万事屋
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前〜このケーキ食べたいアル」
「美味しそうだね、みんなの分もあるし買って帰ろっか」
クリスマスイブ、神楽ちゃんと買い物から帰る途中立ち寄ったケーキ屋さんは沢山の人で賑わいながらも、品を切らさないようにと普段より数の多いケーキがずらりと並んでいた。
きっと私と新八くんはそこまで食べない、というかほとんど食べない。
神楽ちゃんや銀さんがいればホールで買ってもなんら問題なさそうに思えたけど、さすがにホールだと予約が必要らしく、神楽ちゃんが食べたそうに見つめていたショートケーキをみんなの分買うことにした。
「サンタさんって本当にいるアルか?」
「良い子にしてたら来てくれるんじゃないかな?」
いい匂いのするフライドチキンや出来たてのピザ、買ったばかりのケーキを二人で抱えながら万事屋へ帰る道を歩いていれば、ふわふわと雪が降り始め、ライトアップされている町中の明かりを受けながらキラキラと輝く白い雪は見てて心地のいいものだった。
︙
「新八くんは何か欲しいものないの?」
二人で台所に立ち食器類を洗いながらクリスマスといえばな話題について話をしていた。
「僕ですか?特に⋯⋯いや、お通ちゃんのCDとかですかね」
「新しいの出るんだっけ?」
「そうなんですよ!しかもジャケットが一段と可愛くて!」
ニコニコと笑顔を浮かべ話し始めた新八くんの話を聞きながら、あれだけ用意していた料理が食べ残しの一つもなく綺麗に食べ尽くされている事に驚きながらも、もう随分と慣れてしまったなあと少し笑みがこぼれた。
万事屋に来た当初は神楽ちゃんの食べっぷりや銀さんの甘味好きや新八くんのオタクな部分、他にも沢山ある様々な面に対して驚いてばかりだったけど、慣れてしまえばそれが当たり前であることに幸せすら感じてしまう。
洗い終えた食器の水気を拭きながら「名前さんは何かないんですか?」と今度は私へ話を切り返してくる新八くん。
「うーん⋯⋯掃除機?」
「すごい実用的なあれですね」
「あとお金?」
「それはまぁ、僕もですけど」
「彼氏?」
「⋯すみませんなんか、僕が浅はかでした」
︙
神楽ちゃんはパジャマを持ち出しどこかへ行っちゃうし、新八くんも帰ってしまって、銀さんも気持ちよさそうに寝ていた。
さっき神楽ちゃんが「プレゼントが来たら銀ちゃんに取られないよう確保して欲しいネ!」と言い押し入れで寝ることを許可⋯強制してくれたし、帰る手間が省けて少し嬉しかった。
玄関を出て直ぐにある手すりに寄りかかりながら缶ビールを飲んで、別に何かを見つめる訳でもなくさらさらと降り続く雪や街の灯りなんかをぼんやりと眺めていた。
余ってたお酒を勝手に持ち出し外に出たものの、そこまで寒いわけでもなくむしろアルコールで火照った体にはひんやりとした冷たい風は心地よいものだった。
「おー、そこで待ったってサンタは来ねぇぞ」
しばらくするとガラガラと後ろにある扉が開き、ぬっと隣に銀さんが同じお酒を持ちながらやってきた。
「家の中なら来る?」
「いや無理だろ、あーいうのは気付いた時点で終わりだ終わり」
「まーそうだよね」
「少なくともこんなとこで酒持ってる奴んとこには来ねーだろ」
「言えてる」
つーか寒くねえの?と白い息を吐きながら聞いてくる割にはしっかりとお酒を喉に流し込んでいる銀さん。
気持ちよくない?と返しながらまた一口お酒を飲むと、前屈みに寄りかかっていた銀さんは体を反転させて肘を折り背中から手すりへ寄りかかると星一つ見えない空をぼんやりと眺めた。
「掃除機は年明けにでも買いに行くか」
空を見たままぽつりと呟かれた言葉。
私と新八くんの話をしれっと聞いていたらしい銀さんは「初売りなら安いんじゃね」と曖昧な言葉を続けていた。
「お金は?」
「まあなんとかなんだろ」
「無計画にも程があるでしょ」
小さく笑いながら、体を反らせてるせいか普段より低い位置にある銀さんの顔を見上げると、寒いからか酔ってるからかふわふわと赤らめた目元で気怠げに空を見上げている。
気付けば口へ流していたお酒も底を尽き、傾けてもぽつぽつと小さな雫しか出てこなくなった缶。
爪の先でかつかつと音を鳴らしながら二本目を持ってくるかどうかを考えていると、そういや、と話し始めた銀さんをまたゆっくりと見上げた。
「やっぱあれなの?男は顔なの?」
「彼氏にするならってこと?」
「ダチを顔で選びはじめたら終わりだろ」
「最低ー」
「いや何その俺が最低みたいな言い方」
目を細め空から私へ目線を向けた銀さんに「じゃあぶっちゃけ女は?」と聞くと「胸だろ」と即答してきて、ああしっかり銀さんだなぁと思いつい笑ってしまった。
「やっぱ胸か」
「そりゃお前やることやるに決まってんだから大事だろ、尻も」
「それ性癖じゃない?」
「誰もナースだなんて言ってねえよ」
「今言っちゃってるよ?私聞いちゃってるよ?」
親方ァ空から女の子がァ!みたいなアレまじでねえかな、なんてアニメ映画のワンシーンみたいな事を言い出す銀さんが誰かのものになる日なんて来るのだろうか。
「んでどうよ男は」
少しの間を空けてから、逸らしていた話を再度私へ向けてきた銀さん。
「うーん⋯かっこいいなら何でも」
「嘘だろお前、さすがに何か他あんだろ」
「⋯⋯強いて言うなら、私より背が高くて私より優しくて私より一途で、お金があって体力もあって週に五回くらい寝てくれる人」
「強い過ぎじゃね?つか最後完全に下じゃね?」
「そりゃやることやるに決まっ」
「あーあー俺が悪かったわ聞いた俺が悪かった」
はぁーと息を吐きながら頭をボサボサ搔いてる銀さん。
性欲の一致は大事じゃない?と聞けば、まあ確かにな、と言い残りのお酒をぐびっと飲み干した銀さんはカシャカシャと空になった缶を潰していた。
やっぱりもう一本持ってこようかな、とついでに銀さんが潰した缶を手元からするりと奪い中に戻ろうとした時「なぁ」と私を呼び止めた銀さんに「何?」と聞くと、もう一個あったわ、と空を見上げたまま呟いた。
「もう一個?」
「女に求めるやつ」
「胸とお尻とナース以外に?」
「ナースはいいんだよナースは」
「じゃあ何?」
冷えた鼻先を手の甲で軽く擦りながら聞き返した私の言葉に、けしてこっちを向くことはなくまるで独り言みたいにぽつりと言葉を漏らした銀さんの声は、冷えた外だからこそなのか随分と透き通って耳に届いた。
「クリスマスっつーのに一緒になって安酒飲んでくれるやつ」
ぴくりと指先が震えたのはきっと寒かったから。
そうなんだ、と返して中に戻った私は潰れた缶と空になった缶をゴミ箱に捨てて、一本と決めて部屋に来たはずのなのに冷蔵庫から同じお酒を二本手に持ちまた玄関の外に戻った。
「きっとそんないい女、世界中探しても一人しかいないよ」
もう一本のお酒を銀さんの傍の手すりの上に起きながら、自分の手に持つ缶のプルタブを持ち上げるとプシュッと音を鳴らし白い泡がぷつぷつと溢れてくるのをぼーっと見つめた。
「んじゃ他の奴んとこ行く前に捕まえねーとな」
だろ?と降ってきた言葉に顔を上げた。
うんと近くにいた銀さんの唇は、きっとすごく冷えてたはずなのに、冷えきった私の唇を溶かすほどあたたかいものだった。
2022.xmas
1/1ページ