月白に苛まれて
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だから、まさか目が覚めるなんて思ってなかった。
直感的に感じた死、もう二度と味わいたくない感覚だと思った。
ピッピッピッと規則正しい電子音が聞こえる中ゆっくりと瞼を持ち上げると、カーテンが掛けられているレールや白い天井、点滴が吊るされているスタンドが視界に映った。
可能な限り部屋全体へ目を向けると、個室らしい病室にはいくつかの電子機械や綺麗な白い花が入れられた花瓶などが置かれ、袖から覗く両手には大小の絆創膏がいくつも貼られていた。
生きてる。
とにかく生きている事自体を嬉しく思いながら手元に置かれていたボタンを押そうと手を伸ばした時、部屋の扉がガラガラと開かれた。
「苗字さん朝ですよ〜」
声のする方を見ると綺麗な看護師の方がボードへ目を落としながら歩いてくる。
「体温測りま⋯えっ!?」
そうしてポケットから体温計を取りだし目線を上げた看護師さんは私と目が合うなり酷く驚くとボードを足元へ落とした。
「苗字さん目が覚めたんですね!?あの、今すぐ先生呼んできます!」
きっとまだ意識がないと思っていたんだろう。
私だって未だに夢だと思っている。
足早に病室から出ていった看護師さんの足音が遠のき、程なくして病室へ来た先生の容姿を見た私は、一時は生きていることに嬉しさを感じたけれど、これは夢か幻想か、とにかく私はもう死んでいるんだと思った。
先生の頭にある髷や目元にある大きな傷、どう見たって先生には見えなかったし、髷なんて実物を見たことすらなければしてる人すら力士の方以外で存じ上げない。
「先生、連絡もしたのでもうすぐ来るかと」
「ああ助かるよ」
ちょっとごめんね、と目元に触れるとライトをチラチラさせるこの謎すぎる人物。
連絡をしたという看護師さんの声を聞きながら、まあ夢でもその辺はリアルなんだなと思いつつ、もう会えないと思っていたお母さんが来てくれるならそこまで悪い夢でもないのかもしれないと少しは気が楽になれた。
「体温は⋯まだ高いようだね」
「どこか痛いとこは?」
「二日間寝たきりだったんだよ」
「轢かれた日のこと覚えてるかな?」
私へ淡々と言葉をかけながら全身へ触れ怪我の度合いなんかを確かめてくれている先生。
生憎痛みまでリアルな夢のせいか鉛のように重く感じる体は未だに動かせずにいた。
暫く先生らしくない先生の話を聞いていると病室の扉が軽く数回叩かれ、看護師さんが扉の方へと訪問者を迎えに行った。
「先生、お連れしました」
お母さんに会える、そう思いながら視線を看護師さんの後ろへ向けた私は、ああそういえば私はもう死んでいて夢か幻覚かを見ていたんだと改めて再確認した。
「あ、あの!!本当にごめんなさい!!!!」
看護師さんの後ろから顔を覗かせるなり膝に頭が着くほど体を折り曲げ病室で許容できる以上の声を発したのは、お母さんではなく知らない男性だった。
まぁ、まだそれだけなら良かった。
良くは無いけど、私を轢いた方なのかな?みたいな想像くらいはできた。
もう既に中々に破天荒な夢だとわかっていたし。
でも、その男性の後ろから現れたもう一人の男性を私は見たことがあった。
「ここ病室だぞ!もっと静かに出来ねえのかお前は!」
充分過ぎる程の大きさで声を上げ男性の頭を叩いた人物は、以前友達が読んでた漫画に出ていた人物の顔をしていた。