月白に苛まれて
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「お前誰だ」
明らかに目つきの違う土方さんへ連れてこられた無機質な個室。
ああ何だろう、すごい取調室みたいだな、なんて思いながら椅子に座って手錠を見つめていると、それはもう明らかに取り調べのような問答が始まった。
「⋯苗字ですけど」
「俺が調べたところ、お前の住所も名前も全部、戸籍すら一切記録に無かった」
「はい?」
「だから、戸籍そのものが存在してねえんだよ」
どこからか取り出した煙草を咥え火をつけた土方さんは、さっきまでとは違い冷たく鋭い目つきで私を見つめ⋯というよりも睨みつけながら答えを急かすように「お前誰だ」と同じ言葉を再び投げかけてきた。
戸籍がない?そんなわけ⋯いくら夢でも戸籍くらいあるでしょ、そんな都合の悪い冗談なんて。
⋯⋯いやそもそも最初からおかしかったじゃない。
髷のある先生らしくない先生、普段着が着物の人達、漫画で見たことのある土方さん、無くなっている教材やパソコン。
それに住所不定の無戸籍。
さっきパトカーの中から景色を見てタイムスリップでもしら、なんて軽く思っていたけどここへ来た時に見えた真選組屯所という板。
真選組、漢字は違えど名前に馴染みがあった。
昔なにかをした人達、歴史の教科書なんかで小中高と目にするくらい幾度も繰り返し出てくる単語。
ひたひたと背中を流れる汗が背筋を冷やしていきながら、嫌な考えが頭を過っていく。
事故か何かに遭遇して別世界に行ってしまうとかいうアニメや漫画でしか聞いたことのない現実離れした話。
現実にはあり得ないとばかり思っていた、というかあり得るわけがない、そんなトリップだとか転生だとかいわれる話。
でも実際に今、目の前には土方さんという友達が読んでいた漫画に出ていたキャラクターがいる。
ちらりと覗き見していた程度の知識しかないけれど、確かあの作品の世界感もこんな感じだったし、主人公も着物を着ていた気がする。
極めつけは一向に覚めることのない夢だと思っていたここ二ヵ月くらいの日々。
夢ならとっくに覚めている程の時間を費やしているのに覚めることがない夢。
あり得ないと理解しつつもしかして夢じゃないのかもしれないと考えたが、もしかすると本当にもしかするのかもしれない。
⋯⋯いやいやいや、さすがに無い。ナイ。
もし仮に、本当に仮にそうだとするなら私はあのジムからの帰りでもう死んでるってこと?いや、こうして生きてるじゃん。
骨折の痛みだって打ち身の痛みだって我慢した。
リハビリもしたし、この食材は好きじゃないと看護師さんと喧嘩もした。
夢だと割り切れない部分で起きたことは、全部生きてるからできたこと。
でも現に私の戸籍は無いし目の前には漫画のキャラクターがいて、世界観も私の知ってる現代とは大きくかけ離れていた。
私があの日病室で目が覚めた瞬間からそういうトリップや転生みたいな話が仮に始まっていたんだとしたら、例外なく全ての出来事に説明が出来てしまうのも事実。
明らかに目つきの違う土方さんへ連れてこられた無機質な個室。
ああ何だろう、すごい取調室みたいだな、なんて思いながら椅子に座って手錠を見つめていると、それはもう明らかに取り調べのような問答が始まった。
「⋯苗字ですけど」
「俺が調べたところ、お前の住所も名前も全部、戸籍すら一切記録に無かった」
「はい?」
「だから、戸籍そのものが存在してねえんだよ」
どこからか取り出した煙草を咥え火をつけた土方さんは、さっきまでとは違い冷たく鋭い目つきで私を見つめ⋯というよりも睨みつけながら答えを急かすように「お前誰だ」と同じ言葉を再び投げかけてきた。
戸籍がない?そんなわけ⋯いくら夢でも戸籍くらいあるでしょ、そんな都合の悪い冗談なんて。
⋯⋯いやそもそも最初からおかしかったじゃない。
髷のある先生らしくない先生、普段着が着物の人達、漫画で見たことのある土方さん、無くなっている教材やパソコン。
それに住所不定の無戸籍。
さっきパトカーの中から景色を見てタイムスリップでもしら、なんて軽く思っていたけどここへ来た時に見えた真選組屯所という板。
真選組、漢字は違えど名前に馴染みがあった。
昔なにかをした人達、歴史の教科書なんかで小中高と目にするくらい幾度も繰り返し出てくる単語。
ひたひたと背中を流れる汗が背筋を冷やしていきながら、嫌な考えが頭を過っていく。
事故か何かに遭遇して別世界に行ってしまうとかいうアニメや漫画でしか聞いたことのない現実離れした話。
現実にはあり得ないとばかり思っていた、というかあり得るわけがない、そんなトリップだとか転生だとかいわれる話。
でも実際に今、目の前には土方さんという友達が読んでいた漫画に出ていたキャラクターがいる。
ちらりと覗き見していた程度の知識しかないけれど、確かあの作品の世界感もこんな感じだったし、主人公も着物を着ていた気がする。
極めつけは一向に覚めることのない夢だと思っていたここ二ヵ月くらいの日々。
夢ならとっくに覚めている程の時間を費やしているのに覚めることがない夢。
あり得ないと理解しつつもしかして夢じゃないのかもしれないと考えたが、もしかすると本当にもしかするのかもしれない。
⋯⋯いやいやいや、さすがに無い。ナイ。
もし仮に、本当に仮にそうだとするなら私はあのジムからの帰りでもう死んでるってこと?いや、こうして生きてるじゃん。
骨折の痛みだって打ち身の痛みだって我慢した。
リハビリもしたし、この食材は好きじゃないと看護師さんと喧嘩もした。
夢だと割り切れない部分で起きたことは、全部生きてるからできたこと。
でも現に私の戸籍は無いし目の前には漫画のキャラクターがいて、世界観も私の知ってる現代とは大きくかけ離れていた。
私があの日病室で目が覚めた瞬間からそういうトリップや転生みたいな話が仮に始まっていたんだとしたら、例外なく全ての出来事に説明が出来てしまうのも事実。