小さな気付き
名前設定
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気付いてしまった土方さん。
ある日の朝。
「あっ土方さん!おはようございます!」
たまたま早く目が覚めてしまい、軽く体でも動かそうと道場へ向かうため廊下を歩いていると、早朝から床掃除をしていた女中の名前が俺に気付いて立ち上がり頭を下げた。
「朝早ぇな」
「どなたかが起きる前にと思ったんですけど⋯土方さんもお早いですね」
まだほんのりと薄暗い中で明るい笑顔を向けてくる名前。
いつもふわりと下ろしている髪をひとつにまとめ、前髪をあげピンで固定し餅のように白い額を晒している姿をあまり見かけたことがなくつい凝視してしまうと「み、見せてる訳では無いですよ!」と恥ずかしそうに額を手で覆った名前に小さく笑った。
まだ日も昇っていない。お湯を使ってすらいないのか、指先は冷たさからかほんのりと赤く染まっていた。
程々にな、と言葉をかけ横を通り過ぎると「土方さんも程々にですよ!朝御飯には遅れずに!」と小さくもはっきりとした明るい声が聞こえてきた。
ある日の昼。
「今月は健康になろう月間です!」
月が変わって初めの昼、そう言いながら微笑む名前の手から受け取ったサラダの上には明らかに申し訳程度の量しか乗せられていないマヨネーズ。
「⋯お」
「駄目ですよ!土方さんはただでさえマヨネーズを水より多く摂取されているんですから!」
「まだ何も言ってねーだろ!?」
「いいえ目が言ってます!おいこれ少ねぇだろ、って目が言ってます!私にはわかります!」
「⋯⋯」
グググと音が聞こえそうなほどサラダが入った容器を押し合いながら互いに見つめ合っていても、名前はいつものように優しくはなかった。
「いいですか!重喫煙にマヨネーズの爆飲、いつお体が悲鳴をあげたっておかしくないんですからね!」
私が担当の日は許しません!と痛いところを突きながら睨まれてしまえば、残された道は俺が折れることだけだった。
これが一ヶ月も続くのかと少し暗い気持ちになりながらサラダを口に運んでいると、まるで隠されていたようにキャベツの下から出てきたのはスプーン一杯分程のマヨネーズ。
は?と思って先程サラダを受け取った方へ顔を向けると、並ぶ隊員へサラダを渡していた名前がチラリとこちらを見て僅かに笑っていた。
今夜。
寝れずに竹刀を振っていた俺は汗を流すため脱衣所へ向かうと、そこそこ遅い時間なため誰の迷惑にもならないと思って訪れていたのかタオルを交換しに来ている名前がいた。
台に手を付き僅かに震える爪先で体を支えながら高いところにある棚へ手を伸ばし必死にカゴを取ろうとしている。扉を開けた俺に気付かないほど集中して。
「⋯台無えのか?鹿みてぇだぞ」
「わっ!?え!?あっ土方さん!こんばんは!」
後ろから手を伸ばして名前が取ろうとしていたカゴを取ると、声をかけずに近付いたからか酷く驚きながらも俺だとわかるといつものように明るく挨拶をする名前は、お礼を言いながらカゴを受け取った。
「いつも別の方がされてるんですが今日たまたまお休みで⋯皆さん背がお高いんですね⋯」
「⋯⋯まぁ⋯」
届かなかったことに対して悲しそうに声を沈めながら中身を交換している名前。男だからな、と言いかけた言葉を飲み込んでカゴから一枚タオルを抜き取った。
「あっお使いになられるなら今持ってきた方お渡ししますよ!洗濯したてなので!」
「あ、あぁ悪ぃな」
これどうぞ!と名前から色が違うタオルを受け取ると、微かにふわりといい匂いがしていた。タオルの交換を終えた名前は元々入れてあったタオルを抱えると、再度お礼の言葉と共に頭を下げた。
「ありがとうございます!土方さんが取ってくれなかったら今頃、台を持ってくるのに往復してました⋯」
「気にすんな、それもあとで戻しとく」
「すみません本当に⋯私はこれで失礼します、あまり夜更かしせずにお休み下さい!」
そう言うと今度こそ扉を開け戻っていった名前の足音を僅かに聞きながら、受け取ったタオルに目を落とし男だからと言葉を飲み込んだ時のことを考えた。
自分より遥かに小さな体を一生懸命伸ばし足を震わせながらカゴを取ろうとしていた名前を見て、可愛らしいと思った。
男だからと言いかけ、ふと名前をそう思ったのは女だからか?と考えてしまい、いやそれだけではないと気付いた。
日頃何かと接点のある名前を気付かぬうちに特別に思っていたのかもしれない。そうわかると途端に恥ずかしいような照れくさいような気持ちになった。
女中の中でもここ最近見かけるようになった名前は何に対しても真面目に取り組み、物怖じせずどの隊員に対しても笑顔で接している明るい女性。
一度気付いてしまえばそう簡単に頭から離れることのない名前への気持ちが、心地よく胸を苦しくさせた。
22.10.30
ある日の朝。
「あっ土方さん!おはようございます!」
たまたま早く目が覚めてしまい、軽く体でも動かそうと道場へ向かうため廊下を歩いていると、早朝から床掃除をしていた女中の名前が俺に気付いて立ち上がり頭を下げた。
「朝早ぇな」
「どなたかが起きる前にと思ったんですけど⋯土方さんもお早いですね」
まだほんのりと薄暗い中で明るい笑顔を向けてくる名前。
いつもふわりと下ろしている髪をひとつにまとめ、前髪をあげピンで固定し餅のように白い額を晒している姿をあまり見かけたことがなくつい凝視してしまうと「み、見せてる訳では無いですよ!」と恥ずかしそうに額を手で覆った名前に小さく笑った。
まだ日も昇っていない。お湯を使ってすらいないのか、指先は冷たさからかほんのりと赤く染まっていた。
程々にな、と言葉をかけ横を通り過ぎると「土方さんも程々にですよ!朝御飯には遅れずに!」と小さくもはっきりとした明るい声が聞こえてきた。
ある日の昼。
「今月は健康になろう月間です!」
月が変わって初めの昼、そう言いながら微笑む名前の手から受け取ったサラダの上には明らかに申し訳程度の量しか乗せられていないマヨネーズ。
「⋯お」
「駄目ですよ!土方さんはただでさえマヨネーズを水より多く摂取されているんですから!」
「まだ何も言ってねーだろ!?」
「いいえ目が言ってます!おいこれ少ねぇだろ、って目が言ってます!私にはわかります!」
「⋯⋯」
グググと音が聞こえそうなほどサラダが入った容器を押し合いながら互いに見つめ合っていても、名前はいつものように優しくはなかった。
「いいですか!重喫煙にマヨネーズの爆飲、いつお体が悲鳴をあげたっておかしくないんですからね!」
私が担当の日は許しません!と痛いところを突きながら睨まれてしまえば、残された道は俺が折れることだけだった。
これが一ヶ月も続くのかと少し暗い気持ちになりながらサラダを口に運んでいると、まるで隠されていたようにキャベツの下から出てきたのはスプーン一杯分程のマヨネーズ。
は?と思って先程サラダを受け取った方へ顔を向けると、並ぶ隊員へサラダを渡していた名前がチラリとこちらを見て僅かに笑っていた。
今夜。
寝れずに竹刀を振っていた俺は汗を流すため脱衣所へ向かうと、そこそこ遅い時間なため誰の迷惑にもならないと思って訪れていたのかタオルを交換しに来ている名前がいた。
台に手を付き僅かに震える爪先で体を支えながら高いところにある棚へ手を伸ばし必死にカゴを取ろうとしている。扉を開けた俺に気付かないほど集中して。
「⋯台無えのか?鹿みてぇだぞ」
「わっ!?え!?あっ土方さん!こんばんは!」
後ろから手を伸ばして名前が取ろうとしていたカゴを取ると、声をかけずに近付いたからか酷く驚きながらも俺だとわかるといつものように明るく挨拶をする名前は、お礼を言いながらカゴを受け取った。
「いつも別の方がされてるんですが今日たまたまお休みで⋯皆さん背がお高いんですね⋯」
「⋯⋯まぁ⋯」
届かなかったことに対して悲しそうに声を沈めながら中身を交換している名前。男だからな、と言いかけた言葉を飲み込んでカゴから一枚タオルを抜き取った。
「あっお使いになられるなら今持ってきた方お渡ししますよ!洗濯したてなので!」
「あ、あぁ悪ぃな」
これどうぞ!と名前から色が違うタオルを受け取ると、微かにふわりといい匂いがしていた。タオルの交換を終えた名前は元々入れてあったタオルを抱えると、再度お礼の言葉と共に頭を下げた。
「ありがとうございます!土方さんが取ってくれなかったら今頃、台を持ってくるのに往復してました⋯」
「気にすんな、それもあとで戻しとく」
「すみません本当に⋯私はこれで失礼します、あまり夜更かしせずにお休み下さい!」
そう言うと今度こそ扉を開け戻っていった名前の足音を僅かに聞きながら、受け取ったタオルに目を落とし男だからと言葉を飲み込んだ時のことを考えた。
自分より遥かに小さな体を一生懸命伸ばし足を震わせながらカゴを取ろうとしていた名前を見て、可愛らしいと思った。
男だからと言いかけ、ふと名前をそう思ったのは女だからか?と考えてしまい、いやそれだけではないと気付いた。
日頃何かと接点のある名前を気付かぬうちに特別に思っていたのかもしれない。そうわかると途端に恥ずかしいような照れくさいような気持ちになった。
女中の中でもここ最近見かけるようになった名前は何に対しても真面目に取り組み、物怖じせずどの隊員に対しても笑顔で接している明るい女性。
一度気付いてしまえばそう簡単に頭から離れることのない名前への気持ちが、心地よく胸を苦しくさせた。
22.10.30
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