真選組
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ガヤガヤと賑わう繁華街。
ライトアップされた店先やサンタのコスプレをしたおじさん。雪も降ってるのにお洒落のためにタイツを履いた脚を存分にさらけ出しながら彼氏と手を繋いでる女性や、聖なる夜を楽しみにしているだろうニヤついた顔で彼女に寄り添う男性。
「⋯もうこんなの辞めて帰りません?」
「お前仕事なんだと思ってんの? 」
そんな浮ついた雰囲気の中で堅苦しい隊服を来て、治安が悪くなる前にと見回りを続けていた私と副長。
毎年この時期はクリスマスに大晦日にお正月と町全体が浮つき始める。それはつまり、私達真選組にとっては大忙しの大繁忙期という事。
「だって見てくださいよあれ、どーせバレンタインが終わったら別れる典型的な男女ですよ」
「お前何かあったの?昔の男と何かあったの?」
周りを気にせずいちゃいちゃと触れ合っている男女のカップルを眺めたり。
「副長!あれ!サンタさんに頼まれたのよ、とか言って子供にプレゼント買ってる母親ですよ!」
「⋯⋯⋯」
おもちゃ屋で大きなラジコンカーを買ってあげている母親を眺めたり。
「うわぁ⋯アレって声掛けるべきですか?明らかにパ」
「親子かもしんねーだろ!!!」
ロングコートを着た髪の乏しい男性と、きゃぴきゃぴとしたどこにでもいそうな大学生を怪しんでみたり。
一通り街を見回り、予め定めた場所で定めた時間に沖田隊長達と軽く報告を交わすことになっていたため副長と二人でパトカーを停めていたコンビニへ戻ってきた。
「副長何か飲みます?マヨネーズ以外で」
「おま⋯⋯いや、もうなんでもいいわ、任せる」
外でタバコを咥えはじめた副長から離れ一人店内に入った私は、あたたかいコーナーにあるココアと緑茶、沖田隊長と山崎さんの分の緑茶とおしるこも手に取りレジの人と軽く近況を語り合いながら外に出ると、丁度沖田隊長達がここに着いたあたりだった。
「これどうぞ」
「あぁ、悪ぃな」
タバコの煙なのか単に白い息なのか、口からふーっと吐き出された白いもやもやを見上げて緑茶を差し出すと赤く冷えた指先をした手でそれを受け取った副長。
タバコを咥えたまま両手で小さなペットボトルを掴むほどには手が冷えているみたいだった。
「私みたいに手袋したらどうですか?」
数十分前にそう伝えた私へ、感覚が狂うんだよ、と返した副長はやっぱり副長なんだなと感心したけど、寒いとそれはそれで狂うんじゃ?と思ったりもした。
「こっちは異常なんて何も無かったですぜ」
「いやいやありまく⋯⋯何も異常ありませんでした!」
車から降りてきた沖田隊長と山崎さん。
「これどうぞ」
「おう、たまには気が利くじゃねーか」
「それ程でも」
「いや褒められてなくない!?」
緑茶を受け取った沖田隊長はすかさずキャップを捻ると湯気のたつ飲み口に唇を添えとくとくと小さな喉を揺らしている。
指先や鼻先すらも赤くなっていない沖田隊長、きっとぬくぬくとした車の中が大好きなんだろうな。
「ついでに山崎さんもどうぞ」
「ついで?ついでなの?」
「はい」
「⋯⋯⋯ありがとう名前ちゃん、丁度喉が渇い⋯え?」
見るとくっきりとした口紅の跡が至る所に付けられている山崎さん。
その割に全然嬉しそうじゃない様子から、きっとアゴ美さん達と仲良くしてきたんだろうなとそれとなく感じつつ、手元の缶を見て表情を固くした山崎さんを再び見つめた。
「おしるこですけど何か」
「⋯いや僕言う程そんなにあんこ好きじゃ」
「嬉しそうで私も嬉しいです」
「⋯⋯ああ、うん、ありがとう名前ちゃん」
私を含め隊服を着た四人がここにいるだけで、ここのコンビニはきっと他のどの店より防犯効果が働いてそうだなぁなんてのんびりと考えてココアを一口飲み込むと胃がぽかぽかと温かくなった。
ちらちらと降り続いていた雪も止んで、出歩く人達も段々と帰路へ着き人通りが少なくなってきた。
そろそろどうしますか〜なんて話していた時、前もって休みを取ってた近藤さんについてすまいるから連絡が来たらしく副長は山崎さんを連れパトカーを走らせ行ってしまった。
なんでも山崎さんに用があったらしく、どうせならついでに、ということらしい。やっぱりついでじゃないか。
「私もう帰りたいんですけど」
「わかってんならとっとと車出せよ」
「⋯ええ!?私ですか!?いいんですか私で!?」
「事故ったら殺す」
「やだ隊長、事故ってサヨナラしたら終わりですよ」
「死人が死ねねえなんて誰が決めた」
二度目の死ってやつを教えてやるよ。
なんとも物騒な顔で物騒なことを言いはじめた沖田隊長。
これは何がなんでも安全第一に、慎重に帰らないといけない、そう思った。
「折角のクリスマスなのに仕事だなんて嫌になりますね」
「仕事じゃなくてもオメェは変わらねーだろ」
「いやいやそりゃ満喫しますよ!デートしてケーキ食べて!ほら!」
「男いるのかよ」
「⋯⋯⋯いませんけど」
赤信号で止まった時ちらりと沖田隊長を見ると、それはもう百点満点のにやつきでアオリ気味に顎を持ち上げながら私を見下ろしていた。
「な、なんですか!自分だっていないくせに!」
「必要ねえからな」
「そ⋯そうですかそうですか、そりゃあ?おモテになるでしょうから?探さなくてもホイホイいるでしょうけど?」
顔だけは完璧な沖田隊長。
黙ってさえいればきっと女の子に困ることなんてないだろうからこそ、その一言がすっごい嫌味に聞こえてくる。
実際のところめちゃめちゃモテてるしめちゃめちゃその通りだから何も言えないんだけれど。
ハンドルを握る自分の左手を見ながら、私だってそのうちこの薬指に指輪を、とか思ってたりする。
そりゃ女子だし、まだ女子の域だと思ってるし。
⋯でも仕事柄どうしてもな事が多過ぎて諦めつつもある。
隊舎につき車から降りると、たまたま通りかかったカップルに目がいった。
仲良さそうに手を繋いで歩いてる二人、ほんの数秒見かけただけなのに、すごい悲しく思えてきた。
彼氏なんていないのにデートとか言っちゃったりして、本当はいたとしてもデートしてる時間なんてあるかどうか怪しいのに。
「この仕事やめよっかな」
婚期逃したらやばくない?やばいよね、女としての旬が過ぎる前に何とかしなきゃじゃない?そう思えば思うほど気持ちがどんどん沈んでいく。
折角のクリスマスなのにこれじゃ笑顔で年も越せそうにない。
「どーせオメェに彼氏なんて端から無理な話だろ」
「そんな⋯そんなに私をいじめなくたって⋯」
グサグサと抉るように刺さる沖田隊長の言葉で涙が出そうになる。
「売れ残ったら貰ってやるよ」
涙目になりながら、今とんでもない言葉が聞こえた気がして首を飛ばす勢いで沖田隊長を見つめると、大きな欠伸をしながらすらすらと隊舎の方へ歩いていく沖田隊長。
「た⋯隊長!?沖田隊長!?」
躓きかけながら沖田隊長の元へ走り寄ると、面倒くさそうな顔で「なんだよ」と私を振り返る顔はなんらいつもと変わりない。
「さっきのって」
「年上のウブな部下ァ調教すんのも悪くねえ」
そう言うとまた顔を前に向け歩き続ける沖田隊長、と、その前を向く一瞬垣間見えた悪魔のようなニヤつきに足を止めた私。
⋯⋯アレ?これって真面目に婚期逃したらやばくない?
言葉だけを聞き一瞬でもときめいてしまった私の初心な心を返して欲しい。切実に。
2022.xmas
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