失敗は成功のもと
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甘過ぎて辛いの続き。
休日のお昼過ぎ。
午前中は適度に寝坊してのんびり過ごして、そろそろ行かないと⋯と重い腰を上げて近くのスーパーに来た。
きっと売れ残りだろう落花生や鬼のお面が割引価格で陳列されてるのを見ながら、私はバスケットの中に数枚の板チョコやホットケーキミックスに卵、可愛いデザインのカップを次々と入れていった。
バレンタイン、手作りのお菓子。
去年も一昨年も、店売りのちょっとお洒落な個包装のチョコをみんなの分買って好きなのを選んでもらって渡しただけ。
本当は去年も作ろうとした⋯というか作ったけど、見た目も味も上手くいかなくて数日かけてちびちび消費していったのを覚えてる。
でも今年こそはどうしてもリベンジしたかった。
だから、作るのが下手な私でも混ぜるだけで簡単に美味しく作れるようなレシピを探して、少し早いうちに一度作ってみようと思って材料を買いに来ていた。
もし本当に美味しく出来たら⋯とお菓子を上げたい人を想像してほんの少し胸が大きく揺れた。
甘いものが大好きな先生だから受け取ってもらえるかなとか、仮に受け取ってもらえなかったとしても自分で食べればいいし、それにあと数週間もすれば卒業だし、なんて軽く考えてた。
だから
「名前じゃん」
と今まさに頭に思い浮かべてた先生とバッタリ会うなんて考えてすらいなかった。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯え無視?いや目合ってね?」
反射的に名前を呼ばれた方に顔を向けたら、そこにはやっぱり先生がいた。
普段学校で見慣れてる格好とは違い大人っぽくて落ち着いたお洒落な私服。
すごくシンプルなのによく似合っていて、かっこいい。
「⋯⋯な、何してるんですかこんなところで」
もっとちゃんとした格好で来ればよかったとか余計なことばかり考えながら、変に間を空けてしまったと思って咄嗟に出た言葉。
確かにそれもそうだった。
私が今いるところはグミや飴、チョコやスナック菓子、そういうのが陳列されてる所謂お菓子コーナー。
試しに作ろうと思ってたレシピに必要な材料はもう揃えてあって、あとは部屋でつまめるようなお菓子でも買おうと眺めてたところで。
だから、まさかの先生と会うだなんて、本当に、一ミリも予想してなかった。
「何って、俺だって買い物ぐらいするわ」
先生は当たり前だと言うように目の前に並んである飴を特に迷いもせず選ぶと手に持つカゴへ入れていた。
その飴を目で追うように見てしまって、ちらりと見えたカゴの中には数本のお酒やおつまみ、六個入りの卵パックとかが入っているのが見えた。
でも、野菜とかお肉とか魚とか、そういう栄養素というかメインのおかずになりそうなものが一つも入ってないように見えて、ちょっと心配になった。
「⋯先生ってご飯ちゃんと食べてる?」
「あ?あーまあ適当に」
「それじゃ本当にお腹出ちゃうよ」
「おいやめろよ前言われてから地味に気になってんだよ」
じゃあもっと栄養のあるご飯食べたらいいのにって思うけど、私達みたいにお母さんがご飯を作ってくれるのとは違う。
きっと全部自分でやらなきゃいけない一人暮らしだと、仕事して帰ってあれやこれや身の回りの事をしたりしてると面倒になるのかな、とも思った。
実はチョコの中でもどれが一番美味しいとか、飴だとどのメーカーのが量的にお得だとか、そういうのを話してくれた先生につられて話に出たチョコと飴をカゴに入れた。
でも次第に、当たり前だけど自然と会話が薄まっていく。
「私まだ買い物あるから」
適当な理由をつけてこの場から離れようとした。
「それ何作んの?」
また学校で、と続けようとした私の言葉を当たり前のように遮った先生は、私が持つカゴをつんつんと指さしながらそんな言葉を口にした。
明らかにチョコの何かを作ろうとしているのが見え見えな中身。
「⋯」
咄嗟に後ろへ隠すよう腕を引いたけど勿論手遅れなわけで、先生は「手作りとか熱々だねぇ」とか、普段よりちょっと楽しそうな顔で私を見ていた。
失敗しないように今から練習で作りますなんて恥ずかしくて言えないし、なにより一番失敗したくない要因な人物が目の前にいるのもよくない。
「⋯⋯別に、なんでもないですよ」
ただでさえあまり見ることができなかった先生の顔から目線を逸らし小さく言葉を吐いた私に向かって、ふーん、と楽しそうな顔をしていた割には思ってたほど先生がこの話を掘り下げる事はなかった。
だから私も、今度こそ「また学校で」と小さく伝えてからそそくさとその場を離れた。
「俺の分も頼むわ」
一歩か二歩踏み出した時に後ろから聞こえたいつも通りの先生の声。
帰り気ぃつけろよと続けられた声も聞こえないふりをして早足で離れたけど、本当は煩過ぎる胸の音を聞きながら必死に足を動かしてただけだった。
受け取ってもらえるかな、なんて心配してた少し前の私の不安はこれで一切なくなった。
確かにそう、なくなりはしたけど、逆に受け取ってもらえるのが確定してしまうとそれはそれで他の不安で押しつぶされそうになった。
思ってるよりもっともっと美味しいものを作らなきゃとか、そもそも練習で作ろうとしてたのにどうしようとか。
そういうことを考えながら、さっき可愛いカップを見ていた棚の前まで来た私は少し大人めな色のカップを追加で一つバスケットの中に入れた。
23.2.7
リクエスト〝銀八先生と生徒ちゃんの続き〟
実はこの二人が結構気に入っています。冬休み明けの話だとバレンタインかな?と書いていたものがあって、リクエストも頂いていたので今回はそちらに手を加えたものになります。
リクエストありがとうございました!
休日のお昼過ぎ。
午前中は適度に寝坊してのんびり過ごして、そろそろ行かないと⋯と重い腰を上げて近くのスーパーに来た。
きっと売れ残りだろう落花生や鬼のお面が割引価格で陳列されてるのを見ながら、私はバスケットの中に数枚の板チョコやホットケーキミックスに卵、可愛いデザインのカップを次々と入れていった。
バレンタイン、手作りのお菓子。
去年も一昨年も、店売りのちょっとお洒落な個包装のチョコをみんなの分買って好きなのを選んでもらって渡しただけ。
本当は去年も作ろうとした⋯というか作ったけど、見た目も味も上手くいかなくて数日かけてちびちび消費していったのを覚えてる。
でも今年こそはどうしてもリベンジしたかった。
だから、作るのが下手な私でも混ぜるだけで簡単に美味しく作れるようなレシピを探して、少し早いうちに一度作ってみようと思って材料を買いに来ていた。
もし本当に美味しく出来たら⋯とお菓子を上げたい人を想像してほんの少し胸が大きく揺れた。
甘いものが大好きな先生だから受け取ってもらえるかなとか、仮に受け取ってもらえなかったとしても自分で食べればいいし、それにあと数週間もすれば卒業だし、なんて軽く考えてた。
だから
「名前じゃん」
と今まさに頭に思い浮かべてた先生とバッタリ会うなんて考えてすらいなかった。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯え無視?いや目合ってね?」
反射的に名前を呼ばれた方に顔を向けたら、そこにはやっぱり先生がいた。
普段学校で見慣れてる格好とは違い大人っぽくて落ち着いたお洒落な私服。
すごくシンプルなのによく似合っていて、かっこいい。
「⋯⋯な、何してるんですかこんなところで」
もっとちゃんとした格好で来ればよかったとか余計なことばかり考えながら、変に間を空けてしまったと思って咄嗟に出た言葉。
確かにそれもそうだった。
私が今いるところはグミや飴、チョコやスナック菓子、そういうのが陳列されてる所謂お菓子コーナー。
試しに作ろうと思ってたレシピに必要な材料はもう揃えてあって、あとは部屋でつまめるようなお菓子でも買おうと眺めてたところで。
だから、まさかの先生と会うだなんて、本当に、一ミリも予想してなかった。
「何って、俺だって買い物ぐらいするわ」
先生は当たり前だと言うように目の前に並んである飴を特に迷いもせず選ぶと手に持つカゴへ入れていた。
その飴を目で追うように見てしまって、ちらりと見えたカゴの中には数本のお酒やおつまみ、六個入りの卵パックとかが入っているのが見えた。
でも、野菜とかお肉とか魚とか、そういう栄養素というかメインのおかずになりそうなものが一つも入ってないように見えて、ちょっと心配になった。
「⋯先生ってご飯ちゃんと食べてる?」
「あ?あーまあ適当に」
「それじゃ本当にお腹出ちゃうよ」
「おいやめろよ前言われてから地味に気になってんだよ」
じゃあもっと栄養のあるご飯食べたらいいのにって思うけど、私達みたいにお母さんがご飯を作ってくれるのとは違う。
きっと全部自分でやらなきゃいけない一人暮らしだと、仕事して帰ってあれやこれや身の回りの事をしたりしてると面倒になるのかな、とも思った。
実はチョコの中でもどれが一番美味しいとか、飴だとどのメーカーのが量的にお得だとか、そういうのを話してくれた先生につられて話に出たチョコと飴をカゴに入れた。
でも次第に、当たり前だけど自然と会話が薄まっていく。
「私まだ買い物あるから」
適当な理由をつけてこの場から離れようとした。
「それ何作んの?」
また学校で、と続けようとした私の言葉を当たり前のように遮った先生は、私が持つカゴをつんつんと指さしながらそんな言葉を口にした。
明らかにチョコの何かを作ろうとしているのが見え見えな中身。
「⋯」
咄嗟に後ろへ隠すよう腕を引いたけど勿論手遅れなわけで、先生は「手作りとか熱々だねぇ」とか、普段よりちょっと楽しそうな顔で私を見ていた。
失敗しないように今から練習で作りますなんて恥ずかしくて言えないし、なにより一番失敗したくない要因な人物が目の前にいるのもよくない。
「⋯⋯別に、なんでもないですよ」
ただでさえあまり見ることができなかった先生の顔から目線を逸らし小さく言葉を吐いた私に向かって、ふーん、と楽しそうな顔をしていた割には思ってたほど先生がこの話を掘り下げる事はなかった。
だから私も、今度こそ「また学校で」と小さく伝えてからそそくさとその場を離れた。
「俺の分も頼むわ」
一歩か二歩踏み出した時に後ろから聞こえたいつも通りの先生の声。
帰り気ぃつけろよと続けられた声も聞こえないふりをして早足で離れたけど、本当は煩過ぎる胸の音を聞きながら必死に足を動かしてただけだった。
受け取ってもらえるかな、なんて心配してた少し前の私の不安はこれで一切なくなった。
確かにそう、なくなりはしたけど、逆に受け取ってもらえるのが確定してしまうとそれはそれで他の不安で押しつぶされそうになった。
思ってるよりもっともっと美味しいものを作らなきゃとか、そもそも練習で作ろうとしてたのにどうしようとか。
そういうことを考えながら、さっき可愛いカップを見ていた棚の前まで来た私は少し大人めな色のカップを追加で一つバスケットの中に入れた。
23.2.7
リクエスト〝銀八先生と生徒ちゃんの続き〟
実はこの二人が結構気に入っています。冬休み明けの話だとバレンタインかな?と書いていたものがあって、リクエストも頂いていたので今回はそちらに手を加えたものになります。
リクエストありがとうございました!
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