弟は坂田銀時
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17の坂田くんと21の坂田さん(現パロ)
「銀時起きて!朝!学校!遅刻!」
「⋯風邪引いた」
「馬鹿は風邪引かない!」
勝手に人の部屋入って勝手にカーテン開けて勝手に布団を剥ぎ取るネーチャン。おかげで容赦ない日差しが目蓋越しに目をチカチカ刺激する。
「わたし今日これからバイトだから起きて早く」
「んな俺に構わず行きゃーいいだろ」
「アンタが休んだら私に連絡が来るの」
半分、いやほぼ寝てる目元をうっすら開くと面倒そうに眉間に皺を作りながら腕時計を見ているネーチャンの顔が見えた。
まだ寝足りねぇと体を横に丸めても「こら」と遠慮なく平手打ちされる背中がジンジンと痺れてくるわ服がめくれて外気に晒されてる腹はほんのり肌寒いわで、体の丸みに拍車がかかる。
「わーった、わーったって起きっから」
至極怠い体をやっとの思いで起こしながら閉じかける目で時計を見れば、まあ、完全に遅刻ラインだった。
「銀時のご飯置いてあるから、じゃ私行くね」
「ちゃんと鍵もってけよ」
「ちゃんと鍵閉めてよね」
それだけ言うとネーチャンはデカめのストラップが付いたチャリの鍵を手に取って忙しなく家を出ていった。
︙
「あー⋯」
歯を磨きながら鏡に映る自分の顔を見て、やっぱ休もっかなとかそういう気持ちがついチラついてきた。やる気のねえ顔。やる気のねえ頭。
どれだけ遅刻しようと欠席だけはせずになんとかここまで登校を続けられたのはネーチャンがいたからか。どこで生きてるかもわからねえ親の代わりにいろいろしてくれたネーチャンに面倒ばっかかけていても、裏切るような形で失望させたくはなかった。
ネーチャンが二十歳になってからは何かと目にする書類全てに記されていく坂田名前の名前。それを見る度に保護者という立ち位置を確認させられて、せめて高校くらいはなーと浅い気持ちもあったが多分ネーチャンに対してのソレが一番デカかった。
部屋に戻って制服に着替えてから居間に来ると、机の上にはシンプルな弁当箱が置かれ、隣には綺麗に切りそろえられたサンドイッチが乾かぬようラップで覆われていた。
〝帰りじゃがいも買ってきて〟
サンドイッチの上には、丸い字でそう書かれたよくわかんねえキャラのメモ帳と五千円が置いてある。
「⋯⋯何袋買わせる気だよ」
日頃デケェ額の買い物する訳でもねえから金なんてほぼ使わねえのに、何かあれば十分すぎる程の小遣いを直接渡さずあくまでおつかいの金として置いてくのもどうにかなんねえかな。
金を入れた財布と弁当を殆ど何も入ってない鞄に入れながらサンドイッチを頬張ると、ネーチャンがいつも作るほんのちょびっと甘いマヨネーズの味が口いっぱいに広がった。
サンドイッチを食べ終わって、傷だらけのチャリの鍵を持ちながらしっかり玄関の鍵をかけた。小さな部屋が二部屋と申し訳程度の居間と呼べるかどうかさえ危うい空間があるだけの賃貸。鍵もだいぶ渋くなってる気がする。
チャリ置き場に行くと、留め具が壊れちまったのか俺のチャリのすぐ横に見慣れたストラップが落ちてた。
「こんだけ目立つモン普通拾うだろ」
見れば見るほど気の抜けた顔をしているピンクのデカい兎のストラップ。これに気付かねえほど急いでた理由は一つしかねえかとすぐ頭に浮かび、次いで小さなため息が出て頭をボサボサ掻いた。
︙
学校についてほぼ寝ながら授業を受けて、気付けばあっという間に昼。起きろなんて注意する先生は一人もいなかった。
静かに決まった道を進めば、何代前の先輩方が壊したのか知らねえが屋上に続く扉の前。目の前の扉とさらに先にある扉の二つともノブが馬鹿になっていて、鍵なんてかかってない。簡単に屋上へ行くことが出来る。
屋上に出てすぐ横にあるブロックの奥から二つめ。いつもの場所に座って弁当を食べながらポケットに入れていたストラップを取りだしてしっぽの下に縫い付いている小さなタブに記された名前をスマホで検索すれば、同じ顔をしたネコやイヌなど兎の他にもいくつか動物が出てきた。
「なんだ銀時、女子にでもあげるのか」
「⋯お前いい加減勝手に人ん隣座るのやめてくんね?」
「いいではないかお前と俺の仲であろう」
「どんな仲だよ」
気付けば音もなく隣に勝手に座り始めたヅラ。
同じクラスで同じサボり率、極めつけは同じサボり場所。自然と他のやつよりは話すようになっていたヅラは、俺の膝に乗せていたピンクの兎をツンツンと指さした。
「随分と気の抜けた顔をしているなこの兎」
「姉貴んだわ」
「姉⋯あの可愛らしい女性か」
ネーチャンを見た事のあるやつは大体可愛いだとか綺麗だとか、まず第一にそう口にするやつが多い。俺と違って落ちるんじゃねえかってくらい目がパッチリしてて、俺と違って艶のあるストレートの髪。それでも一番目立つだろう髪の色が全く同じで、滅多に見ねえこの髪の色じゃ誰がどう見ても姉弟だとすぐわかるほどだった。
いつだったか髪色以外が違いすぎて疑ってた頃があったが、ネーチャンが大怪我して血が足りねぇってなって俺のを分けた事があった。あん時、あぁやっぱネーチャンだわって思ったのを覚えてる。
「お前これみてーなやつ売ってるとこ知らね?近場で」
「そういうのはだなSNSで調べ⋯ほら見ろ銀時、駅前の雑貨屋に売っているぞ」
こういうのに興味が皆無な俺よりも少しは詳しいだろうと丁度目の前にいたヅラに話を振れば、思ってた何倍もすんなりと答えが聞けた。
「んじゃ俺そろそろ戻るわ」
「嘘をつくな、どうせそのまま帰るつもりだろう」
「何も嘘なんかついちゃいねーよ、家に戻るんだよ家に」
午後は英語だったか?いや数学?覚えてねえけど毎日登校さえすれば許されるような緩い学校だし別にいいだろ。今に始まったことでもねえし。ヅラはほっといて足早に屋上を出た。
屋上からそのまま帰るつもりでいつも昼休みは鞄を持ち運んでる。家に帰んなら弁当なんていらねえかもしれないが、ついでだからと毎日用意してくれるネーチャンの弁当が好きだった。
下駄箱に踵が潰れた内履きを雑に入れてスニーカーに履き替え早々に校門を出ても、俺を見かける生徒はもちろん先生すら何も言って来ない。ぶっちゃけ高校くらいはとか思っていてもこの学校出てまともな道はきっと無いだろう。
家とは真逆の道をチャリでのんびり進みながら駅前の雑貨屋を目指した。留め具が壊れた兎の代わりのやつとじゃがいもと、あとは何もねえか、とりあえずその二つを買うために。
じゃがいもならポテサラか肉じゃが食いてえな。ネーチャンの作るやつうめえんだよな、肉買ってけば作ってくれっかな、なんて安直すぎる考えがガキみてぇだなと小さく笑えた。
22.9.21
「銀時起きて!朝!学校!遅刻!」
「⋯風邪引いた」
「馬鹿は風邪引かない!」
勝手に人の部屋入って勝手にカーテン開けて勝手に布団を剥ぎ取るネーチャン。おかげで容赦ない日差しが目蓋越しに目をチカチカ刺激する。
「わたし今日これからバイトだから起きて早く」
「んな俺に構わず行きゃーいいだろ」
「アンタが休んだら私に連絡が来るの」
半分、いやほぼ寝てる目元をうっすら開くと面倒そうに眉間に皺を作りながら腕時計を見ているネーチャンの顔が見えた。
まだ寝足りねぇと体を横に丸めても「こら」と遠慮なく平手打ちされる背中がジンジンと痺れてくるわ服がめくれて外気に晒されてる腹はほんのり肌寒いわで、体の丸みに拍車がかかる。
「わーった、わーったって起きっから」
至極怠い体をやっとの思いで起こしながら閉じかける目で時計を見れば、まあ、完全に遅刻ラインだった。
「銀時のご飯置いてあるから、じゃ私行くね」
「ちゃんと鍵もってけよ」
「ちゃんと鍵閉めてよね」
それだけ言うとネーチャンはデカめのストラップが付いたチャリの鍵を手に取って忙しなく家を出ていった。
︙
「あー⋯」
歯を磨きながら鏡に映る自分の顔を見て、やっぱ休もっかなとかそういう気持ちがついチラついてきた。やる気のねえ顔。やる気のねえ頭。
どれだけ遅刻しようと欠席だけはせずになんとかここまで登校を続けられたのはネーチャンがいたからか。どこで生きてるかもわからねえ親の代わりにいろいろしてくれたネーチャンに面倒ばっかかけていても、裏切るような形で失望させたくはなかった。
ネーチャンが二十歳になってからは何かと目にする書類全てに記されていく坂田名前の名前。それを見る度に保護者という立ち位置を確認させられて、せめて高校くらいはなーと浅い気持ちもあったが多分ネーチャンに対してのソレが一番デカかった。
部屋に戻って制服に着替えてから居間に来ると、机の上にはシンプルな弁当箱が置かれ、隣には綺麗に切りそろえられたサンドイッチが乾かぬようラップで覆われていた。
〝帰りじゃがいも買ってきて〟
サンドイッチの上には、丸い字でそう書かれたよくわかんねえキャラのメモ帳と五千円が置いてある。
「⋯⋯何袋買わせる気だよ」
日頃デケェ額の買い物する訳でもねえから金なんてほぼ使わねえのに、何かあれば十分すぎる程の小遣いを直接渡さずあくまでおつかいの金として置いてくのもどうにかなんねえかな。
金を入れた財布と弁当を殆ど何も入ってない鞄に入れながらサンドイッチを頬張ると、ネーチャンがいつも作るほんのちょびっと甘いマヨネーズの味が口いっぱいに広がった。
サンドイッチを食べ終わって、傷だらけのチャリの鍵を持ちながらしっかり玄関の鍵をかけた。小さな部屋が二部屋と申し訳程度の居間と呼べるかどうかさえ危うい空間があるだけの賃貸。鍵もだいぶ渋くなってる気がする。
チャリ置き場に行くと、留め具が壊れちまったのか俺のチャリのすぐ横に見慣れたストラップが落ちてた。
「こんだけ目立つモン普通拾うだろ」
見れば見るほど気の抜けた顔をしているピンクのデカい兎のストラップ。これに気付かねえほど急いでた理由は一つしかねえかとすぐ頭に浮かび、次いで小さなため息が出て頭をボサボサ掻いた。
︙
学校についてほぼ寝ながら授業を受けて、気付けばあっという間に昼。起きろなんて注意する先生は一人もいなかった。
静かに決まった道を進めば、何代前の先輩方が壊したのか知らねえが屋上に続く扉の前。目の前の扉とさらに先にある扉の二つともノブが馬鹿になっていて、鍵なんてかかってない。簡単に屋上へ行くことが出来る。
屋上に出てすぐ横にあるブロックの奥から二つめ。いつもの場所に座って弁当を食べながらポケットに入れていたストラップを取りだしてしっぽの下に縫い付いている小さなタブに記された名前をスマホで検索すれば、同じ顔をしたネコやイヌなど兎の他にもいくつか動物が出てきた。
「なんだ銀時、女子にでもあげるのか」
「⋯お前いい加減勝手に人ん隣座るのやめてくんね?」
「いいではないかお前と俺の仲であろう」
「どんな仲だよ」
気付けば音もなく隣に勝手に座り始めたヅラ。
同じクラスで同じサボり率、極めつけは同じサボり場所。自然と他のやつよりは話すようになっていたヅラは、俺の膝に乗せていたピンクの兎をツンツンと指さした。
「随分と気の抜けた顔をしているなこの兎」
「姉貴んだわ」
「姉⋯あの可愛らしい女性か」
ネーチャンを見た事のあるやつは大体可愛いだとか綺麗だとか、まず第一にそう口にするやつが多い。俺と違って落ちるんじゃねえかってくらい目がパッチリしてて、俺と違って艶のあるストレートの髪。それでも一番目立つだろう髪の色が全く同じで、滅多に見ねえこの髪の色じゃ誰がどう見ても姉弟だとすぐわかるほどだった。
いつだったか髪色以外が違いすぎて疑ってた頃があったが、ネーチャンが大怪我して血が足りねぇってなって俺のを分けた事があった。あん時、あぁやっぱネーチャンだわって思ったのを覚えてる。
「お前これみてーなやつ売ってるとこ知らね?近場で」
「そういうのはだなSNSで調べ⋯ほら見ろ銀時、駅前の雑貨屋に売っているぞ」
こういうのに興味が皆無な俺よりも少しは詳しいだろうと丁度目の前にいたヅラに話を振れば、思ってた何倍もすんなりと答えが聞けた。
「んじゃ俺そろそろ戻るわ」
「嘘をつくな、どうせそのまま帰るつもりだろう」
「何も嘘なんかついちゃいねーよ、家に戻るんだよ家に」
午後は英語だったか?いや数学?覚えてねえけど毎日登校さえすれば許されるような緩い学校だし別にいいだろ。今に始まったことでもねえし。ヅラはほっといて足早に屋上を出た。
屋上からそのまま帰るつもりでいつも昼休みは鞄を持ち運んでる。家に帰んなら弁当なんていらねえかもしれないが、ついでだからと毎日用意してくれるネーチャンの弁当が好きだった。
下駄箱に踵が潰れた内履きを雑に入れてスニーカーに履き替え早々に校門を出ても、俺を見かける生徒はもちろん先生すら何も言って来ない。ぶっちゃけ高校くらいはとか思っていてもこの学校出てまともな道はきっと無いだろう。
家とは真逆の道をチャリでのんびり進みながら駅前の雑貨屋を目指した。留め具が壊れた兎の代わりのやつとじゃがいもと、あとは何もねえか、とりあえずその二つを買うために。
じゃがいもならポテサラか肉じゃが食いてえな。ネーチャンの作るやつうめえんだよな、肉買ってけば作ってくれっかな、なんて安直すぎる考えがガキみてぇだなと小さく笑えた。
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