弟は坂田銀時
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ヅラが言ってた雑貨屋に来てみれば明らかに女子だけが歓迎されているような空間で多少なりとも抵抗があった。
一瞬どうしようかと悩んでいると、通路側の棚に同じ顔をしたいくつもの動物のストラップが並んでいるのが見えた。
店のド真ん中に行くよりは比較的抵抗の少ない通路側の棚を見つめながら、ピンクの兎を探してみるが見当たらない。
サイズも大小さまざまで種類も多様。記憶の限りではポケットに入れてある留め具の壊れた兎以外でネーチャンが兎のなにかを身につけてたり集めてたりしていた記憶が無い。
思い入れがあるのか誰かから貰ったのか知らねえが、少なくとも目の前の棚には目当てのものはなく、代わりになんとなく目を引かれた白い羊のストラップを手に取ってレジへと向かった。
なんかこう、白くて掴みどころのなさそうな感じがネーチャンに似てたから。
そのまま駅前にあるスーパーでじゃがいもと安かった肉を買ってゆらゆらとのんびり家まで向かい、指定のチャリ置き場へいつものように自転車を入れようとしてふと見慣れた自転車が隣に入れられているのに気付いた。
朝からバイトつってたけどそんまま大学じゃねえの?
とりあえずその隣に自転車を入れながらスマホを取りだして時刻を見ればまだ午後の二時を過ぎたあたり。
ほぼ毎日このくらいの時間に家に帰ってきてる俺よりも先にネーチャンが家にいる事なんて滅多にない。ほぼ無い。
「たでーま」
鍵のかかっていない玄関の扉を開ければ、すぐそこの部屋の中から「あれ銀時?早くない?」と声が聞こえてくる。
「いつも通りだわ、つかそっちこそ早くね」
部屋に入るとネーチャンは朝見かけたカジュアルな服装じゃなく普段の部屋着に着替えていて、シャワーを浴びたのかほんのりと髪が湿っている。きっと今日はもう外に出ないんだろう。
「ちょっとサボりたくなっちゃって」
「⋯いんじゃね?」
ネーチャンみてえな真面目そうに日頃過ごしてるやつでも時にはンな時だってあんだろ、と納得した俺は着替えるためにすぐ隣の自分の部屋に入りカバンを置いて部屋着に着替えた。
そんで、机の棚から厚みのある四角い箱を手に取り今朝置かれていた五千円札を財布から取り出してそこに入れた。
毎月の頭に小遣いを貰ってるが、それはそもそもでここに住む時に施設だか市町村だかどこからかもらった金らしい。
それは甘ぇもんやジャンプ買うときに使ってるけど、今朝みたいに釣りのがでけーだろって金が置かれてた時はどうせネーチャンのバイト代から出てんだろうしそのうちまとめて返すつもりで全部使わずとってあった。
着替えて居間に戻ると、エプロンを付けながら狭い台所の前で髪を一本に結わえている後ろ姿が見えた。
「ねえ銀時これお肉もあるけど、肉じゃが?」
「食いたくなった」
俺の買ってきた袋を見ながらそう言うと冷蔵庫から玉ねぎや人参を出し「やっぱ弟かぁ」と笑いながら同じような肉をチラつかせてきた。
「肉じゃが作ろうと思ってお肉買ってたんだよね」
「⋯⋯いや普通そこまで買って芋忘れっか?」
「ん?まあ、そこはほら、気にしちゃだめ」
いや気にするだろ普通。
たこ焼きやるとか言って鰹節買い忘れたことがあったりはしたけどよ、流石に肉じゃがのじゃが忘れることあっか?ねえよ、ねえだろ。
半ば呆れた目を向けられてるなんて知りもしないネーチャンは、銀時の方が美味しそうだしそっち使おうかなと言いながら袖を捲り手を洗っている。
「そういやこれ落ちてたわ」
壊れた兎のストラップと新しく買ってきた羊のストラップを机の上に乗せると、手を拭きながら振り返ったネーチャンは驚きながらタオルを置いて兎の方を手に取った。
「てっきりバイト行く途中に落としたかなって」
「チャリんとこ落ちてたわ、壊れてっけど」
「なお⋯⋯これじゃ無理かな⋯」
酷く大事そうに見つめながら爪の先でツンツンと壊れた金具をつついている。ンなに大事だったならチャリに付けんなよ、と言えば「UFOキャッチャーで初めて取ったやつなの」と泣きそうに答えたネーチャン。
ネーチャンらしいといえばらしいけど、どことなく可愛らしい理由にまじかと思っていれば「これは?」と羊の方を手に取りながら俺を見上げてきた。
「それ付けときゃ変わんねーだろ」
「え、くれるの?」
「たまたま見っけたんだよたまたま」
ヅラに聞いてまで買ってきたのを隠した事が少しだけ恥ずかしく思えて頭を搔きながら顔を背けて「また壊れっかもしんねーけど」と続けると、ぺしっと背中を叩かれた。
「ありがと銀時」
「⋯いや、え?俺なんで叩かれてんの?」
「これ大事にするね」
「あ?おう⋯⋯いや俺なんで叩かれてんの?」
嬉しそうな声で礼を言うネーチャンを振り返れば、本当に嬉しそうな顔で羊を見つめて兎と一緒にエプロンのポケットに入れていた。
そのまま「少し煮込むから」と晩飯の肉じゃがを作り始めたネーチャンを見て、俺は俺で昼寝でもすっかと部屋に行き布団に横になればあっという間に睡魔に沈み意識が途切れた。
起きた頃には部屋は暗くスマホの時間は既に夜を指していた。
重たい目蓋を上げて欠伸をしながら扉を開けると、居間の机でパソコンを開きながら大学のやつなのか必死に勉強しているネーチャンが俺に気付いて「おはよ」と声をかけてきた。
はよ、と返事をして冷蔵庫からいちご牛乳を取り出し飲みながらその様子を眺めていると、筆記用具を入れているシンプルなペンケースには俺があげた羊のストラップが付けられていた。
22.10.27
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