月白に苛まれて
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シャワーを浴び終え、トクトクと水を喉へ流しながら今日の記録をスマホへメモしていく。
トレーニングの種類や回数、トータルで費やした時間などを簡易的に記入しながら、もう二口ほど水を飲み窓の外の明かりをぼんやりと眺めていた。
やっぱり体を動かすとお腹が空いてくる。
今日は何を食べようかなとか明日の講義はどれだっけとか、頭に浮かんでくるありふれた事を考えながらスマホを見ると時間は二十一時を飛んで二桁の数字を刻もうとしていた。
慌てて上着を着ながら忘れ物がないかを確認して、急ぎ足でジムを出た頃には更に五分が過ぎていた。
大学へ通いながら塾でバイトをして、バイトがない日のうち週に二日はジムへ通い体を動かしたりと充実した生活を送っていた。
小さい頃から高校を卒業するまで習っていた躰道と、在籍していた剣道部。
日頃体を動かしてばかりだったためか、今も定期的な運動をしてないとどこか物足りなさというか寂しさを感じてしまって謎の焦燥感に飲み込まれそうな自分がいた。
でも大学では高校在学中も出来なかったバイトをしたいと第一に決めていたからサークル等へは入らなかったし、バイトやジムの他に友達と遊んだりお母さんと買い物をしたり、たまには一人で映画を観たり。
思い描いていた通りの普通の大学生を謳歌していた。
ごく普通の、なんてことない平凡な生活。
いつもと何ら変わりない帰宅路を歩いていた私は、毎日の行き帰りで必ず通っている横断歩道を渡っていた。
昨日の残り物でサラダでも作ろう、いやでも遅い時間になっちゃったしどうしようかな、なんてそれこそありふれた事を考えながら歩いていると、ものすごい光が側面から近付いてくるのがわかった。
「えっ」
気付いた時にはもう、目の前まで迫っていた車。
正直声が出ていたかどうかすらわからないほど一瞬の出来事。
なのにゆっくりと鮮明に再生されるのは、車が少しずつ私との間を埋めながら近付いてくる光景。
実際はゆっくりなんて速度じゃなかったと思うけれど、まるでスローモーションのような動きに見えていた。
こんなに眩しかったんだと再確認させられる車のヘッドライト、運転手の顔は光に遮られて見えないものの確かに私を照らす光は着実に近付いてくる。
これ轢かれるんじゃない?避けないとじゃない?
そうわかっているのに足は石のように重く、地面に縫い付けられたかのように全く動かせない。
最初は夢だとさえ思えた光景も、目を閉じた瞬間に途切れた意識と共にどこかへ消え去ってしまった。