鬼兵隊
名前設定
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「武市さんってサンタコス似合いそうですよね、いかにもって感じがして」
「その仕事は名前さんにして頂きたいですねぇ⋯そうそう出来ればこれくらいの丈で」
「⋯⋯ちょっ何見てんスか武市先輩!名前先輩も何笑ってんスか!」
「いやいや⋯ごめ⋯⋯ははっ」
珍しく落ち着いた静かな夜、また子ちゃんと武市さんとで今年のクリスマスはどうするか案を考えていた。
そんな時たまたま雑誌の見開きにドドンと特集されていたのがサンタのコスプレ衣装。
おもちゃ売り場でよく見る付け髭のサンタや、お父さん達が喜びそうな衣装、もっと際どいものだって載っているそのページを武市さんと眺めてた私は、武市さんが指さす衣装を見てつい笑ってしまった。
サンタのコスプレをして欲しいと言ってる割に、武市さんの指の先には下半身だけがミニスカートという奇抜なトナカイの着ぐるみ。
そのアンバランスさが面白くてついつい笑ってしまった私に気付いたまた子ちゃんは、確実にこの中で誰よりも真剣に案を考えてくれていた。
普段あまり落ち着いて集まることの無い私達は、クリスマスやお花見といった季節の節々にやってくる賑やかなことだけは、可能な限りの隊員が集まり楽しむのが恒例になっていた。
今年は万斉さんも晋助さんもあまり忙しくなさそうにしていて、また子ちゃんは張り切っている。その姿にはいつ見ても可愛らしいものがある。
「また子ちゃんこれ着てみない?」
「⋯⋯はああ!?名前先輩何言ってんスか!?これ一番アレなやつっスよね!?なんで私なんスか!?そもそもなんでこれ着る前提なんスか!?」
「武市さんが喜びそうだなって」
「名前先輩?あの、そこ気ィ使わなくてもいいんスよ??」
「そうですよ名前さん、私は貴女に着て頂きたいだけで」
「黙ってもらっていいスか変態」
「変態ではな⋯ 」
この調子じゃ今日集まりだしてからまだ全然案は進んでないように思う。誰のせいでもない。きっとそう。
︙
また子ちゃんが沢山頑張ってくれてなんとか間に合った当日。
いろんな料理やいろんなお酒を用意して、いろんなプレゼントも用意して、多くの隊員で賑わう船の中。
結局ギリギリになって武市さんが用意してくれた色々と細すぎるし短すぎるサンタのコスプレは笑顔で断り、また子ちゃんが適当に盛り付けてくれたお皿と美味しそうなお酒を持って皆からは少し離れた窓枠に座り外を眺めていた。
月明かりが海に反射してキラキラと綺麗に輝いてる。
「外にサンタでもいるのか」
声に気付き顔を向けると、窓枠に置いたお皿とお酒を挟み反対側へ座っていた万斉さん。
「まさか、おかえりなさい」
「ああ」
「素敵な上司ならたった今目の前に」
「その口でどれだけの男を手玉に取ってきたでござるか」
「そんな人聞きの悪い」
私が取ろうとしたグラスは私より先に万斉さんに拐われてしまい、色の薄い綺麗な口元へ運ばれてしまった。
「騙される男の気持ちがわからんでもないがな」
「どうです?騙されてみます?」
「気分が乗らぬ」
「残念」
お皿に乗ったポテトを箸でつまむ私と、ポテトを指先でつまみ口へ運ぶ万斉さん。
最近忙しかったのかほとんど顔を見ることのなかった万斉さんだけれど、いつ見てもかっこよさは変わらないなぁと思う。
晋助さんもそう。トップの二人がこうもミステリアスで知的な魅力を漂わせているのはそうありふれたことでは無いはず。多分。
この二人だからこそ着いて行こう頑張ろうと思えてしまうから不思議だ。
一度窓枠を離れまた子ちゃんから新しくお酒の入ったグラスとお皿を受け取って席⋯と呼んでいいのかわからないけれど、さっきまで座っていた場所へと戻った。
すると、三味線を構えていた万斉さんは綺麗に張ってある弦に触れベンッベンッといくつか音を響かせると、その細く長い指先で心地良いメロディを奏で始めた。
サングラス越しに薄らと見える伏せられた目元。
ほんの出来心で、グラスとお皿を起き腰を下ろす前にそのサングラスを優しく外すと、三味線を奏でる手を止め目蓋を持ち上げた万斉さん。
「今日くらいは外したっていいと思いますよ?」
折角かっこいいんですから、と微笑むと少し笑いながら再び目を伏せた万斉さん。
腰を下ろして手にあるサングラスを見つめた。
普段どんな景色を眺めてるのだろう。ふと気になり万斉さんのサングラスをかけてみると、キラキラとしていた部屋の装飾や明かりは全て薄暗く覆われ窓から見える水面すらも夜が深まったように暗く覆われてしまった。
「いつからコスプレするようになった、名前」
返却を求められるわけでもなく、また万斉さんの三味線を聞きながら新鮮な視界を暫く眺めていると唐突に聞こえてきた低い声。
見上げると、いつからそこに居たのか壁に寄りかかりながら笑みを浮かべ私を見下ろしていた晋助さんがいた。
「ついさっきでござる」
ぎこちない言葉を返すと短く息を吐いた晋助さんは「似合わねえな」と笑いながら窓枠へ座り二つ目のグラスを拐った。
「こりゃあ万斉もお手上げだな」
「言うな晋助、言わぬが花というでござろう」
「⋯もう」
揶揄うような言葉を投げられ自然と漏れた言葉。
静かにサングラスを外し万斉さんへお返しすると、どこか晋助さんにも似た笑みを浮かべた万斉さんはまたいつものように目元をサングラスで覆い隠してしまった。
︙
いくら少量だとしても普段から殆ど口にしないお酒を飲んだからか、あの後少し酔いが回り早々に部屋へ戻ってきた。
特に明日何かある訳でもないし、まだケーキも食べてない。
後でまた子ちゃんのところに戻ろうと思いながら少し寝るつもりでソファに座ろうとした時、コンコンと扉が叩かれ来客を知らせた。
扉を開けると目の前には万斉さん。
どうぞ、と体を避けると部屋へ入った万斉さんは慣れた手つきで私を抱き寄せ首元へ顔を寄せてきた。
「気分が乗らないんじゃないんです?」
「さっきはな」
それに、もう随分と前から騙されている。
耳元でそう囁くと耳朶を軽く噛んだ後で顔を離した万斉さんは徐に何かをポケットから取り出すと、それを私の手に握らせた。
厚みのある小さな四角い箱。
開けていいんですか?と聞けば短く返事をくれた万斉さんにお礼を伝えて優しく箱を開けると、細かなデザインが全体に掘られているほんのりと桃色がかった細身の指輪が、その溝一つ一つにキラキラと光を反射させ輝いていた。
「そんなに高価なも」
「ありがとう万斉さん」
万斉さんの言葉を遮り腕を伸ばして抱きついても揺らぐことなくしっかりと私を受け止めてくれた万斉さんは、あぁ、と普段よりいくらか明るい声音で紡がれた短い返事と共に唇を合わせてくれた。
キラキラと光る綺麗な指輪を眺めていると、箱から指輪を取り出した万斉さんは私の右手の薬指へとその指輪を優しくはめてくれた。
大きくも小さくもない、まるで私の指に合わせて作られたようにぴったりとはまる指輪は箱の中にあった数分前よりも一段と綺麗に見える。
指輪を見てつい頬がゆるゆるとにやけてしまう私を見ながら再び背中へ手を回した万斉さんは、服の上からその大きな手で腰を撫でるように動かしている。
「明日は朝から外に行かれると聞きましたよ?」
「ああ、しかも晋助には夜更かしするなと釘を刺された」
「とうとうバレちゃいましたね」
問題ない、と言い不意にサングラスを外すとすぐ横にあるテーブルへ静かに置きながら、啄むように何度も唇へ軽く触れるキスをくれた。
最初はすぐ溶けてしまうのに降り続くことで次第に深くなる雪のように、一度降り出したそれは次第に私を飲み込んでいった。
2022.xmas
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