不幸中の幸い
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
outと同一主人公
部屋の電話が最後に鳴ったのは随分と前。
今じゃ閑古鳥が鳴くほど静かな毎日が続いている万事屋で、銀時は机に足を乗せながら毎週頭に発売されるジャンプを眺めていた。
こういうやけに静かな時に限って新八や神楽といった面々も留守にしていて、台所にいる名前の手元からカチャカチャと鳴る食器の重なるような音や流れる水の音だけが微かに銀時のいる部屋へ届いているだけだった。
よく指名を貰う客の厚意で展示品の食器類を個人的に譲ってもらえると話していた名前は、いっそ万事屋にある食器を一度全部出して断捨離します!と朝から意気込んでいた。
親無し家無し金無しで初めて万事屋に来た時は、一泊だけ、という約束で一晩面倒を見た銀時だったがいつの間にか万事屋に住み着いた名前。
気付けば名前は妙の勧めですまいるで働くようになり、銀時は重的なまでに名前に好意を抱くようになっていた。
ジャンプも残り数作品まで読み進めた頃、台所から一際大きな音⋯食器が割れるような音や何か重いものがぶつかる音、それと名前の小さな悲鳴が響いてきた。
「⋯名前?」
ジャンプを机に置いて部屋の扉を見つめた銀時。
勿論返事が返ってくることは無いが代わりに先程よりもうんと大きな二つ目の悲鳴が銀時の耳に届き、明らかに何かが起きたと気付いた銀時は慌てて台所へ向かった。
銀時が事務所の扉を開けてすぐそこにある台所と廊下とを隔てる暖簾に手を伸ばそうとした時、すごい勢いで中から出てきた名前が思いきり銀時へぶつかった。
「うおっ、お前何し」
「無理無理無理無理!!!」
何にぶつかったかさえわかってなかった名前は目の前にいるのが銀時だと気付くなり「え銀さん?!銀さん!!助けて!!」と随分落ち着きのない声を上げながらぎゅうぎゅうと銀時に抱きついた。
急に抱きつかれ微かに泣いているような声をあげている名前を受け止めながら現状が全く理解出来ていない銀時は優しく名前の肩に触れた。
「ちょ落ち着けって、何したんだよ」
銀時へ抱きつく名前は、虫がッ、と顔を伏せたまま台所の方を指差した。
「無理ッ⋯あああ、あのサイズは無理⋯」
「わーったから一旦落ち着けって」
肩に触れていた手で未だに抱きつく名前を優しく剥がした銀時は、部屋に戻ってろと名前に伝えるとそのまま台所の暖簾をくぐり中に入った。
開かれた棚と床に転がるダンボール。
無理に手を伸ばして落としてしまったのか、側面を床につけ転がるダンボールの中にはいくつかの食器とそこから零れるように割れた破片がいくつも散らばっていた。
その更に奥、台所の角にあたる床には銀時からでもわかるほどの大きさで、異様に黒く、明らかにゴミではないものが落ちている。
暫くして、部屋へ戻っていた名前の耳には何かを叩きつけるような乾いた音が一つ届いた。
とりあえず割れた食器類はそのままに部屋へ戻ってきた銀時。
ソファの上で膝を抱えながら顔を伏せて小さくなっていた名前に「もういねーぞ」と声をかけた銀時は、名前の足先にある空いた場所へ腰を下ろした。
「⋯ほ、本当⋯?」
「んなしょーもねえ嘘つくわけねーだろ」
いつも元気で明るく、たまにほわほわと酔っている名前とはまた違い随分と慌てて弱々しく抱きついてきた名前を思い返し、まだ抱きつかれた感覚がじんわりと残る中で意外な一面を見たような気がしてほんのり嬉しさのようなものを感じた銀時。
「銀さんがいてよかった⋯」
いくらか普段通りの声音に戻った名前は「ありがとうございます」と言い顔を上げた。
「⋯また何かあったら言⋯⋯」
好きな子に頼られるのは誰だって嬉しいもので、顔には出さないもののいくらか嬉しそうに表情を柔らかくした銀時は名前へ言葉をかけながら顔を見つめた。
が、言葉を途切らせた銀時は開けたままの口を閉じることなく目を見開いた。
名前はそんな銀時を不思議に思い、銀さん?と目をぱちぱちとさせながら声をかけるも反応がない銀時の姿をますます不思議に見つめていると、銀時は名前の目⋯よりも僅かに上を見つめながら恐る恐る声を発した。
「⋯⋯名前⋯お前それ⋯」
「んえ⋯?」
頭よりは下、つまり額を見つめる銀時が何をさしているのかわからない名前は自分の額なんて見上げることが出来ないのにいくらか頭を反らせ天井を向いた。
だがやはり額そのものは見ることが出来ない。
名前は自分の手で額を触るとぬめりとした生暖かな何かに触れ、自身の手を目の前へかざし指先を見つめた。
その指先は何故か赤く染まっている。
それは紛れもなく名前の額から出ているもの。
その直後、その赤いものが何かを理解した名前からは本日三度目の悲鳴が発せられた。
「痛いっ⋯銀さん痛い⋯っ」
「すぐ終わっから」
額の丁度ど真ん中、前髪の生え際辺りに出来たパックリと割れた数センチの傷。
自分の前髪を持ち上げながら目に薄らと涙をうかべ銀時を見つめる名前と、普通の絆創膏では覆えそうにないその傷を消毒しガーゼをあてテープで固定している銀時。
どうやら銀時が聞いた一回目の小さな名前の悲鳴は、ダンボールを額で受け止めたことによるものだった。
その後虫に驚き急いで台所を出ようとした名前。
銀時には聞こえていなかったが、暖簾から飛び出してくる前に慌てた事で一度入口の縁に同じ箇所をぶつけていた名前の額は二回の衝撃を受け小さく割れ、たらりと血が垂れていた。
自分の血に驚いた名前をとにかく落ち着かせ急いで救急箱を取ってきた銀時は机に座り名前と向き合うと、応急的ではあるが出来る限りで名前の傷の処置をしていた。
「⋯おら、これでいいだろ」
「う⋯⋯ありがとう銀さん⋯」
処置が終わる頃には更に目が潤んでいた名前は前髪を押えていた手を下ろし目元の涙を拭いている。
痛かった⋯と言いながら涙を浮かべる名前を見て、ソワソワと波打つような気持ちを抱き始めた銀時はその湧き出た気持ちを掻き消すように頭を強めにボサボサと搔いた。
その後、邪な考えをこれ以上抱かないよう名前を部屋に残し、間違えて踏んだり直接手で触れ怪我をしないよう割れた食器類だけでもと全て片付けた銀時。
自分の頭より高い位置にあるものを取る時は今後必ず俺を頼るようにと名前へ強く伝え、ジャンプの置いてある自分の席へ戻ろうと名前の後ろを通った銀時だったが、椅子に座る直前後ろから何かが背中にぶつかってきた。
「ありがとう銀さん」
本日何度目かの謝罪を聞きながら背中から伝わってくる名前の熱と腰に回された細い腕に、不覚にもどきりと大袈裟に跳ねる胸。
加えて、顔とも腕とも違う柔らかなものが銀時の背中に触れていた。
久しく触れていないにしろ当然その柔らかさが何かなんてすぐに理解した銀時の体温はみるみるうちに上昇していき、咄嗟に鼻を覆った銀時。
「⋯⋯おおお前まだ洗い物残ってんだろ」
「あっ!終わらせてきます!」
すっと体を離した名前はぱたぱたと台所へ向かっていき、部屋に残された銀時は小さな溜息を吐きながら鼻を覆っていた手を離すと、掌は鼻から流れた赤く不純な気持ちでべっとりと染まっていた。
23.1.21
部屋の電話が最後に鳴ったのは随分と前。
今じゃ閑古鳥が鳴くほど静かな毎日が続いている万事屋で、銀時は机に足を乗せながら毎週頭に発売されるジャンプを眺めていた。
こういうやけに静かな時に限って新八や神楽といった面々も留守にしていて、台所にいる名前の手元からカチャカチャと鳴る食器の重なるような音や流れる水の音だけが微かに銀時のいる部屋へ届いているだけだった。
よく指名を貰う客の厚意で展示品の食器類を個人的に譲ってもらえると話していた名前は、いっそ万事屋にある食器を一度全部出して断捨離します!と朝から意気込んでいた。
親無し家無し金無しで初めて万事屋に来た時は、一泊だけ、という約束で一晩面倒を見た銀時だったがいつの間にか万事屋に住み着いた名前。
気付けば名前は妙の勧めですまいるで働くようになり、銀時は重的なまでに名前に好意を抱くようになっていた。
ジャンプも残り数作品まで読み進めた頃、台所から一際大きな音⋯食器が割れるような音や何か重いものがぶつかる音、それと名前の小さな悲鳴が響いてきた。
「⋯名前?」
ジャンプを机に置いて部屋の扉を見つめた銀時。
勿論返事が返ってくることは無いが代わりに先程よりもうんと大きな二つ目の悲鳴が銀時の耳に届き、明らかに何かが起きたと気付いた銀時は慌てて台所へ向かった。
銀時が事務所の扉を開けてすぐそこにある台所と廊下とを隔てる暖簾に手を伸ばそうとした時、すごい勢いで中から出てきた名前が思いきり銀時へぶつかった。
「うおっ、お前何し」
「無理無理無理無理!!!」
何にぶつかったかさえわかってなかった名前は目の前にいるのが銀時だと気付くなり「え銀さん?!銀さん!!助けて!!」と随分落ち着きのない声を上げながらぎゅうぎゅうと銀時に抱きついた。
急に抱きつかれ微かに泣いているような声をあげている名前を受け止めながら現状が全く理解出来ていない銀時は優しく名前の肩に触れた。
「ちょ落ち着けって、何したんだよ」
銀時へ抱きつく名前は、虫がッ、と顔を伏せたまま台所の方を指差した。
「無理ッ⋯あああ、あのサイズは無理⋯」
「わーったから一旦落ち着けって」
肩に触れていた手で未だに抱きつく名前を優しく剥がした銀時は、部屋に戻ってろと名前に伝えるとそのまま台所の暖簾をくぐり中に入った。
開かれた棚と床に転がるダンボール。
無理に手を伸ばして落としてしまったのか、側面を床につけ転がるダンボールの中にはいくつかの食器とそこから零れるように割れた破片がいくつも散らばっていた。
その更に奥、台所の角にあたる床には銀時からでもわかるほどの大きさで、異様に黒く、明らかにゴミではないものが落ちている。
暫くして、部屋へ戻っていた名前の耳には何かを叩きつけるような乾いた音が一つ届いた。
とりあえず割れた食器類はそのままに部屋へ戻ってきた銀時。
ソファの上で膝を抱えながら顔を伏せて小さくなっていた名前に「もういねーぞ」と声をかけた銀時は、名前の足先にある空いた場所へ腰を下ろした。
「⋯ほ、本当⋯?」
「んなしょーもねえ嘘つくわけねーだろ」
いつも元気で明るく、たまにほわほわと酔っている名前とはまた違い随分と慌てて弱々しく抱きついてきた名前を思い返し、まだ抱きつかれた感覚がじんわりと残る中で意外な一面を見たような気がしてほんのり嬉しさのようなものを感じた銀時。
「銀さんがいてよかった⋯」
いくらか普段通りの声音に戻った名前は「ありがとうございます」と言い顔を上げた。
「⋯また何かあったら言⋯⋯」
好きな子に頼られるのは誰だって嬉しいもので、顔には出さないもののいくらか嬉しそうに表情を柔らかくした銀時は名前へ言葉をかけながら顔を見つめた。
が、言葉を途切らせた銀時は開けたままの口を閉じることなく目を見開いた。
名前はそんな銀時を不思議に思い、銀さん?と目をぱちぱちとさせながら声をかけるも反応がない銀時の姿をますます不思議に見つめていると、銀時は名前の目⋯よりも僅かに上を見つめながら恐る恐る声を発した。
「⋯⋯名前⋯お前それ⋯」
「んえ⋯?」
頭よりは下、つまり額を見つめる銀時が何をさしているのかわからない名前は自分の額なんて見上げることが出来ないのにいくらか頭を反らせ天井を向いた。
だがやはり額そのものは見ることが出来ない。
名前は自分の手で額を触るとぬめりとした生暖かな何かに触れ、自身の手を目の前へかざし指先を見つめた。
その指先は何故か赤く染まっている。
それは紛れもなく名前の額から出ているもの。
その直後、その赤いものが何かを理解した名前からは本日三度目の悲鳴が発せられた。
「痛いっ⋯銀さん痛い⋯っ」
「すぐ終わっから」
額の丁度ど真ん中、前髪の生え際辺りに出来たパックリと割れた数センチの傷。
自分の前髪を持ち上げながら目に薄らと涙をうかべ銀時を見つめる名前と、普通の絆創膏では覆えそうにないその傷を消毒しガーゼをあてテープで固定している銀時。
どうやら銀時が聞いた一回目の小さな名前の悲鳴は、ダンボールを額で受け止めたことによるものだった。
その後虫に驚き急いで台所を出ようとした名前。
銀時には聞こえていなかったが、暖簾から飛び出してくる前に慌てた事で一度入口の縁に同じ箇所をぶつけていた名前の額は二回の衝撃を受け小さく割れ、たらりと血が垂れていた。
自分の血に驚いた名前をとにかく落ち着かせ急いで救急箱を取ってきた銀時は机に座り名前と向き合うと、応急的ではあるが出来る限りで名前の傷の処置をしていた。
「⋯おら、これでいいだろ」
「う⋯⋯ありがとう銀さん⋯」
処置が終わる頃には更に目が潤んでいた名前は前髪を押えていた手を下ろし目元の涙を拭いている。
痛かった⋯と言いながら涙を浮かべる名前を見て、ソワソワと波打つような気持ちを抱き始めた銀時はその湧き出た気持ちを掻き消すように頭を強めにボサボサと搔いた。
その後、邪な考えをこれ以上抱かないよう名前を部屋に残し、間違えて踏んだり直接手で触れ怪我をしないよう割れた食器類だけでもと全て片付けた銀時。
自分の頭より高い位置にあるものを取る時は今後必ず俺を頼るようにと名前へ強く伝え、ジャンプの置いてある自分の席へ戻ろうと名前の後ろを通った銀時だったが、椅子に座る直前後ろから何かが背中にぶつかってきた。
「ありがとう銀さん」
本日何度目かの謝罪を聞きながら背中から伝わってくる名前の熱と腰に回された細い腕に、不覚にもどきりと大袈裟に跳ねる胸。
加えて、顔とも腕とも違う柔らかなものが銀時の背中に触れていた。
久しく触れていないにしろ当然その柔らかさが何かなんてすぐに理解した銀時の体温はみるみるうちに上昇していき、咄嗟に鼻を覆った銀時。
「⋯⋯おおお前まだ洗い物残ってんだろ」
「あっ!終わらせてきます!」
すっと体を離した名前はぱたぱたと台所へ向かっていき、部屋に残された銀時は小さな溜息を吐きながら鼻を覆っていた手を離すと、掌は鼻から流れた赤く不純な気持ちでべっとりと染まっていた。
23.1.21
1/1ページ