些細な始まり
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女中の子がめちゃくちゃイメチェンした話
沖田は隊長でありながら見回りには行かず所内をのんびり歩いていた。たまたま同行するはずの隊士が体調を崩し、それならと理由をつけ所内に留まっていたのだ。
すると、毎日午前中に局長である近藤や副長である土方の元へ郵送物を届けている女中の名前がこちらへ歩いてくるのが見えた。
ほぼ同時に、沖田へ気付いた彼女は毎日顔を合わせている訳では無いが沖田を見かける度に「お疲れ様です」と声をかけ、沖田本人もその度に短く返事を返していた。
だが今日は少しだけ違っていた。
「イメチェンですかぃ?」
何通かの手紙を持ちながら目当ての部屋へと向かう名前を見かけた沖田は、いつものように短く返事をするだけではなく小さな疑問を投げかけた。
沖田が今まで見ていた名前は、艶があり腰辺りまで長さのある黒髪を一つに纏め落ち着いた眼鏡をつけていた。
が、今目の前にいる名前は少なくとも一昨日見た時とはだいぶ印象が異なっていた。後ろから見れば項が見えてしまうほど短くなった黒髪は顎に行くにつれ前下がりに長さを変えながら綺麗に切られ、コンタクトにしたのか見慣れた眼鏡もかけていなかった。
「はい、たまには良いかなと思って」
沖田の言葉に足を止め笑顔で答えた名前は、まだ長さに慣れていないのか髪の先をくるりと触りながら沖田を見上げている。
「これから寒くなるってぇのに随分思い切りやしたね」
外に出れば冷えきった風が肌を刺激する季節。
そろそろ冬支度もしなければという頃なのに首元が見えるまで短く切るなんて、と特に時間を気にしているわけでもない沖田は名前を引き止め言葉を続けた。
「そう⋯そうですね、確かにちょっと、冷えますね」
沖田隊長は冷えませんか?と問いかけながら柔らかな笑顔を向ける名前。
けして無理をして話に付き合っているわけではなく、単に隊士との会話を楽しんでいる名前は沖田からの言葉を待っているようだった。
「それなりに冷える」
「ふふ、やっぱり短いとそうですよね」
口元に手を添え控えめに笑うところも、名前という大人しくけして人より前に出ようとはしない控えめな性格を体現しているようだった。
「この季節の変わり目にバッサリたァ、さてはコレですかい?」
セクハラの一歩手前と言われても仕方がないようなニヤニヤとした表情で親指を立てた沖田を見て、名前は一瞬目を僅かに揺らしながら手紙で顔を隠し、一度だけ小さく頭を上下に揺らした。
「⋯その、はい、実はそうなんです」
自分から話を振っておきながら正直に肯定され少し動揺してしまった沖田は、なんでまた、と経緯を尋ねた。
「私はここでのお仕事が好きなんですけど、その、いろいろと折り合いが付かなくて」
そこまで話すと顔を上げふわりと微笑む名前は「恋愛って難しいですね」と自分に言い聞かせるように言葉を吐きながら沖田を見上げていた。
話からしてきっと休みが少ないだとか職場に男が多いだとか、そういう事なんだろう。
そう解釈をした沖田は、今まで恋人という確立した相手がいた事がないためイマイチ合致するような考えは浮かばなかったが、顔も知らない相手に嫉妬するほど余裕のない男、程度にしか思わずさほど興味が唆られる事はなかった。
そこまで深く話したことがある訳でもない沖田と名前だったが、名前に対しての興味は少しずつ湧き始めていた沖田は職務時間中というのを既に忘れいろいろと話をし始めた。
「どういう野郎だったんですかい?その別れた男ってーのは」
「え、えっと⋯普通の方ですよ」
「フツーつってもいろいろありやすぜ」
「そうですよね⋯そうですね、昔から顔見知りの方で⋯⋯」
昔からの顔馴染みで、女中として勤め始めた頃に相手も職に就きいろいろ話をする内に、と言葉を選びながら説明をしていく名前。
名前の話を聞きながら、ふとした時に垣間見える名前の仕草を沖田は黙って眺めていた。
短さに慣れておらずやたら髪を気にして毛先へ触れてしまう仕草や、次の言葉を考えている間は少し下へ目線を落としつつも話し始める時は必ず自分を見上げ目線を交わせる様子、時折手紙をまとめてある紐の間に親指を滑らせするすると左右に動かしている仕草。
コンタクトに慣れていないのか普段目にする人達よりも多めに瞬きを繰り返している目元など、普段挨拶を交わす程度だった名前をまじまじと見たことの無い沖田にとっては全てが新鮮に思えた。
「⋯あの、沖田隊長?」
「なんでい」
「そろそろ戻られた方が⋯」
沖田は不意に呼ばれたことで一度思考を止め名前を見つめると、少し複雑そうに眉を下げ一際声を小さくした名前が戻るようにと言いながら瞳を僅かに動かしていた。
その動きを見逃すわけのない沖田は、一瞬名前の目線が向けられた背後へと視線を向けようと振り返ると、ほぼ同時に頭上から軽い痛みが頭を襲った。
「いでっ」
「おめーはここで何してんだよ」
名前は、沖田の背後に続く廊下の先からこちらへ向かい歩いてくる土方の姿を見つけ、控えめに沖田へ避難するようにと伝えたつもりだったが既に土方は沖田のすぐ後ろまで迫っており、目の前で軽く頭を叩かれた沖田が土方に叱られていた。
「やだなァ土方さん俺がモテモテだからって嫉妬しちゃってー」
「してねえよ!仕事はどうした仕事は!」
「いでっ」
素直に一言謝れば済むところを普段のように言葉を交わし二度目のお叱りを受けた沖田。一方土方は短く溜息を吐くと名前へ向き直り「悪ぃな仕事の邪魔しちまって」と言いながら手紙を受け取ると、沖田の襟を掴み来た道を戻って行った。
その日を境に、沖田は名前を見つけると進んで話しかけ、決まって土方に連れ戻されるようになった。
22.11.8
沖田は隊長でありながら見回りには行かず所内をのんびり歩いていた。たまたま同行するはずの隊士が体調を崩し、それならと理由をつけ所内に留まっていたのだ。
すると、毎日午前中に局長である近藤や副長である土方の元へ郵送物を届けている女中の名前がこちらへ歩いてくるのが見えた。
ほぼ同時に、沖田へ気付いた彼女は毎日顔を合わせている訳では無いが沖田を見かける度に「お疲れ様です」と声をかけ、沖田本人もその度に短く返事を返していた。
だが今日は少しだけ違っていた。
「イメチェンですかぃ?」
何通かの手紙を持ちながら目当ての部屋へと向かう名前を見かけた沖田は、いつものように短く返事をするだけではなく小さな疑問を投げかけた。
沖田が今まで見ていた名前は、艶があり腰辺りまで長さのある黒髪を一つに纏め落ち着いた眼鏡をつけていた。
が、今目の前にいる名前は少なくとも一昨日見た時とはだいぶ印象が異なっていた。後ろから見れば項が見えてしまうほど短くなった黒髪は顎に行くにつれ前下がりに長さを変えながら綺麗に切られ、コンタクトにしたのか見慣れた眼鏡もかけていなかった。
「はい、たまには良いかなと思って」
沖田の言葉に足を止め笑顔で答えた名前は、まだ長さに慣れていないのか髪の先をくるりと触りながら沖田を見上げている。
「これから寒くなるってぇのに随分思い切りやしたね」
外に出れば冷えきった風が肌を刺激する季節。
そろそろ冬支度もしなければという頃なのに首元が見えるまで短く切るなんて、と特に時間を気にしているわけでもない沖田は名前を引き止め言葉を続けた。
「そう⋯そうですね、確かにちょっと、冷えますね」
沖田隊長は冷えませんか?と問いかけながら柔らかな笑顔を向ける名前。
けして無理をして話に付き合っているわけではなく、単に隊士との会話を楽しんでいる名前は沖田からの言葉を待っているようだった。
「それなりに冷える」
「ふふ、やっぱり短いとそうですよね」
口元に手を添え控えめに笑うところも、名前という大人しくけして人より前に出ようとはしない控えめな性格を体現しているようだった。
「この季節の変わり目にバッサリたァ、さてはコレですかい?」
セクハラの一歩手前と言われても仕方がないようなニヤニヤとした表情で親指を立てた沖田を見て、名前は一瞬目を僅かに揺らしながら手紙で顔を隠し、一度だけ小さく頭を上下に揺らした。
「⋯その、はい、実はそうなんです」
自分から話を振っておきながら正直に肯定され少し動揺してしまった沖田は、なんでまた、と経緯を尋ねた。
「私はここでのお仕事が好きなんですけど、その、いろいろと折り合いが付かなくて」
そこまで話すと顔を上げふわりと微笑む名前は「恋愛って難しいですね」と自分に言い聞かせるように言葉を吐きながら沖田を見上げていた。
話からしてきっと休みが少ないだとか職場に男が多いだとか、そういう事なんだろう。
そう解釈をした沖田は、今まで恋人という確立した相手がいた事がないためイマイチ合致するような考えは浮かばなかったが、顔も知らない相手に嫉妬するほど余裕のない男、程度にしか思わずさほど興味が唆られる事はなかった。
そこまで深く話したことがある訳でもない沖田と名前だったが、名前に対しての興味は少しずつ湧き始めていた沖田は職務時間中というのを既に忘れいろいろと話をし始めた。
「どういう野郎だったんですかい?その別れた男ってーのは」
「え、えっと⋯普通の方ですよ」
「フツーつってもいろいろありやすぜ」
「そうですよね⋯そうですね、昔から顔見知りの方で⋯⋯」
昔からの顔馴染みで、女中として勤め始めた頃に相手も職に就きいろいろ話をする内に、と言葉を選びながら説明をしていく名前。
名前の話を聞きながら、ふとした時に垣間見える名前の仕草を沖田は黙って眺めていた。
短さに慣れておらずやたら髪を気にして毛先へ触れてしまう仕草や、次の言葉を考えている間は少し下へ目線を落としつつも話し始める時は必ず自分を見上げ目線を交わせる様子、時折手紙をまとめてある紐の間に親指を滑らせするすると左右に動かしている仕草。
コンタクトに慣れていないのか普段目にする人達よりも多めに瞬きを繰り返している目元など、普段挨拶を交わす程度だった名前をまじまじと見たことの無い沖田にとっては全てが新鮮に思えた。
「⋯あの、沖田隊長?」
「なんでい」
「そろそろ戻られた方が⋯」
沖田は不意に呼ばれたことで一度思考を止め名前を見つめると、少し複雑そうに眉を下げ一際声を小さくした名前が戻るようにと言いながら瞳を僅かに動かしていた。
その動きを見逃すわけのない沖田は、一瞬名前の目線が向けられた背後へと視線を向けようと振り返ると、ほぼ同時に頭上から軽い痛みが頭を襲った。
「いでっ」
「おめーはここで何してんだよ」
名前は、沖田の背後に続く廊下の先からこちらへ向かい歩いてくる土方の姿を見つけ、控えめに沖田へ避難するようにと伝えたつもりだったが既に土方は沖田のすぐ後ろまで迫っており、目の前で軽く頭を叩かれた沖田が土方に叱られていた。
「やだなァ土方さん俺がモテモテだからって嫉妬しちゃってー」
「してねえよ!仕事はどうした仕事は!」
「いでっ」
素直に一言謝れば済むところを普段のように言葉を交わし二度目のお叱りを受けた沖田。一方土方は短く溜息を吐くと名前へ向き直り「悪ぃな仕事の邪魔しちまって」と言いながら手紙を受け取ると、沖田の襟を掴み来た道を戻って行った。
その日を境に、沖田は名前を見つけると進んで話しかけ、決まって土方に連れ戻されるようになった。
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