隠し通したい訳じゃない。
いくらか前、新八くんに見られてしまった事もあって周りに知られる恥ずかしさというのが年甲斐もなく私の中で大半を占めていた。
さっき銀時が腕を回してきた段階で言ってしまえば、いっそ楽だったのかもしれない。
現に今、静かに私を見つめている土方さんは私からの答えを待っている。
「⋯⋯その⋯いろいろ⋯」
恥ずかしさから声が小さくなり、土方さんへ顔を向けることが出来ず足元へ目線を落とした。
すると土方さんは小さく息を吐くと「どうせこのこと万事屋には言ってねえんだろ」と。
「こんだけ気持ち悪ぃ写真何枚も溜め込むやつが言うわけねえしな」
「そ、そんなに言わなくても!」
「俺達はこういうのが仕事だが、あいつも万事屋だろ」
そこで言葉を終えた土方さんは手を上げると一瞬動きを止め、その手をすぐに下ろし、銀時⋯というより総悟くんのところへ向かい歩いていった。
その後「また来る」と扉から出ていった土方さん達を見送り、気付けばいつもの席へ座っていた銀時の隣へ腰を下ろした。
「⋯あ、あのね銀時」
今日あったこと、今までも度々あったこと、そしてずっと言わずにいたことを全て話し「ごめんね」という言葉で話を一度区切ると、長い溜息を吐いた銀時。
「お前まじで馬鹿なの?え?それともアレ?そういうのに興奮しちゃうアレなの?それなら俺ァ何も言わねえけど」
「違っそんなわけないじゃん!」
「んじゃもっと早く俺に言うべきじゃねぇ?少なくともアイツらより先によ〜」
「そう⋯そうだよね、ごめんね?迷惑かなって」
本当に銀時の言う通りだった。
どこかで一度、いや最初に写真が届いた時点で言うべきだった。
再び「ごめんね」と声をかけると、今度は短く溜息を吐いた銀時は片手で私の顔を挟み両頬をむにっと潰すよう親指と人差し指に力を入れた。
「こちとら生きてるか死んでるかもわからねー状態で何年も心配かけられて迷惑してたんだよ。
今更迷惑の一つや二つなんとも思わねーから気にすんな」
わかったか?とさらに力を加えた銀時のせいでうまく返事が出来ないけれど、うんうんと首を縦に振ると「よし」と言い手を離してくれた。
「にしてもお前よくそんだけされといて平然とここにいれるよな」
一旦話も終わり、持ってきた暖かいお茶をズズズと飲みながら呆れからか目を細め私を見つめる銀時。
最初はそれこそ飽きて辞めてくれるだろうと確かに思っていたが、実際はもっと芯に思っていたことがあった。
「大切なお店だから」
私のためにと残してくれたお店。
ほぼ毎日、毎週と通ってくれる常連さんも出来た。
何よりきっと見守ってくれてる、だから少し無理をしてでも、そう思っていた。
頬に触れる髪の束を耳にかけ直しながら思いを伝えると、ふっと柔らかく口元を緩めた銀時はわしゃわしゃと私の頭を撫でた。
髪の毛崩れちゃうじゃん、と言いながらも心地のいいそれに目を閉じると「んなもん直せ」と銀時はそのまま手を頬に滑らせ、今度は挟むことなく親指で頬の上を優しく撫でた。
心地良さから閉じていた目蓋をゆっくりと開け、見上げた銀時の顔はすごく優しくて暖かい顔をしていた。
触れられている指先へ必然と意識が向き、みるみると熱が上がっていく頬。
恥ずかしくなって顔を逸らそうにも、もう片方の手が伸びてきて反対の頬へ触れると優しく包むように挟まれた頬は益々熱を帯びていく。
「飴みてぇだな」
そういうと私を見つめる目線を僅かに下ろし前屈みに近付いてくる銀時。
ひんやりと逞しい腕へ手を添えながらきゅっと目を閉じると、待つことなく唇へ触れる柔らかな感触。
ちゅっちゅっと啄むように何度か触れた唇が離れる頃には、私はいつかの飴どころかきっと茹でたタコのように赤くなっていた。