月白に苛まれて
名前設定
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だからこそ、揺るぎない疑問が確信に変わりつつあった。
まず第一に夢か幻覚か⋯この際夢だと仮定して、この夢がいつになっても覚めることはなかった。
第二に私の持ち物、少なくともあの日ジムに通ってから家に帰ろうとしていた私は着替えは勿論大学のノートやパソコンだって持ち運んでいたはずなのに、後から手元に届いた所持品にはそれらがなかった。
私の全所持品がまとめられていたカゴには、カバンとスマホと財布だけ。
通帳や家の鍵すら入ってないし、スマホに関しては登録されてる番号が一つも残ってなかった。
財布の中も同様にお金が一円すら残ってないし、かろうじて残ってた免許証に記されてる住所は全然見たことも聞いたこともない地名だった。
それになによりも驚いたのは、廊下を出歩く人達や外を眺めると目に映る人達。
どの人も例外なく着物を身に着けていた。
どう考えてもおかしい。いやおかしすぎる。
鏡を見ても私は私で何も変わりはなかったけれど、周りの何もかもが変わっていた。
頬を抓ってみてもただ痛いだけ、足を叩いてみても激痛が走るだけ。
私がこういう状態だっていうのに一向にお母さんは病室に来てくれない。
明らかな異常さに、意識が鮮明になればなるほど頭がおかしくなりそうだった。
だれかに相談を⋯そう思っても誰の連絡先も残ってない、思い当たる連絡先に電話をかけても繋がったことは一度もない。
ただただ、このベッドの上で時間だけが過ぎていった。
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「こんにちは名前さん!」
「お疲れ様です山崎さん」
二日に一度、長くても三日に一度は病室に来て花瓶に飾る新しい花や小分けにして食べれるお菓子を持ってきてくれる山崎さん。
来るたびに頭を下げる山崎さんへ、起きてしまったことは仕方ないですと、もう謝らなくてもいいですよと頼んだ事があった。
すると山崎さんは、病室へ来るたび十分程度の会話に付き合ってくれるようになった。
普段話す相手がいない私のことを考えての行動だったんだと気付いた時はすごく優しい人なんだなと気付かされた。
名前を教えてもらったり好きなことを教えてもらったり、どこぞのお見合いかと思った時は二人で笑ったりもした。
覚めない夢ならいっそ覚めるまでの間楽しめばいいと開き直って、課題もジムもバイトも忘れて今だけを考えようと思った。
病は気から、なんて言葉があるくらい。
重荷が取れて気持ちが前向きになればなるほど思い込みのせいか段々と体調もよくなって、予定してた時期よりも早めに病院を出られることになった。